Dragons&Blood

伊織

第1話 琥珀の冒険者

 人の断末魔では無かった。それは、今まで聞いたことのないような、甲高い……それでいてどこか不安にさせられるような呻き声うめきごえだった。


「何が、初心者向けの洞窟のなので、ゴブリンくらいしかいません……だ……。」


 僕は短剣に着いた血を振り払いながら、冒険者ギルドで受けた説明を思い出していた。洞窟の最奥にいたのは、ゴブリンではなくコボルドだった。

 出会ったのは初めてだったが、聞いていた外見にピタリと当てはまった。犬だか狼だかの眷属で、知能もそこそこ高い二足歩行のモンスターだ。また、粗雑なものではあるが武器やら防具やらを扱うことで知られている。


 実際、そのコボルドは武器を手にはしていなかったものの、革鎧を着込んでいた。なまくらな短剣でよく倒せたものだと、自分でも驚いている。


 ゴブリンとは何度か戦ったことがあった。この辺りのゴブリンは、小さい上に知能も低く弱い。人間の大人なら素手でも倒せてしまう程だ。

 しかし、コボルドは個体数が少なく、出会う確率は低いものの危険だと聞いていた。ベテランの冒険者でも、油断していると命を落とすこともあるとか。

 ただ、相対したコボルドは、聞いていたよりも弱かった。あるいは、何かしらの理由で弱っていたのかもしれない。鎧の上から引っ掻かれはしたものの、結果的にはほぼ無傷で倒すことができた。

 もし、武器でも持っていようものなら、ここで死んでしまっていてもおかしくはなかった。まぁそれでも、生きていたんだからまぁいいかと思い直すことにした。


 倒したコボルドは、僕が切り裂いてしまった革鎧を除けば何も身につけていなかった。運が良いとゴールドやアイテムを持っていることもあると聞いていたが仕方がない。

 とりあえず耳を切り取って布切れで包み込んで腰にしまった。ギルドに持っていけば幾らかの報酬に変わるだろう。


「えっと、この石を持ち帰ればいいんだな。」


 洞窟の奥には、たしかに琥珀アンバーの原石らしきものが、ゴロゴロしていた。その中から一際大きそうな物を、コボルドの耳をしまったのとは別の腰の収納袋にぎゅうと詰めた。そして、僕は明るい方向へときびすを返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る