第5話「模造品と模倣品」

 巨大な門扉から城に通ずる大通りから、三本ほど裏通りに入ると静かな武具店を見つけることが出来る。大手中古武具店チェーン「黒金屋」本店だ。

 武具店の木の扉を開けると小気味の良いベルが来客を知らせる。

 ナンジョウは物憂げな表情で商品の棚を見ていた。キタムラは入店して早々にその光景を見てそう感じた。ハンスは他の客の相談に乗っており、ヘレーナはカウンターで会計をしているようだ。

 キタムラはナンジョウに声をかけるために近づいて肩を叩くと、びくりとナンジョウが驚いて変な声をあげた。店内の客やハンスは驚いてナンジョウをみるが、ナンジョウがなんでもないですと周りを沈める。

「なんだよ、キタムラさんじゃないか」

「いやはや、ごめんなさい、そんなに驚くとは。気付いていると思ってたもんで」

 キタムラがばつが悪そうに後頭部を掻く。

「何を熱心に吟味してたんですか」

 キタムラの問いに、ナンジョウは少しためらったようだったが、小さな声で答える。

「誰にも言わんでください」

 神妙な雰囲気で言うと、キタムラは頷く。

「ヘレーナさんです」

 その言葉にキタムラは察する。棚の隙間からはカウンターが見えるのだ。接客するヘレーナが、ここからは見える。

「いやいや、まずいですよナンジョウさん」

 転移先での恋愛は禁止だ。あくまで異世界転移は旅行。この世界の住人になれるわけではない。

「ああ、そうだな。判ってるんだ、キタムラさん」

 ため息を一つ吐いて、ナンジョウは棚から目線を外す。

「お、なんだありゃ」

 ナンジョウは外した視線の先に妙なものを見つけたようだった。キタムラがそちらに視線を移す。

 何かの特設コーナーのようだが、キタムラはこの世界の文字を読みこなすことができない。

模倣品特集レプリカコーナーだそうですよ、これ」

 ナンジョウがそう言って特設コーナーへと足を運ぶ。キタムラも机に並べられた雑多な武具類を見る。

「おお、こりゃ軽い。」

 ナンジョウが兜を一つ持ち上げるとバスケットボールを指の上で回すようにくるくると回転させる。

「なるほど、よくできた模造品だ」

 キタムラがそう口にすると、ハンスが接客を終えたようで二人に近づいてくる。

「おいおい。よしてくれキタムラ、人聞きが悪いぜ、そいつは模倣品コピーだ。模造品レプリカじゃない」

「っと、間違っちまったようだ、どうにも細かいニュアンスが判らん」

 ナンジョウがそう言って、キタムラに悪いわるいと謝る。

「模造品はただの展示用で実戦には使えんが、模倣品はあくまで人気工房のモデルを再現した品さ」

 ハンスはそう言って一本の剣を手に取り、腰のポケットにいれていた手ぬぐいを宙に投げる。

 鞘から引き抜かれた剣の刃がふわりと舞う手ぬぐいを一閃。両断された手ぬぐいは地面へと落ちる。

 見ていた二人は拍手をする。

「こいつなんてオススメだぜ。モーントシャッテンの人気工房エアストクリュザンテーメに似せた曲剣だ。銘やら装飾は完全に偽者だが、切れ味は確かだ」

「確かに見事ですけど、これいいんですか」

「なに、本物として取り引きしたら詐欺でお縄だが、うちはしっかり模倣品として売ってるからな。それに物によっちゃ本物よりも良い品もあるからな」

 ハンスとキタムラの会話にナンジョウが感嘆する。

「二人とも仲いいな、ていうか俺より顔なじみになってないか」

「いやはや、店長とは気が合うみたいでして」

 キタムラが苦笑いしている間に、ハンスは別の商品を手に取っている。

「これなんかどうだい、ヴューステ国の剣を真似た品だ」

 そう言ってハンスがナンジョウへと剣を手渡す。キタムラは片手剣を使用しているがこの剣は両手用で、ナンジョウが使っている武器に近い。

「あそこは工房の支部ごとに品質がまちまちで、良い剣は一般市場に出ないんだが、こいつは形だけ真似て作りはモーントシャッテン製だろうな。刃の研ぎの鋭さが違う」

「両手剣は重量で叩ききるような感じだけど、確かにコイツは切っ先だけじゃなくて刃全体がだな」

 ナンジョウが鞘から抜いた剣を見て、ハンスに手ぬぐいを投げるように合図する。ハンスは店内の商品に当らないように特設コーナーの机をずらしてから手ぬぐいを投げる。

「せやっ」

 声をあげて、ナンジョウが斬りつける。が、クセがあるのか空振ってしまう。

「あーりゃりゃ、っともう一回やればいけそうだ」

 そう言ってナンジョウは腰だめに構えて合図をする。ハンスが再び手ぬぐいを投げる。

「せいっ」

 腰から斜め上に跳ね上げられた剣は空中で手ぬぐいをとらえて両断する。

「すごいすごい! すごいです!」

 その光景を見ていた女性がナンジョウに拍手を浴びせる。ヘレーナだった。ナンジョウの顔が真っ赤に染まる。

「あ、いや、これは・・・ははは、とんでもないです」

 照れてしまってナンジョウは語彙力が低下していた。

「それにしても、たしかにたいしたもんだ」

 キタムラが再び感心していると、ハンスが奥からもう一本剣を持ってきていた。

「ちなみにこいつがヴューステ国の剣の本物だ。ヴューステの南工房作だな」

 ハンスに渡されてキタムラが鞘から剣を引き抜くと、先ほどの剣と似た形状の刀身が現れる。しかし鉄の板といった感じで、形を形成しただけの物に見える。

「これ、本物なんですか」

「だから言っただろ、模倣品の方が良い物もあるってことさ」

 そうこういっているうちに、ヘレーナがナンジョウを褒めちぎったせいか、いつの間にか模倣品の両手剣をナンジョウが会計している。

「ま、また変な物でも見つけたらうちに持ち込んでくれてもいいんだぜ。買取拒否は盗品じゃなければしないからな」

 ハンスがカウンターを見て笑う。キタムラは苦笑いをしながら答える。

「ええ、私も面白いものを探してみることにしますよ」

 ナンジョウは会計を終えたようだ。キタムラはナンジョウと供に店を出る。まだ見ぬ冒険と、奇妙な武器とのめぐりあいを求めて。

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異世界中古武具店「黒金屋」 秋月竜胆 @syuugetsurindou

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