バレンタイン超合金っ、ショコラ!

レド(大型獣脚類の一種)

214撃目 想いよ届けッ! 初めてのチョコ作り!?

 私の名前は、機龍きりゅう工業地帯こうぎょうちたいショコラ!

 県立高校に通う普通の……熱血女子校生だよっ!


 あっ! いま機龍工業地帯なんて変な苗字ぃ〜って思ったでしょ!?


 私も小学生の頃はさ、悩んでたこともあったんだよ。どうしてウチだけ変な苗字なのかな〜って……だけどもう気にしてないから大丈夫っ!


 そんな事より現在いま最大の悩みといったら、迫り来るバレンタイン当日だよ!


 二人の親友からはチョコの作り方を教わったけど、私これまで巨大ロボしか建造したことのないから上手に作れるか心配だなぁ。


 親友の咲夜ちゃんはレシピ本を持ってきてくれて、どんな料理にするのか提案くれて、初めはパウンドケーキが良いかもって、ビビビッときたんだ。


 でもパウンドケーキって懸架装置サスペンションの一種じゃなかったんだね!


 それを口にしたら、咲夜ちゃんにお尻を叩かれたよっ!


 そして、もう一人の親友である美鈴ちゃんがチョコを溶かしてみてって言うから、ガス溶接と電気溶解炉を持参したら、またお尻を叩かれちゃった!

 も〜っ湯煎って一体、何なの〜ッ!


 それでも熱心な二人の親友から教えて貰って、ようやくトリュフチョコレートを作れるようになったんだ! 人類にとっては偉大な一歩なんだよ!


 やっぱり、お菓子作りって凄いよね!

 一本の釘やネジも使わないで完成しちゃうんだもん!


 あとはこのチュコレートを、あの人に渡せば大成功!

 ……って思ってたんだけど。


【2月14日:バレンタイン当日】


 早速だけど私っ、大ピンチなの!

 昨日も慣れない無茶して徹夜した所為かなぁ? 寝坊しちゃった〜!


 おまけに食パンを咥えながら十字路に差し掛かっていたら、曲がり角で人とぶつかっちゃったよ! これは予想外!


「イタタ〜っ!」

「大丈夫かい!?」


 その凶悪タックルを喰らわせた男が、私に手を差し伸べてきたんだ。

 あれれ? そのリーゼントに学ラン姿は寺社仏閣建築じしゃぶっかくけんちく鉄男てつおくん!?


「機龍工業地帯さん。怪我は無いかい? ……だぜッ!」


 取って付けたような「だぜッ!」が気味悪いのよね。


「って私の荷物! 荷物は無事!?」


 咄嗟に庇ったお陰で、スクールバックは無事のようね。


「どうしてこういう日に限ってタックルしてくるのよ、鉄男くん!」

「本当に済まなかったよ。商店街に突如現れた怪人達を倒してたら遅くなってしまって、でもこういう日って何だい? ……だぜッ!」

「今日ってさ……何の日か知ってる?」

「勿論さ。2月14日、つまりは2月13日の翌日……だぜッ!」

「えっ、どうして前日に焦点を当てたの?」

「213と謂えば、お兄さんの日だろう?」

「それが初耳なんだけど!」

「ウチは一族総出で、2月13日から始まるアニキ週間を祝ってるんだ」

「それ一族総出でイカれてますよ!?」

「やっぱり平成アニメーションのアニキは最高だぜッ!」


 アニメの名シーンを思い出したのか唐突に涙ぐむ鉄男くん。

 泣きたいのはコッチだよぉ〜。

 昨晩徹夜で作った例のアレを、果たして今日中に渡すことが出来るのかしら。


「そのアニキという言葉に対する異常な執着心は何なの!?」

「そんな人様の家庭の催しなんかに構ってないで、さあ急ごう……だぜッ!」

「人様って鉄男くん家のことだけどね」


 ——そして私達はホームルームのチャイムを風に切って教室へと駆け込んだ。


「おはよ〜っ。ショコラぴょん。ギリギリセ〜フだねぇ」

「はぁはぁ……咲夜ちゃん、おはよう。変な奴に掴まっちゃって危うく遅刻しかけたよお」

「お二人で重役出勤とは、ふふ……アレは無事に渡せたのかなぁ〜?」

「もう全然ッ! ただ遅刻しかけただけだよ、美鈴ちゃ〜ん」


 咲夜ちゃんと美鈴ちゃんは私のクラスの大親友。普段は巨大ロボしか製造した事がない私だけど、二人が付きっ切りでお菓子作りを教えてくれたんだ。


 二人の協力を無駄になんて出来ない! 絶対、今日中に渡さなきゃ!


 それからの私は一日中、渡す機会を窺ってたんだ。

 授業中、昼休み、廊下、移動教室、それでも全然チャンスなんて来ないよぉ。

 彼はいつだって全力疾走ッ!


