「ごちそうさまでした」


目の前に置かれたどんぶりはすっかり空。

湯呑みも同じようにもうすぐ空になろうとしていた。


結論から言えば、ここにおいてもらえることになったのだ。


『他に頼れないってことは身寄りもないんだろうし。ついでに見つかるまでここにおいてあげれば?』



必死で頭を絞っていたあたしを見て鈴代は言った。

山吹は快く賛成してくれた。



鶯は怪訝そうな顔をしたけれど、朝陽が「何かあったら俺が責任をとる」って頭まで下げてくれたおかげでなんとか許してくれた。


どこの誰かも分からないあたしを拾ってくれたんだ。


「へぇ、ずいぶんいい刀だな」


気づいたときにはあたしの刀は山吹にさらわれていた。



「あ、ちょっと、返してよ!」




「お前、武家の出身だろ?」



「…え」


刀を取り返そうと忙しなく動いていた手が思わず止まる。


だって


「これはただの流浪人が持てるような代物じゃない」


山吹の言う通りだったから。



「なんで分かるのさ」


聞けば彼も武家の出身らしい。

でも、なんで…


「情けない奴だと思ったか?武家のくせに武士になれねぇのかって」


冗談で言ってるのか、本気なのか…

分からないのが一番怖い。


「別に、あたしは、そんな」


「そんな慌てるなよ、冗談だって」


冗談。

彼の性格を考えれば分かったことだ。

一枚上手をいかれたようで悔しい。


「…でもここは、そういうやつばっかりだ」


だけど、山吹がそう密かに呟いたのを聞き逃さなかったから、きっとあたしたちは互角だ。

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百鬼の番人 八重子 @yaeko_kaku

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