どちらがお好み?

タッチャン

どちらがお好み?

自動ドアが開くと短いメロディーが流れ、一人の客が入ってくる。

その音に反応してウチダは叫ぶ。

「いらっしゃいませー!」

コンビニ定員のウチダはレジの後ろの上の方に掛かっている丸時計を見た。

時計は16時15分を指していた。

(アイツが来る時間だ。)

ウチダは心の中で呟いた。

店内にメロディーが響き渡り、彼は自動ドアに視線を向けた。

(やっぱり来た。毎日同じ時間だな。)

心の中で呟くと同時に叫ぶ。

「いらっしゃいませー!」

時間きっかりに来るこの客はウチダにとって興味の対象であり、いい時間潰しになる相手だった。

(相変わらず、すげぇでぶだな。)

このでぶの客は買い物カゴを持つと様々な物をカゴの中へ放り込んだ。

チョコレート、炭酸ジュース、ポテトチップス、

弁当を4つ、カップ麺3つとアイスをバサバサとカゴの中へ落としていく。

(どんだけ食べるんだよ。)

ウチダはレジの前に立ち、客を迎える準備をしていた。

でぶの客はレジに向かい、山盛りになったカゴを、

ウチダの前に置いて言った。

「すみません、あと唐揚げさんを2つ下さい。

 それと26番のタバコ1つお願いします。」

ウチダは後ろを振り反って26番のタバコを取り、手にアルコール消毒を吹き掛けて揚げ物コーナーから唐揚げさんを取り出す。

「いつもありがとうございます!」

ウチダは商品をスキャンしていきながら話し掛ける。

「毎回唐揚げさんを買ってくれるのお客さんだけで

 すよ。他のお客さんは新商品ばかり頼むんで、

 上の人間が唐揚げさんを廃止にするかなんて言っ

 てるんですよー。俺は反対してますけどねー。」

でぶの客は笑顔で言った。

「ここの唐揚げさんが一番美味しいんですよ。

 ついつい食べちゃうんですよね。お陰でこんなに太

 っちゃって、どうしたもんか。

 …いいですよね…定員さんは。細くて。イケメンだ

 し、女の子からモテるんでしょ?」

「いやいや全然ですよー!まぁ彼女はいますけど、

 モテはしないですよー。お客さんは──」

(やべっ、聞くのまずいだろ。こいつに彼女とか

 いねえだろ。気まずい空気になっちまう。)

「お客さんは……こちらのお弁当温めますか?」

「……………結構です。」


ウチダの興味の対象が自動ドアから出ていくと隣のレジにいたバイト仲間は彼に近づく。

「なぁ、アイツすげぇ体だよな。でも綺麗なスーツ

 着てるし、ピカピカの靴も履いてるしで、アイツ

 金持ちなんじゃね?あのスーツなんて絶対、

 オーダーメイドでしょ?てか、お前の女に似てる

 な。体が。」

「うるせーよ。自分に彼女がいないからって僻むな

 よ。まぁ確かにあのすげぇ体を維持するのは金持

 ちの証拠だよな。」

次の日もきっかり16時15分にウチダの待ち人が来ては、いつもと同じ動きでカゴの中へ商品を放り込む。ウチダもいつもと同じ動きで商品をスキャンしながら話し掛ける。

「唐揚げさんお取りしますか?」

「あっお願いします。後、26番のタバコも。」

「そういえば、オーナーから聞いた話ですけど、

 なんでもここのコンビニの社長が、唐揚げさんの

 廃止を撤回したとかなんとか。です。」

「あぁそれは有難いですね。これからも買わして頂

 きます。あっ、弁当の温めはいらないです。」

「わかりました!お会計4千850円です!」


次の日、ウチダは恋人と遊ぶ為、待ち合わせ場所の喫茶店でコーヒーを飲んでいた。

「ごめんね!ウッチー。待った?」と彼女。

「いや、今来たとこだから。」と彼。他愛もない会話をしていると窓ガラスの向こう────────

喫茶店の向かい側の通りでウチダの思い人、でぶの客が歩いていた。ウチダは目を疑った。

何故なら客の隣にはモデルの様な美人が、客に向かって優しく微笑み、腕を組んで歩いていたからだ。

ウチダはその様子をずっと見ていた。

その光景を見ていた彼女は笑いながら言った。

「ねぇ、ウッチー、あの人すごいでぶだよ。」と。

彼は間を置かずに言った。「お前が言うなよ。」

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2

「いいですよね…定員さんは。細くて。イケメンだ

 し、女の子からモテるんでしょ?」

「いやいや全然ですよー。まぁ彼女はいますけど、

 モテはしないですよー。お客さんは──」

(やべっ。聞くのまずいだろ。こいつに彼女とか

 いねえだろ。気まずい空気になっちまう。)

「お客さんは…こちらのお弁当温めますか?」

「…………………結構です。」


ウチダの興味の対象が自動ドアに近づいた時、

隣のレジにいたバイト仲間がウチダに言った。

「アイツ、すげぇでぶだよな!今日もカゴ山盛りだっ

 たじゃん!金持ちの証拠でしょ?」

ウチダは焦る。(コイツ声でけえんだよ。)

「おい、あの客に聞こえるだろ。やめろよ。」

只でさえ、最近はテレビでコンビニ定員の不祥事で盛り上がっているのに、ここで、それも自分たちが当事者になるのはウチダにとって勘弁願う所だった。

自動ドアが開くと響き渡るメロディーは鳴らず、

でぶの客はくるりと向き直り、彼らに向かって歩き出した。そして言った。額を汗で光らせながら。

「確かに僕は金持ちですよ。貴方達が一生懸命働い

 てくれるから。それは何故でしょう?何故なら、

 僕はここの最高責任者だからです。

 貴方達の処分はゆっくり考えますよ。」

そう言うと、自動ドアの方へ歩いて行く。

ウチダは固まって動けなかった。言葉も出なかった。

でぶのきゃ─ここの最高責任者はまたくるりと向き直り、ウチダの目を見据えて言った。

「僕には結婚して15年の妻が居ますよ。

 それでは、また唐揚げさんを買いに来ますよ。

 イケメンさん。」

でぶのき──最高責任者は言い残して出ていく。



どちらの終わり方がいいかは読んで頂いた方に任せるとしよう。

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どちらがお好み? タッチャン @djp753

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