 これは比喩じゃなくて実際にずっと走ってるの。先生からも廊下は走るなって怒られてるのに「助けを呼ぶ声が聞こえる! ……だぜッ!」とか叫びながら走り去っちゃうんだよね。


 授業中ですら木から降りられない子猫を助けに行っちゃうし、

 昼休みだって木から降りられない子猫を助けに行っちゃうし、

 移動教室でも木から降りられない子猫を助けに行っちゃうし、

 トイレ中でも木から降りられない子猫を助けに行っちゃうし、


 も〜っ、学校敷地内にどれだけ子猫がいるの〜?

 字面もゲシュタルト崩壊してるし、これじゃあ一種の生物災害バイオハザードだよぉ!


 とうとう下校時間になっちゃって声すら掛けられ無いまま、私はただ全力疾走する彼の後ろをついて行くだけだった……すると、


「どうして商店街に? 家の方向違うよね? ……だぜッ!」

「え? ぶ、文房具を買いに来たの!」


 やっぱり嘘だってバレちゃったかなぁ?

 普段の登校時には十字路で鉢合うんだからバレて当然だよね。

 彼の帰宅方面に、私がいたら変だよ。


「あ、あの!」

「なんだい? 機龍工業地帯さん……だぜッ!」


 私は勢い任せに、スクールバックから小さな箱を取り出した。


「こ、これっ、貰ってください!」

「これは……」


 これには流石の鉄男くんも気付いたかな。

 もう言うしかないっ、勇気を出すんだ私!


「だ、だから……しゅ、しゅ、しゅ」


 口が尖るばかりで、言い切れないよぉ!


「……しゅき!」


 あ〜っ! 言っちゃった、言っちゃった、言っちゃったよぉ!


「ん? シームレス加工が何だって?」

「耳がバカなの!?」


 鉄男くんの余りの鈍感さにイライラしてたら突然っ!

 商店街の道路が盛り上がってアスファルトが割れちゃった!


 地面の亀裂を押し広げながら現れたのは巨大掘削機!

 先端が尖っていないイマドキのドリルだなんて、これは邪道ッ!


「カッカッカ!」


 掘削機の上から聞こえる高笑いは、またアイツなの!?

 鉄男くんは私を庇うように掘削機の前に立ち塞がった! 普通に危ない!


「お前はっ、東日本魔改造アンダルシア産業の社長! 剛田歳三おかだとしぞう!」


【説明しよう】

 剛田歳三とは、戦後貧しい日ノ本に生まれ、シングルマザーの母を支えつつ、5人もの弟妹の面倒を見ながら、牛乳や新聞配達する傍で学業を成し、単身若くして下町に工場を設立。その絶え間ぬ努力と技術革新で高度成長期の一端を支えた、人畜無害な悪の技術者である!

(因みに非営利目的の幼稚園と養護老人ホームも経営している)


「世間の流れに追いつけない、情報弱者ドモめがッ!」


 開口一番に、怒鳴られたんだけど!?


「我が社は先月の株式一般公開を機に、その社名をHMAと変えたのだ! 以後お見知り置きを!」


 その口状を聞いた、私と鉄男くんに戦慄が走る!


「剛田歳三よ、なんと愚かなことを!」

「そうよ! 鉄男くんの言う通りよ。どうして近頃の日本企業は社名をアルファベット表記にしてしまうの!? それじゃあ肝心の国内消費者から見て、何をしている会社か全く分からないじゃない!」

「そうだ、機龍工業地帯さんの言う通りだ! それにHMAなんてイニシャル、およそ多くの人が高マグネシアン安山岩と勘違いしてしまうだろう!」

「鉄男くんは、何を言ってるの!?」


 三人とも好き放題に喋っているだけの入り乱れた舌戦の最中。

 突如、剛田歳三は膝から崩れ落ちて頭を抱える。


「……社名がHMAじゃ何も伝わらない!? これは早急に社内会議を開かなくてはっ! 故にさらばだ、グレートヒーロー鉄男!」


 高笑いする剛田歳三は巨大掘削機を方向転換し、東日本魔改造アンダルシア産業の私有地へと帰っていった。

 本当に何しに来たんだ、また変わるであろう社名を報告しに来ただけか。


「ふうっ、危ないところだったね。機龍工業地帯さん」

「……うん」


 額の汗を払うと、鉄男くんは微笑みながら手を差し伸べて来た。


「君が無事で良かった。 ……だぜッ!」


 あの時もそうだった——


 小学校低学年の頃、この変な苗字をクラスの男子達に揶揄われて、それが嫌で悲しくて、家族のことは好きだけど……その日は家に帰りたくかった。どうして泣いているのって聞かれたら、今日の嫌な出来事を説明しなきゃイケないでしょ?


 だからずっと公園で泣いてた。その時、


「機龍工業地帯さん、大丈夫かい?」


 もうすっかり辺りは暗くなっていたのに、同級生の鉄男くんの姿があった。

 少女漫画のヒーローみたいな爽やかな顔立ちに、さらさらの金髪。

 パッツン前髪の下から碧い瞳で、こっちを覗き込んで、


「なんでもない! あっち行って!」


 泣いてる姿なんて見られたくなかったし、鉄男くんも私の苗字を馬鹿にしてるに決まってる!


