バレンタインの一話

michibatanokoisi

第1話

「あれ、この箱ってまさかバレンタインチョコ!?本命!?」

 友達が私の鞄を見てそう言った。

「ち、違うよ。別の子からもらった友チョコだから、別にそういうのじゃないよ...?」

「ムム、怪しい。こんな大きな箱でラッピングもきちんとしてるのにただの友チョコなんて...」

 あぅ...疑われている。

「それに私以外の友達っていたっけ?」

「え!?それは...いないけど。」

 痛いところをつかれてしまった。私に彼女以外の友達はいない。いつも隅で本を読んでる陰キャ女子というやつだ。

「と、とにかく何でもいいでしょ。授業始まっちゃうよ。」

「えー、とうとう春が訪れるのかと思ったのにー」

「まだ、寒いけどね。」

 そう、寒さが厳しい今日は2月14日バレンタインだ。


 好きな人にチョコを渡して気持ちを伝える特別な日。

 最近は友達にあげたりお世話になった人にあげたりするのが多くなってきてるけど女の子はやっぱりこの特別な意味を意識してしまう。


 今まで縁がないと思ってた日だけど今年は渡そうと思える人ができた。



 彼と出会ったのは高校に入ってすぐの図書室だった。

 図書委員になった私は火曜日の担当をしていた。毎日昼休みと放課後カウンターに座って本の貸し出しをする。

 後から聞いた話だけどうちの図書室は怪談話があって人も近づかず、図書委員の仕事をしているのも私だけらしい。


 そして、彼は私が図書室に行くといつも彼は先にいて本を読んでいる。猫目にかかりそうな髪、制服はいつも着崩していてあくびをよくする。なんだか猫みたいですごくかわいい。

 最初の何ヵ月かはずっと見ていた。

 何でこの人はいつも先にいるんだろうとか何を考えてるんだろうとか名前はなんだろうとか。

 気づけば私の頭はあの人でいっぱいでその時から私は...



 二学期になって進展があった。彼はいつも図書室で本を読むだけで借りていかない。昼休みはチャイムがなると本を元の場所に戻し、放課後その本を読み進める。

 でも、その日は昼休みの最後本を借りに来たのだ。

 

 彼以外図書室には来なかったし彼も本を借りなかったので貸出しの手順が狂う。

 あたふたしてる私に彼は一言。

「急いでないから....」

 そっぽを向きながら少し照れた様子で気遣ってくれた。


 次の日、彼はまた本を借りてきた。今度はスムーズに貸し出しをする。

 昨日は気付かなかったけど彼は二年生らしい。貸し出しのとき生徒手帳を出すので名前も分かった。

「あの、ミステリー好きなの?」

「ふぇ!?」

 いきなり話しかけられてビックリした。彼は私が読んでいた本を見て話しかけてきたみたいだ。

「えっと、あの、す、好きです...」

 な、なんか告白みたいになっちゃったーー

「そうなんだ。俺も結構好きなんだ。オススメとかない?」

「え、えーと。」

 オススメ??いきなり聞かれても。

「また、来週オススメします...」

「ありがとう。楽しみにしてる。」

 彼は借りた本を持って図書室を出ていった。私は力が抜けてその場にふにゃんと座り込んだ。


 そこから、だんだんと距離は縮まって会うのも週に二回に増えて一緒に帰るようにもなって....


