第2話 シルバリオ

「よし、出来てるぞ。これでアンタも晴れて冒険者ってわけだ。」


 昨日、僕が冒険者ギルドに持ち帰った琥珀アンバーの原石は、金色に輝く小さな首飾りへと加工されていた。


「石をよく見てみな。ソイツは当たりだ。」


「当たり?」


 親父に促され石をよく見てみると、小さな虫が閉じ込められていた。甲虫のようだが、みる角度によって微妙に色が違って見えた。


「七色コガネだよ。琥珀アンバーにアントが入っているのは珍しくないが、七色コガネは滅多に見かけないんだ。だから当たりだ。」


 親父が言うには縁起がいいらしい。そういうものなのか。まぁ縁起が悪いよりは良い方がいい。


 そうして僕はそれを首にかけ、琥珀アンバーの冒険者となった。


 冒険者は、その功績などからランク分けされている。そして、そのランクに対応した鉱石やら宝石の首飾りを身に付けるのが慣習になっているのだ。つまり、琥珀アンバーの冒険者はその最低ランク、駆け出しも駆け出しというわけだ。

 そして琥珀アンバーの原石を近くの比較的洞窟に取りに行くのが、冒険者ギルドの登録試験とされている。


「あと、これに名前と種族名を書いてくれ。名簿に載せる。種族は……見たところ俺と一緒だよな? じゃ、人族って書いておいてくれ。」


 僕は言われるままに書類に記入した。


 名前――シルバリオ

 種族――人族ヒューマン


「シルバリオか、よしこれで登録完了だ。」


「依頼を受けたい時はそこの掲示板に貼ってある依頼書を受付まで持って来てくれ。一応難易度に応じて推奨ランクが記載してある。まぁ、慣れないうちは推奨ランクが琥珀アンバーのやつを受けるといい。間違ってもギベオンとかレッドベリルのやつは持ってくるなよ。いちいち貼り直すのが面倒だからな。」


 受付の親父は、冒険者ギルドの入り口を挟んで、受付とは反対側にある木製の掲示板を指差していた。高すぎるランクのものは受けるだけ無駄ってことか。遠目から見てもかなりの件数の依頼があるようだった。


「分かりました。」


 そう言って掲示板の方に歩き出そうとした時、親父が思い出したように僕を呼び止めた。


「あーアンタ!そういや、まだ渡してないもんがあった。待ってくれ。」


 そう言うと親父は奥から小さな布袋を持ってきた。そういえば、琥珀アンバーの原石と一緒にコボルドの耳を渡していたんだった。討伐指定されているモンスターについては、そのモンスターを倒した証、つまり耳やら指やらを冒険者ギルドに持ち込めば報奨金が支払われることになっている。

 ちなみにゴブリンは一体あたり1ゴールド。1日の食費に足りるかどうかってところだ。1日1ゴブリンで一応生きてはいけるだろう。

 さて、コボルドではいくら貰えるんだろうか。3ゴールド? いや、5ゴールドくらいは貰えるのだろうか。


「そら、無駄遣いすんなよ。」


 そう言うと、親父はジャラリという小気味のいい音をさせながら小袋をカウンターに置いた。


「コボルドの分は10ゴールドだ。アンタの持ってきた耳からするとまだ子供ってとこだからな。それからあと、琥珀アンバーの試験達成報酬で10ゴールド。ま、新米冒険者に与えられる支度金ってとこだよ。」


 どうやら、同じモンスターでも報奨に差があるようだ。大型になれば危険度も増す……当然か。

 しかし、それでも思ってたより報酬は多かったな。素直に喜んでおこう。

 全身装備を買い換える……には全く足りないが、手持ちと合わせれば100ゴールドくらいはある。回復薬ポーションを買った上で、武器を新調するくらいは出来るだろう。今の装備はなかなかに新米冒険者らしいもので、斬れ味をどこかに置き忘れた短剣と、コボルドの爪痕が痛々しい革鎧レザーアーマーだ。ヘルムも持っていなければ小型のバックラーすら持っていない。


 僕は小袋の中身を確かめると、腰の収納袋に小袋ごと報酬を突っ込み、掲示板の方へと歩いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Dragons&Blood 伊織 @iori0820

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る