捌
「ごちそうさまでした」
目の前に置かれたどんぶりはすっかり空。
湯呑みも同じようにもうすぐ空になろうとしていた。
結論から言えば、ここにおいてもらえることになったのだ。
『他に頼れないってことは身寄りもないんだろうし。ついでに見つかるまでここにおいてあげれば?』
必死で頭を絞っていたあたしを見て鈴代は言った。
山吹は快く賛成してくれた。
鶯は怪訝そうな顔をしたけれど、朝陽が「何かあったら俺が責任をとる」って頭まで下げてくれたおかげでなんとか許してくれた。
どこの誰かも分からないあたしを拾ってくれたんだ。
「へぇ、ずいぶんいい刀だな」
気づいたときにはあたしの刀は山吹にさらわれていた。
「あ、ちょっと、返してよ!」
「お前、武家の出身だろ?」
「…え」
刀を取り返そうと忙しなく動いていた手が思わず止まる。
だって
「これはただの流浪人が持てるような代物じゃない」
山吹の言う通りだったから。
「なんで分かるのさ」
聞けば彼も武家の出身らしい。
でも、なんで…
「情けない奴だと思ったか?武家のくせに武士になれねぇのかって」
冗談で言ってるのか、本気なのか…
分からないのが一番怖い。
「別に、あたしは、そんな」
「そんな慌てるなよ、冗談だって」
冗談。
彼の性格を考えれば分かったことだ。
一枚上手をいかれたようで悔しい。
「…でもここは、そういうやつばっかりだ」
だけど、山吹がそう密かに呟いたのを聞き逃さなかったから、きっとあたしたちは互角だ。
百鬼の番人 八重子 @yaeko_kaku
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