バレンタインチョコを渡そうとしていて、誰かを呼び出して、その誰かに殺された?

 それとも、恋敵に殺された?

 なんにせよ、自殺ではなさそうだ。凶器であろう雪球も転がっている。


 なんというベタな話だろう、雪球で殺して、チョコレートは食べて、それでおしまいにするつもりか。だが残念だったな、私が見付けてしまったのだ。私の家から殺人現場へと続く足跡を。


 私の家、といっても、古い集合住宅である。

 もともとは一軒家だったらしく、敷地に入るところに表札は出ているが、大家は住んでいない。


 私は来た道を引き返し、1階の住人の仕業なのか、2階の住人の仕業なのかをたどろうとした――ところで、後ろから殴られ、意識を失った。




 目を覚ました私が見たものは、死体だと思い込んでいたあの人間にそっくりの、小さな女の子と、その両親に見える1組のカップルだった。


「すみません、探偵ごっこをしようと娘が言い出して、私たちちょっと悪ノリしちゃったんです。警察まで呼ばれたようだったので、あなたに倒れてもらおうと思って、殴りました。致命傷ではないと思うのですが、慰謝料はお支払します」


 そういう問題じゃない。


 私は大声で怒鳴りたかったが、むすっとしたまま、相手から渡された白紙小切手に金弐千萬の文字を書いて、ぴらぴらと振ってみせた。

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「雪についた足跡をたどってみたら」 天照てんてる @aficion

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