04

 暗い、夜道。

 幾星霜いくせいそうとは言うまいも、沢山の星が夜空に散らばっている。都会にしてはよく見えている方だろう。

 やはり、冬の空気は澄んでいるそれでいて寒い。

 ダウンにマフラー、オマケに手袋まで着けたのは白乃のお節介だ。

 おかげでさっき出かけた時よりかは、幾分か寒さは和らいでいる。


 ほぼ人気のない深夜の街並みを、足を狭めながら歩いていた。

 見慣れた住宅街も夜になれば変わるものがある。どうにも不思議なくらいにそう感じてしまい、どうすれば良いのかという気持ちにもてあそばれる事も少なくはない。

 ……暗いとより一層、心がうずく。


 こんな事も処理できない不器用さは、昔から自分でも嫌悪感を抱いている。

 昔、白乃がこんな事を言っていた。


 たしか、あれは──。

 そう思考しかけた時、踏切の向こう側に10歳位のが見えた。


「──────」


 ゆっくりと足を踏み出し前へと進む。やがて踏切の中心部で少女とすれ違う……。

 黒い髪、月明かりを反射させ舞っている。

 スッと吹き抜けた冷気が骨を軋ませる。

 そっと────その風に乗るように少女は私に近づいた。


「やはりアナタはいわく付きのようね……」

 

 思わず思考が停止する。

 身体中に悪寒が走った。ざわりと鳥肌が立ち、払いのけたくなるような嫌気が差す。


 這い上がってくるソレを、私はジッと堪えるしかなかった。ゆっくり確実に、私の身体のどこかを目掛けて這い上がってくる。

 ソレは腹部を通過して、心臓を包み込む様に這いずり回って……左眼の手前で、消滅した。

 スッと何かが消え去り、私は地面に倒れ込んだ。

 少女の言葉が沈黙を破る。


「……震えているの、寒いのかしら?」


 ──違う。

 言おうとしたが動かなかった。口だけじゃなく、身体まで。

 寒さで震えているワケではない……。もっと精神的なもの、恐怖。


 私と少女を照らしていた月明かりが、分厚い雲に覆われる。残光は等間隔に並んだ街灯だけ。


「ふん……。今日はここまで。楽しかったわまた遊びましょ、


 少女はそう言って、ゆっくりと歩き出す。

 ほどなくして、私は立ち上がって踏切内から抜け出した。

 振り返るとそこはただ闇があるだけ。


 ──ポツリと降り出した雨に私は感傷されるしかなかった。

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戀の独言 時雨 茉莉花 @sigurematurika

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