第12話 サイドクローの欠陥

テストフィールドを、獣形態の4号機が駆け抜けていく。


「獣形態の4号機の機動性は1号機に比べても、遜色ないですわね。」

「そうじゃのう、だがのう……」

「人型形態の時の取り回しの悪さが難点、ですわね。」


獣形態の際に前脚部となるサイドクローが、人型形態の際に大きな障害となった。


端的に言えば、デカすぎた。


近接武器にも、盾にもなるサイドクローは人型形態での戦闘において大きなアドバンテージとなるはずだった。実際その通りだったのだが、長距離戦闘で問題は起こった。巨大な兵装を搭載する4号機の人型形態での機動性はハッキリ言って悪い。

機動性の低い機体は、長距離からの狙撃や爆撃を避けることが難しい。

それを避けるため、サイドクローにスラスターをつける案もあったが、それではサイドクロー自体が脆弱になる。かと言って、装甲を増やせば獣形態での機動性が落ちる。

試作4号機開発チームは、見事にジレンマに陥ってしまった。


「選考会までにどうにかしなくてはいけませんわね……」

「申し訳ねえ、主任。なまじ俺がAランク適正者なばかりに……」

「どういう事ですか?」

「ああ、イオリ。Aランク適正者はOSとの親和性が高いってのは前話したよな。で、親和性が高いほど自分の身体のように動かせるんだが、逆に言えば自分の身体に無い部位は動かすのに慣れが必要なんだ。四足歩行は1号機で慣れたんだが、どうにも腕が四本っていうのは慣れないな。」

「なるほど、でもそれが4号機の機動性とどう関係してくるんですか?」

「イオリ、それはですわね。サイドクローを自在に動かす事が出来れば、アレは脚にも腕にもなるんですわ。それが出来れば人型形態でも1号機に近い機動性を得られるんですけれど……」

「俺は通常の人型に慣れ過ぎてしまってるんだ。」


という事はつまり……


「お嬢様、大型魔導兵器に乗るには何か免許みたいなものは必要なのですか?」

「いえ、ありませんわよ……って。イオリ、貴方もしかして。」

「無理かもしれません、ですがお嬢様のお力になれる可能性があるなら試してみたいのです。もちろん、素人に大事な機体を預ける事が難しいのはわかります。どうか、お許し下さい。」

「もう…わかりましたわ。ですが、無茶はしないでくださいませ。」

「ありがとうございます、お嬢様。」



➖➖➖➖➖



「さあ、呉井伊織。男の見せ所だぞ。」


試作4号機のコクピットに乗り込み、呟く。


「坊主、まずはOSとの同期じゃ。これが出来なきゃ、そこから降りてもらうぞい。」


オズワルドさんの声がコクピットの外から聞こえる。

おそらく、この場にいる全員がここでつまずくと思っている。俺だってそうだ。でも、やらなきゃいけない。


お嬢様の為に。


----OS起動開始。

----パイロットとの同期を開始。

----親和率82% Aランク

----同期完了。


「Aランク……か。良いのか悪いのか。」


幸先は悪く無いが、先程の話を聞いた後では喜べない。


「坊主、同期は出来たみたいじゃな。まずは機体に体を慣らすんじゃ。」


「機体に体を浸透させるイメージって言ってたな……」


ベネディクトからのアドバイスに則り、体を慣らしていく。

試作4号機の隅々までが自分の体のように感じる。サイドクローやその他の兵装まで、自分の体に思えてくる。

このままの感覚でなら動かせる。

コレは俺の体だ。コイツは俺だ。俺の名前は試作……


「イオリ!!!!!!」


お嬢様の声で意識が覚醒する。

今、恐ろしいことが起きていた気がする。


「大丈夫です、お嬢様。意識はハッキリしています。サイドクローも自在に動かせそうです。このまま試験に移りましょう。」


「ダメですわ!!! 貴方は今、試作4号機に呑まれかけていたんですわよ!!!開発主任として、貴方の主人として、貴方をこれ以上乗せるわけにはいきません。」


「な………わかりました。オズワルドさん、コクピットから出るの手伝ってくれますか?」


コクピットを降り、お嬢様の隣に戻る。


「イオリ、無茶をしないでと言いましたわよね?」

「あの、お嬢様、無茶と言うほどでは……」

「自我が呑まれる寸前まで機体と同期する事を無茶と言わずに何を無茶と言うんですか!!貴方はもう少しで死んでいたんですわよ……」

「も、申し訳ありませんでした。」

「もう…。皆さん! 今日はもうお開きにしますわ! 詳しい指示は明日出しますので、それまで好きになさっていてくださいまし!」


「イオリ、貴方を補佐役の任から解きます。貴方は少し私に対しての忠誠を履き違えていますわ。少し頭を冷やしてくださいまし。」



俺は頭が真っ白になった。


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