おまけ
―――
僕の名前は高崎拓也。高校教師をしています。元教え子で彼女の千尋は今年二十歳になりました。
今日はめでたい事に千尋の誕生日。千尋の親友の桜さんとその旦那様で元同僚の藤堂先生を呼んで、僕の家で盛大にパーティーをしている時に千尋が不意に僕に訊ねてきた。
「ねぇ、拓也さん。」
「ん?」
「いつから私の事好きだったの?」
「ぶっ!……げほっ、ごほっ……何急に……」
「何となく。ね、教えてよ。」
身を乗り出してくる千尋に照れながら、桜さん達に聞こえないように小声で言った。
「一回しか言わないからちゃんと聞いて下さいね。」
「うん。」
「あれは……」
あれは大学三年の終わり。二つ上の兄が家を出た日だった。
実は僕の兄は親友の篤さんと付き合っていて、男同士だという事で隠れて会っていた。僕は聞いて知っていたが両親には言えずにいたみたいでずっと隠してきた。
でも我慢できなくなった兄は突然両親にカミングアウトし、それを聞いた父が激怒。その結果喧嘩になって兄が家を飛び出したという訳だった。
止めようと追いかけたけど兄は既にいなくなっていて、途方にくれた僕は近くの公園で時間をもて余していた。
「はぁ~……」
溜め息を一つつくと白い息が夜空に舞って消える。ブランコに腰をかけて項垂れた。
「どうしたの?」
上から声がして顔を上げるとランドセルを背負った小学生の女の子が僕を優しい目で見つめていた。
「あ、何でもないんだ。ただ、人を待ってるだけ。」
「人?」
「あぁ。君こそどうしたの?もう暗くなったから帰った方がいいよ。」
「お母さんの事待ってるの。」
「そう。同じだね。」
「うん、同じ!」
その子はぱぁっと笑顔を見せると僕の隣のブランコに座った。
「あのね、千尋のお父さんとお母さんね。離婚したんだって。だから一週間くらい前かな。この町に引っ越してきたの。」
「離婚……?」
「でもわたしお母さんと一緒に来たけど、お父さんはどこ行ったかわからないの。千尋、お母さんも好きだけどお父さんも好きだから……」
その千尋ちゃんは僕の方を見て悲しそうに笑う。僕は何て答えたらいいかわからなかった。
「お兄ちゃん。」
「……え?」
「元気ないの?大丈夫?」
「あ、そんな事ないよ。」
「ふ~ん……あ、わたしいい物持ってる。あげようか。」
「……何?」
顔を向けると千尋ちゃんはポケットをごそごそしている。そして何かを取り出して僕に差し出した。
「はい。」
「飴?」
「元気が出る魔法の薬だよ。」
「魔法の薬……」
「甘くて美味しいよ。」
千尋ちゃんは『はい。』と言って飴を差し出してくる。僕は茫然としたまま受け取った。
お礼を言おうと思って口を開きかけた時……
「千尋ーー!帰るよ。」
「あ、お母さんだ。じゃあね、お兄ちゃん。」
「あ、うん……」
母親に呼ばれた千尋ちゃんが僕に手を振る。僕は飴を握りしめたまま、その後ろ姿をいつまでも眺めていた。
―――
「……という訳なんです。」
「えー?あの時のお兄ちゃんが拓也さんだったの?」
千尋が心底驚いたというような顔で僕を見る。僕は少しムッとした。
「全然覚えてなかったんですね。遥さんの事もそうですけど忘れっぽいんですよ。」
「しょうがないでしょ。あの頃は家族で色々あったんだから。」
「そっか……」
そう言われて落ち込んだが、千尋が次に放った言葉に飛び上がった。
「でもさ……拓也さんってもしかしてロリコン?」
「なっ……!」
「だってあの時私12才とか13才でしょ?で、拓也さんは二十歳過ぎてた。という事は……」
「いや、違うから!あの時はただ可愛い子だな~くらいにしか……」
そこまで言って固まる。千尋がニヤリと笑った。
「やっぱりロリ……」
「違うんだぁぁぁぁ!!?」
僕の叫びが静かな夜に谺した……
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【再編集版】高校生 琳 @horirincomic
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