設定2 ともくんは設定2を6と言う
とある平日の朝、ともくんからLINEが届いた。
”整理券42番引いた。まどまぎ一択。”
私は優しいので、それは整理券番号通り42(死ぬ)からやめた方がいいよと教えてあげたが、既読スルーされた。
いつものことなので、あぁこいつは絶対にまどまぎに座るな、と思った。
昼ぐらいには、いつもどおり「どうよ?」と探りを入れてみるも、既読すらつかない。
これは、”こっちは今アツくなってるんだよ、話しかけるんじゃねぇ!”という意思の表れである。つまり、ともくんはまたしても負けている可能性が非常に高いのである。
たまに返信が返ってくることもあるが、その時のセリフは決まって「6」である。
すなわち、「設定6つかんだ! 今日は大勝間違いなし!」ということが言いたいらしいのだが、これは悪い予兆である。なぜなら、この返信をもらった後に大勝したということは、10年以上のつきあいで一度もないからである。今風に言うと、「負けフラグ」という奴である。
ちなみに、勝つ時は写メによる自慢画像が送られてくる。これがないということは、彼は今パチスロという名の博打の泥沼に嵌まっている最中というわけだ。
さて、既読がつかないまま夕方になったので、電話を鳴らしてみることにした。当然、出ない。2度3度とコールすると着信拒否されるので、1度に止めておくのがコツである。
着信を入れておくことによって、彼の実戦終了時に連絡が来る可能性が高まる。大体は22時頃に、”悲しみのラーメン” などという返信が来る。このワードには、「負けたからラーメン奢って慰めてくれ。」という、ともくんらしい甘ったれた要望が込められている。週末など私自身に余裕がある時には応じているが、ラーメン代は彼に余裕がある時に一括請求してやろうと思う。
「偶数で小役確率もいいし・・・夕方までは設定6だったんだよ!!!」
ともくんは、私に遠慮することなくチャーシューメンの大盛りをフガフガ食べながら毎回のようにこの言葉を口にする。
でも2だったんでしょ、と諭すと「いや、6だったのに遠隔された!」とわめきだす。話を聞けば聞くほど――というか、昨今のホールに6なぞ無いのは周知の事実ではあるのだが――ともくんはいつも設定2を打っているとしか思えない。もしかすると、彼は ”設定2を終日回させられた” という事実から目を背けたいのかもしれない。さらには、自分の判断ミスを認めたくないというのもあるだろう。設定2だろうと6だろうと、どっちにしたって彼は負けたのだから、博徒としては結果を出していない負け組に変わりはない。どうにも博打で負ける人種というのは、自分の非を認めたがらない者ばかりである。
それでも私は、そういう理屈を全て押しのけて笑顔こう言うのである。
「6で負けたんなら遠隔だな! もうその店行かないほういいよ。」
すると、ともくんは嬉しそうに
「そうだそうだ! 遠隔ホール潰れちまえ! 半ライスお願いします。」
と言って勝手に追加オーダーするのであった。
もちろん、次の日の朝もその店に行っているのは言うまでもない。
「アツい日の次の日は、チャンス!」
私は適当にスタンプを返してスマホを鞄にしまった。
自称スロプロ ともくん 妄子 @Moko-Moco
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