金剛義雄の君主論

@minesimaX

第1話 理想と現実の狭間で

自衛官なんてなるんじゃなかったと金剛義雄は常々思っていた。

仕事がきついとか、そんな理由ではない、暇なのだ。

ただ無為に過ごしていく日々が嫌なのだ。


金剛は陸上自衛隊の普通科に所属していた。入隊してもう12年になる。

18歳で入隊したての時はそれはもう心が躍った、厳しい訓練にも耐えることができた。やる気に満ち溢れていた。


陸自では新隊員の時、所属する職種を自分で選ぶことができる。

特科、武器科、需品科、通信科、機構科・・・・・そして、普通科

金剛は普通科を選んだ。

各職種の説明がされ、その時の普通科の説明はこうだった。

普通科は最もきつい部隊である。戦場では最前線で戦い、災害派遣の時には真っ先に向かう、米軍では戦場の女神と呼ばれ尊敬の対象となる部隊である・・・と


他の同期が次々と楽そうな職種を選ぶ中、金剛はこう思った。

「普通科こそ自分がなりたい自衛官像であり逆に他の職種を選ぶ奴は何で自衛隊に入ったんだ!」・・・・・と

その時、金剛は一から第三希望まで全部普通科と書いて上司に提出した。

それほどにやる気があったのである。


半年間の訓練が終わって普通科に入った。

そこで金剛は失望した。

あんまりにもやる気がないからである。そしてその理由はすぐに分かった。

やることがないのである。


それも当然、だって戦争が起きないんだから。

やることと言えば上司のご機嫌取り。

そこらの有名な部活の方がよくやるんじゃないかと思うような体力練成。

ひどい時には一、二時間走ったら終わりなんて時や

部屋の掃除をしたら終わりなんて時があった。

草刈り、掃除、筋トレがメインの仕事。

他には定期的に大会のようなものがあり

銃剣道大会、射撃大会、武装走競技会などがある。

それも、自分の番が終わればほぼ暇という有様であった。


唯一やりがいのある災害派遣はそうそうあるものでもなく

12年間で行ったのはたった三回である。

頑張っても給料は上がるわけでもなく基本年功序列なので早々に階級が上がるわけでもない。つまり頑張った分だけ損をするシステムができあがっていた。


最初は続けていれば見方が変わってくるかと思ったが何年やっても田舎の農家のようなのほほんとした雰囲気は変わることはなかった。

というより農家のおじいちゃんおばあちゃんたちの方がまだ働いているかもしれなかった。


金剛のやる気はガリガリと削られていった。

不思議なことで長く続けていると楽なのである。だからずるずると続ける。

そして気が付けば階級が上がり陸曹となりそれなりの居場所ができていた。


四月になり新隊員が入ってくる。

金剛の容姿は筋骨隆々で2メートル近くあり肌は日に焼け焦げ

頭に毛はなくいかにも怖い男である。

そのせいか新隊員達は一際声を張り上げ目を輝かせて挨拶をしてくる。

その姿に金剛はかつて入隊したばかりの自分を重ねてこう思うのである。


こんなはずではなかった・・と


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