むかーしむかし、ある所に、不思議な子猫がいましたとさ。(桶屋6)

大臣


「本当に、ありがとうございました!」


「いやいや、俺は何もしてないから」


 そんな風に私が依頼した探偵は言うけれど、こちらにしてみれば奇跡に等しい。


『オケヤ』と名付けられたほど、自由奔放なその猫を。


 その猫はもともとは私の猫ではなかった。近所に住んでいた、『猫屋敷のおじいさん』からもらったものだ。


 猫屋敷のおじいさんというけれど、彼自身の猫は一匹しかいなくて、そこにただ猫が住んでいただけだそうだ。


 おじいさんが子供の頃、事件があったと聞いた。何があったかは聞いていないけど、ともかく事件が起きて、おじいさんのご両親は死んだ。


 一人きりでどうしようも無くなったおじいさん。しかし、そこで、彼の飼い猫だったオケヤ、当時は名前も付いていなかった猫が、不意に歩き出したのだ。


 付いて来い、というふうに振る舞う猫に、身寄りないおじいさんは付いて行った。西へ東へ、ぶらりぶらり。猫に連れられ、全国を巡ってそして、あの屋敷にたどり着いた。


 そのときの屋敷には、また別のおじいさんが住んでいたそうだ。ただし、猫はその時は住んでいなかった。おじいさんはそのおじいさんと暮らし始めたらしい。


 やがて、屋敷のおじいさんが亡くなって、猫屋敷のおじいさんは一人になった。


 すると、おじいさんの猫が、屋敷を開ける日が増えた。


 すると、


 一匹。


 また一匹。


 猫がどんどん増えていった。まるで、おじいさんの悲しみを癒すように。


 これもあの猫のおかげかのう。と、彼は語っていた。


 だからおじいさんは名付けたのだ。


『風が吹けば桶屋が儲かる』——つまりオケヤと。


 自由奔放な猫は、おじいさんが死んで、私に渡された。でもまだ生きている。


 普通に考えておかしい。


 おじいさんが子供の頃から生きている猫。未だ元気な猫——オケヤ。


 この正体は気になるが、基本的には愛らしい猫。


 だけど、自由奔放すぎて、放し飼いにすると、一月戻ってこないことすらある。


 全く、どうしたものだろうか。


 しかし、可愛い。


 だから私は、珍しく家にいたオケヤを連れて、散歩に出かけた。


 すると、何かものすごく急いだ風に走る人を見かけた。何だろうと思う間もなかった。なぜなら、オケヤが、その人を追いかけて駆けてしまったのだ。


「待って!」


 とは言っても、オケヤは止まらない。すぐに追いつけなくなった。


「どうしよう……」


 結果は探偵に依頼して、探し出すことに成功したが、この時は本当に焦った。


(なんだこれ?)


 顔を下に向けると、何か白い粉末が入っている袋を見つけた。


(まいっか。とりあえずオケヤを探さなきゃ)


 オケヤが見つかった今でも、その粉末は、私の部屋にある。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

むかーしむかし、ある所に、不思議な子猫がいましたとさ。(桶屋6) 大臣 @Ministar

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