第13話 月下の薔薇の誓い
屋敷に帰った後、機体との同期の件をお嬢様から聞いたセラスに涙ながらに怒られた。
その後は、初めて会った時のように抱きしめてくれた。今日は俺じゃなく、セラスが泣いていたけれど。
「貴方はもう、私にもお嬢様にも、かけがえのない大切な存在なんです。だから、自分を大切にしてください。」
俺は、そんなに自分を粗末に扱っていたのかな……お嬢様の為なら俺は命を懸けられる。お嬢様に拾われた命だ。お嬢様の為に使わなければ嘘だろう。お嬢様の為に死ねた時が、お嬢様に恩を返せた時だろう。
そう思ってた……それなのに。
どうすれば、良いのだろう。
➖➖➖➖➖
夕食も風呂も終わり、屋敷は静かに眠りについた。
「少し風に当たるか…」
ロリエが管理している庭に出る。
赤い薔薇と白の薔薇が、この庭には植えられている。
「確か、赤が美貌。白が純潔。だったような…ピンクの薔薇でもあればお嬢様にピッタリなんだけれども。」
なんせ、花言葉は……。
「異世界の花言葉ですの?」
庭に備え付けられたガゼボに、お嬢様が居た。
「…お嬢様。はい、そうです。と言っても、そこまでは詳しくないのですが……」
「そうですか。では、ピンクの薔薇の花言葉は何ですの? ピッタリ、なんて言われてしまったら私、気になりますわ。」
「え。あー…えっと、その……。」
「あら、本人には言えないようなヒドイ花言葉ですの?」
「いえ!決してそのような言葉ではなくてですね!その……可愛い人、という意味でして……。」
「ふぇっ!?///……そうなんですわね…///。少し気恥ずかしいですが、悪くない気分ですわね。それに、そういう意味なら男の人が覚えていても不思議じゃありませんわね。」
「え…? あ、いや、その、お嬢様に対してそのような感情が無いと言ったら嘘になりますけれど、でも、あの、身の程は弁えていますので、気になさらないでください。」
「それは、私が伯爵家の娘で主人だからですか?それとも命の恩人だからですか?」
「え?えっと…急にどうされたのですか?」
「答えてください。」
「えっと…両方、ですね。こっちでも貴族は貴族同士で結婚する事が多いと聞きましたし、命の恩人であるニーナ様に仕える事が出来ただけでニーナ様からは沢山恩というか何というか…その、色々貰いすぎだと思うのです。なのに、これ以上迷惑かけるような事は出来ませんよ。」
「私がもし、命の恩人でなかったら。貴方はどうしていましたか。」
「その『もし』はあり得ませんよ。その時には俺は死んでいますからね。」
「……いえ、あるんですわ。貴方は私が、家にいきなり現れた謎の男を屋敷の警備から庇った命の恩人だと思っていると思いますわ。けれど、貴方を……貴方をこの世界に呼んでしまったのは私なのですわ!! 扉の向こうから勝手に喚んで!! 勝手に命の危険に晒して!! 挙句に帰す手段も失って!! 私が勝手に喚ばなければ元の世界で普通に生きられたんですわ!! なのに…命の恩人のフリをして、貴方を執事にして、命までかけさせて…」
「お嬢様……貴女は間違いなく、俺の命の恩人です。俺はこの世界に来る前は自分の世界で遭難していたんです。貴方がこの世界に喚んでくださらなかったら、俺は9割方死んでいました。それに、お嬢様の執事になれて俺は嬉しかったんです。俺が命をかけるのは、
お嬢様が命の恩人だからだけじゃありません。お嬢様の事を好きだから、命をかけるんです。お嬢様の為なら、何でも出来ます。だから、お気になさらないでください。」
「私の為なら何でも……。イオリ、その言葉に偽りは有りませんか?」
「はい」
お嬢様は机の上に赤白一本づつの薔薇を置いた。
「この世界の花言葉を教えて差し上げますわ。赤い薔薇は愛情。白い薔薇は忠誠。イオリ、この薔薇に誓って頂けますか? 」
「もちろんです。お嬢様。」
俺はその場で最敬礼を行う。
「…ニーナ、と呼んでくださいまし。」
「…わかりました。薔薇に誓います、ニーナ。」
「ふふっ…ちなみに、月下の薔薇の花言葉は意味が変わるんですわ。月下の赤い薔薇は永遠の愛。そして、月下の白い薔薇は共に生きる。意味はわかりまして?」
そう言ったお嬢様が指差した空には、綺麗な満月が輝いていた。
異世界で俺は、お嬢様の為にロボットに乗る イータ提督 @happuru
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