 本当に幸せな時間だった。




 でも、私は彼のプライベートについてよく知らない。

 もしかしたらもうお相手がいるかもしれない。


 それでも、このままは嫌だから自分の気持ちをはっきり伝えたい。

 私はいつもの私と彼だけがいる図書室に向かうのだった。




「よ、今日はバレンタインだな。」

「そうか。俺たちには縁がないけどな。」

 唯一の友人は朝から騒がしく話しかけてくる。まあ、バレンタインだから浮かれているのだろう。高校生男子なんてそんなものだ。

「あーチョコほしいなー。何で女の子は俺にチョコをくれないんだ?ツンデレか?」

「おそらくそういうこと大声で言うからだと思うぞ。」

「うるせーな。分かってるよ。いいよなイケメンはチョコもらえて。」

「もらってないぞ。」

「今日何個渡されて断った?」

 う、長い付き合いかバレバレらしい。

「...二個」

「おい、まだ朝のHR始まってすらないぞ!ふざけんなよ。しかも断ってんじゃねぇ!」

「うるさいな。いいだろ別に...チョコより本をもらった方が俺は嬉しいんだから。」

「この本の虫め。校内で一位二位を争うイケメンが本と付き合いたいとか抜かしている図書室の幽霊の正体とは女泣かせだね全く。」

「全部不本意だぞ。」

 一年のころから図書室に入り浸っていたらいつの間にか誰もいないのに電気がついてると怪談話になってしまった。

 でも、結構蔵書量があって居心地いいんだよ?

「あの、今ちょっといいかな?」

 友人と下らない話をしているとクラスメイトの女の子から話しかけられる。彼女の手にはチョコレートらしき包装された箱がある。この人名前なんだっけ?

「お呼びだぜ。元親友。」

「おい、友情儚すぎるだろう。」

 チョコレートは俺たちの友情をその甘さで虫歯のように壊していった。

 そして、俺は本日三回目のご免なさいを言うことになったのだ。




 放課後

 俺はいつも通り図書室にやってくる。うちの帰りのHRはいつも早いので図書室についたときにはまだ誰もいない。

 まあ、時間がたっても一人しか来ないんだけどね。

 読みかけていた本を取り出しページをめくる。

 皮肉なことに読んでいた本の内容はチョコレートに毒が盛られた事件だった。やめろよ。余計食べる気がなくなるだろ。


 しばらくすると後輩ちゃんが来た。短く揃えられた髪に赤渕のめがね。おとなしそうな自信のない顔にそれとは対照的な胸部。

 巨乳文学少女という言葉がよく似合う彼女が扉を開けた。

 

 話は変わるが俺が一番嫌いなことは本を読むのを邪魔されることだ。一人で物語のなかに没頭したい。


 しかし、最近は例外もいると思い始めた。二人で隣通しの椅子に座りそれぞれ本を読む。ついつい彼女が気になって物語が頭に入ってこない。でも、それが不思議と嫌じゃない。むしろ幸せだと。

 

 今日は散々恋心について考えさせられた。色んな人が俺のことを好いてくれてるらしい。ごめんなさいを言うたび心が痛む。

 けど、今年は別の人からもらいたいと心のどこかで思ってしまったから痛みは忘れられて放課後を恋しく思ってしまった。



 俺は彼女を...

 

 


 彼は今日も私より先にいました。

 いつも臆病だった私だけど今日だけは踏み出します。

 だって、恥ずかしいのとか怖いのとかわからなくなるくらい彼のことが大好きなんです。



「先輩!」

「お、おうどおしたいきなり大声出して。ここ図書室だぞ。」

「ど、どおせ二人しかいないから関係ありません。なので聞いてください。」

 心臓が早くなる。頬が熱い。

 死にたいくらい恥ずかしい。

 でも、ちゃんと伝えるから。

「先輩のことが大好きです!チョコ一生懸命作ったので受け取ってください!」

 チョコを差し出す。下を向いてしまって彼の表情は見えない。彼は今どう思っているんだろう?

「後輩ちゃん、顔あげて。」

「は、はい....」

「俺も君のことが大好きです。ぜひ受け取らせてください。そして良ければ俺と付き合ってくれませんか?」

 涙があふれる。

「も、もちろんです。」

 こうして私たちは結ばれました。



 初めて好きな子からチョコをもらった。家に持ち帰って今食べている。

 俺はやっぱりチョコレートに毒を盛られたらしい。こんなにも甘くて美味しくて幸せで...恋はなんて強力な毒だろう。チョコは溶けてしまってもこの幸せな毒は体の中で残り続ける気がした。




作者より

バレンタインは特別な日です。しかし、2月14日という日に人間が特別な意味をつけただけの日でもあります。

ただそれは女の子に大きな力をもたらします。理由は勇気を与え、雰囲気は力を引き出します。

そんな日なんです。

後輩ちゃんのような勇気のない子に理由を与えてくれたバレンタインにありがとうを送りたいと思います。

バレンタインの一つの物語でした。

皆さんも自分の物語を探してみてください。

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