第7話 秘密の小窓から

「シークレット・ウィンドウ」という映画が好きで、よく見る。J・デップ主演のホラー映画である(サスペンスともいうのかもしれない)。原作はS・キングで、妻と別れたばかりの、ある作家の物語である。主人公モートを、まだハンサムだった頃のJ・デップが演じている。


物語の主要な人物、シューターを演じるのはJ・タトゥーロ。彼は「バートン・フィンク」や「名探偵モンク」などにも出演しており、私の大好きな俳優でもある。そして、この映画は字幕でなく、吹き替えで見るのが私のお気に入りである。


ちなみに、怪人物シューターの声の吹き替えは大塚芳忠。「ロード・オブ・ザ・リング」のアラゴルンの声の人である。一度聞いたら忘れられない声の持ち主だ。悪役から正義漢まで幅広く演じ、カッコいい。下の名前はよしただ、かと思ったら「ほうちゅう」と読むらしい。ウィキペディアに書いてあった。本当にウィキペディアは便利だ。そしてほうちゅう、名前も声も奥が深い。


主人公モート・レイニーの前に現れる不気味な男、ジョン・シューター。個人的な意見としてはこのシューターの声は、津村鷹志に演じて欲しかった。粘着質で陰険で、ずっと根にもつ性格としつこさをあらわすには、男前なアラゴルンではちと、豪快すぎた。


この「シークレット・ウィンドウ」。それは文字通り「秘密の窓」のことであり、主人公レイニー・モ―トとその妻の、かつての2人のささやかな幸せの象徴でもある。物語はやがて、視聴者の予想をはるかに超えた展開をみせる。さすがS・キング。「ミザリー」もすごかったが、こちらもすごい。奥さん、ぜひ。


さて、「窓」と聞くとつい連想するのが「社会の窓」である。つまりズボンについてるアレのことだ。私はジーパンをはくことが多いが、気づくとつい、それが開いていることがたまにある。しかし、ふだんシャツだのブラウスだの、チュニックだのカーディガンの下に隠れているので、それは本人しか気づかない。


こうゆうとき世の殿方は「あ、やべ」と思って静かにその窓をお閉めになるのだろうが、婦女子である私の場合は見えない場所ということもあり「黙って、チー」である。まあ、そしらぬ顔をしてどっかでファスナーを上げるのである。それはほとんどの場合、自宅においてである。さすがに出先で、エスカレーターの途中とかではやらない。だって、女の子だもん。


まあ、男女問わず、開いているともれなく「ダラシナイ」という印象を与える社会の窓。だいたい、なんでそんなネーミングがついたのか。まあいい。とりあえず社会に対して、開けっ放しではならぬもの、それが「社会の窓」である。


「窓」つながりでいえば昔、こんな話を聞いたことがある。テレビで見たのだったと思うが、電車内での話である。あるタレントだったか歌手だったが平日の日中、電車に乗っていたときのことである。


車内は、すいてはいるが立っている人もいる混雑具合。吊革につかまったおばさんの前には、足をガッと広げたスーツ姿のおじさんが腕を組んで爆睡中。そんなおじさんの前に立ってしまったおばさん。なにげに髪をさわっていたところ、彼女のヘアピースが外れてしまった。そしてなんと、目の前のおじさんの股間に、ソレが落ちてしまったというのである。爆睡おじさんの社会の窓は全開。そこにぽたりと落ちたヘアピース。フワフワした毛のカタマリである。


居並ぶ誰もが「あ」と思い、そしてなによりその持ち主のおばさんは、拾おうにも拾えないジレンマに一瞬悩んでしまった。場所が場所だけに。すると、なぜかいきなり目を覚ましたおじさんはオノレの股間を見、「わっ」と言って慌ててファスナーを閉め、おばさんのヘアピースを収納したまま、次の駅で降りていってしまったのだそうだ。おばさん、なすすべなし。


そんなことをお昼の番組で昔、タレントが語っていた。大切なヘアピースを持っていかれたおばさんの心中は、いかばかりか。そして驚きの事態に陥ったおじさんはその後、その事件が何かの教訓となったのだろうか。


J・デップからぜんぜん離れた遠いところまで来てしまったが、「窓」というものは時に人を幸せにもし、時に不幸を見せることもある。池田理代子の名作「オルフェウスの窓」も、窓から恋と物語が始まる。


本日はなぜか「窓」について語ってみた。窓と言うと「YKK」のCMが思い浮かぶが、うちの窓は特に面白みもないフツーの窓である。ちなみに窓の下のほうには、プチプチ梱包材が貼ってある。オットの仕業である。「冬、これだとあったかいんだって」と勝手にやったのである。しかも両面テープで。許されざる暴挙である。確かに冬はそれで暖かかったかもしんないが、余計な事すんなよな、はがれないじゃないかよ、と思うツマである。


かように、窓にはそれぞれ物語がある。








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異世界日記 犬神まき子 @momobuta

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