今の僕、昔と比べてどう見える?
「よし着いた。好きなだけ買ってやるから安心して。」
駐車場で車から降りる僕たち。実はお菓子売り場はいまだにわくわくする。ちょっと子供かな。
阿部さんは僕の頭を何度も撫で、僕は制止するかしないかの寸前で手を止めている。非常に恥ずかしいが、向こうの気持ちを遮るようなことは最大限しないようにしたい。
「自分のお小遣いくらい貯めてるよ。」
祖母の家の畑手伝いをして貯めたお金だが、贔屓しないようにとは常々言っており、あまり上手くできなかった場合は減給を申し出たりしたものだ。
自分の小遣いから出すと言っても阿部さんは払いたそうな顔で接してくる。
「こういうのはこっちが払いたくなるもんなんだよ。だから安心して。」
僕は個人的に誘っても出すし、誘われても出すのだが、ネットなどを見るとそっちが払えこっちが払えと言い合っている。阿部さんもそうなのかな。
もしかして自分は詐欺られやすいタイプ?と考えてしまう。いや、募金詐欺に騙されたこともあるのでそうなんだろう…。
「うん…ありがとう…まだこういうの慣れないや…。」
「ひでは優しいね。その気持ちだけで十分だから。」
「あ!でも、阿部さんにも何か選んでぷ、"ぷれぜんと"するから。」
顔を赤くしてパーカーポケットに両手を隠し、初めてのことに挑戦する意思を見せると彼はいきなり抱きついてきた。
「あぁ~~~本当に偉い!偉いよ!可愛いよ!」
「ちょ…ちょっと…」
別にだれかが見ているわけじゃないが、店内で視線に刺されるような行動だけは注意したい。本当に不安なので。
(頑張れ僕。)
店内に入ると、そこは平日なのに混んでいた。カップルや女性客が多かった。恥ずかしかったが周りは僕たち男二人のペアに対して何とも思っていないようで少々不可解だった。
「ひで行こうか。あっちはグミが並んでる。重さで値段が決まるから重いやつから選ぼう。ま、ひでのためならいくらでも出す。」
後半カップルの客を横目に見ながら自慢気に話していた。あぁ…恥ずかしい。
重たい物から選ぶのは何故だろうか。彼にしか分からないんだろうか。と思いながら僕たちはグミの方へ並ぶ。
「あっこれ…。」
姉が食べていた物だ。グミに粒々のアメか何かをつけてラズベリーみたいにしたお菓子。どんな味がするのか気になっていたので阿部さんにはこれを頼もうと思う。案外美味しそうだったし、自分も好きになると思う。
彼を呼ぼうと振り向いた瞬間、明らかに心の鼻の下が伸びており、待ちに待っていたかのような顔をした彼が視界に入った。まるで孫を見るような顔じゃないか。
(これ頼んだらはしゃぎまくって目立つやつだよね…)
「えっと。阿部さん」
「うん。」
とてもつもない快楽の表情で僕の注文を待っている。彼も僕のことを知りたいのだろう。この前情報を与えたじゃないか、お菓子の好み以上の情報を。
「あー…何でもないよ。あっそうだ。阿部さんも何か欲しいのある?」
なんとか切り返した。ここで落ち着いて考え込んでくれ孫を見る爺さん。
「そうだなぁ…長い紐になったグミが欲しいな。家で咥えながら仕事するんだよね。」
「分かった。ぼくが探してあげ…あっ…。」
この言葉、地雷でしかない。
「ありがとお~~」
彼は幸せを噛み締める表情で礼を言う。さすがにこんな所で大声は出さないが会話の内容は聞かれただろう…。引かれてるかな…。
そう考えていて無口になった矢先、彼は落ち着いて僕に話しかける。
「ひで。遠慮しなくていいから。ここはそういう場所なんだよ。」
「そういう場所?」
「うん。ひでが気を遣うだろうと思って、気にせずに買い物ができる場所なんだよ。よく周り見てみ。」
そう言われると、僕は周りをよく見渡す。すると、男同士で来ている人が二組、いや四組はある。女性同士のペアルックまでいた。
「ね。分かったろ。ここでは安心していいから。」
僕は周りの視線ばかりを気にかけて、阿部さんに本当の気持ちを表していなかったことに申し訳ないと思った。
空気を一新させ、正直な気持ちで動こうと思う。これから段々と心を許していける関係になれるといいな。こう考えてもまだ僕の胸の奥底にいる小川さんが僕の心を少しずつ締め付けてきているけど。
「ごめん。なんか勘違いしてたみたい。僕これ、これが欲しい。いいかな?」
「おう!任せときなさい!」
「ちょっと待ってちょっと待って入れすぎ!」
ー今の僕、昔と比べてどう見える?ー
二つ目の夜空 泉 直人 @emp00
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