「ダメだよ、この辺は怪人やヴィランも多いからね。送っていくよ」

「……うん」


 私の手を引く鉄男くんは、黙々と夜道を進んでいく。


「どうして泣いてたのか、聞かないの?」

「聞いて欲しいのかい?」

「……私の苗字って変だと思う?」

「う〜ん。珍しい苗字だとは思うよ」

「やっぱり!」

「でも僕も珍しい苗字だから、親近感が湧くかな」

「鉄男くんの苗字ってなんだっけ?」

「寺社仏閣建築だよ。可笑しいよね、義務教育じゃ決して習わない建築様式のことさ。それに僕はハーフで、この外見も目立つから、機龍工業地帯さんの気持ちも少しだけ分かるよ」


 少しだけ分かる、なんてものじゃない。

 鉄男くんの方が苦労してるに決まっていた。


「どうして、私を探しに来てくれたの?」

「助けを呼ぶ声が聞こえたから……かな?」


 そんなことがあったのに——

 どうして黒染めのリーゼントになっちゃったの!?

 眉毛も黒画用紙を貼り付けたように太くなってるし、いや多分、実際に黒画用紙を貼り付けてるし! 男らしさの方向性が歪んでる!


 彼が高校デビューに失敗してから一年も経つけど……

 だけど、あの日の気持ちはずっと変わらない。


「鉄男さん! ……MTSです!」


 差し伸べられた手を引き寄せながら、私は小箱を押し付けた。


「それって、どういう意味? ……だぜ?」

「うっ、う、それじゃあサヨナラー!」


 顔が真っ赤になり過ぎて、耐え切れなかった私は走って逃げちゃった!


(めちゃんこ好きなんて言えんも〜ん!)


 素直に伝えるのは恥ずかしい、そんな時もあるよね。

 でもそんな内気な女の子の為に、バレンタインデーってあるんじゃないかな?


「今日の機龍工業地帯さん、なんか変だったな」


 機龍工業地帯ショコラから貰ったラッピングされた小箱を鉄男は開く。


「トリュフチョコ? そうか今日って……」


 家族の歪んだ祭日意識の影響で、鉄男はすっかり忘れていた。


「こんな情熱の込められたチョコレートバーニングなんて貰ったら、胸がニトロファイヤーして、お返しもガガーンって、ジャイアントにしないとなっ!」


 鉄男の語彙力は、超高校級の壊滅具合だった。

 むしろ美少年ハーフだった小学生の頃より退化している。


 彼女の想いを受け止めた鉄男は帰宅するや勇み足でガレージへと向い、巨大なブルーシートを引き剥がした。

 機龍工業地帯ショコラが好いた彼、鉄男は実に誠実な男だった。


「ホワイトデーまでに、このオメガティック・ギガドリルを完成させないと!」


 誠実な方の馬鹿である。


【3月14日:ホワイトデー当日】

 教室で喋るいつもの三人組は、恋バナに華を咲かせていた。


「ホワイトデーのお返しって、キャンディがお付き合いしましょうって意味で、クッキーが友達のままでいましょうって意味なんだって!」

「ショコラぴょんは何をもらったの?」


 それは今朝のことだ。十字路でいきなりあんな物を渡してくるなんて、


「ド……」

「ドってドーナツ? まさか、どら焼きじゃないよねぇ?」

「うわっ! そんな男いたらマジで引くわー」

「ドリル」


 一瞬だけ教室の空気が止まった気がした。


「え? 参考書とか? そういう実用的なお返し?」


 なんとか解釈しようと試みる咲夜ちゃんだったが、


「ギガドリル……っ、オメガティック・ギガドリル」

「うは〜っ、思考が追いつかねぇ」


 親友二人の思考は必殺のギガドリルによって見事に打ち砕かれた一方、私のハートは見事に打ち抜かれましたとさ。


 もうメロメロ、ギガンティーーーーック!!


[イントロ]


Aメロ:

 暁の〜っ、影に虎ッ!

 咲き誇れぇ情熱のファイティン・ポーズぅ!


(ファイ! ファイ!):2回繰り返し


【毎週繰り返されるEDなので、安定のスキップ】


次回予告:

 新作ゲームの長蛇の列に、突如現れた飯テロ!

 湯気立ち昇る豚汁と塩昆布おにぎりセットの香りにッ、徹夜明けの若者達はバッタバッタと倒れて行った!


『人の心を弄ぶなんて、絶対に許せねぇ。

 俺のハングリーがバーニングするぜッ!』


(鉄男の語彙力は、次回予告に於いても超高校級の壊滅具合だった)


『テレビの前の良い子のみんな!

 チョコレートを食べたら、しっかり歯を磨くんだぞ!

 男の子はホワイトデーを忘れるんじゃないぞ! 給料三ヶ月分だぞ!

 それじゃあ来週も、また見てくれよな!』


※一話完結です。


 ハッピーバレンタイン! ……だぜッ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バレンタイン超合金っ、ショコラ! レド(大型獣脚類の一種) @RETRO_ORDER

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