冒頭から陳腐で恐縮だが、人生は取捨選択の連続だ。電話もその一つ。メールやチャットが発達し、電話にかかわる複雑な儀式めいた定型区が次第に廃れていきつつある昨今と、主人公達の境遇を重ねる技量は筆巧者の一言につきる。 夫の愚痴がのろけの一環なのは良くある話ではある。主人公の悲劇は、そうした野暮な真相を知りつつも、だからといって踏み潰してまで前進できない賢明さにあるだろう。人生の秋にさしかかりつつある主人公が繁らせた葉は、どんな形をしているのだろうか。木が落葉するのは冬を生き延びるためだが、代わりにどんな春を迎えるのだろうか。
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