誤作動
ときおり、寝ていると布団が跳ねて足元に落ちている。最初は全く気にしてはいなかった。
今日もまた布団が飛んでしまっている。ほとんど毎日の事だとやはり気になる。先生に相談するもあやふやな答えしかかえってこない。少しだけ落ち込んだ日々が続いた。
今日はあおいと再会する特別な日だ。俺は震える手で通話機をあおいのナンバーにセットした。
ワンコール、ツーコール……
テンコールで繋がった。
「もしもし、あおい?」
「その声は、大輔?」
「懐かしいな、長く会えなかったね」
「そうね」
「これから会えないかな。待ち合わせ場所はいつもの喫茶店で」
「いいわ行くわ。待っててね」
一年ぶりの再会だ。俺はいつも待ち合わせに使っていた喫茶店に直行した。
喫茶店につくと懐かしい顔が目に飛び込んできた。
「やあ、久しぶり」
俺らはハグをし、席についた。
「今どうしてるの大学の方は」
「勉強も部活もバッチリよ。あなたは末期のがんを克服したの?」
俺はロボットの体を手に入れた事を包み隠さず話した。あおいは最初驚いていたが次第に表情が曇ってきた。
「ごめんなさい、私、今の大輔を愛する自信がない」
この答えも折り込み済みだ。だが次の言葉は想定外だった。
「それにもう新しい彼氏がいるの」
それを聞いた瞬間、あおいの頬を平手打ちしていた。しかしおかしい。激情にかられて殴ったわけではないからだ。体が勝手に動いた感じだ。
「ごめんなさい!」
あおいはそれだけ言うと、席を立ち走り去ってしまった。
俺は震える手でコーヒーを飲み干すと、手が勝手に動いてやおら上着を脱ぎ始めた。
次はズボンだ。ジーンズを脱ぎ、パンツに手を掛ける。
頭は完全に拒絶してるのに、ついにパンツを剥ぎ取ってしまった。
そのパンツを頭にかぶり全身素っ裸になって踊る。
ラッタッタッー、ラッタッタッー
アーケードの人々の視線が俺につきささる。三拍子のワルツにのって、俺は恥ずかしさで目をつぶる。
ラッタッタッー、ラッタッタッー
どこかで遠隔操作されているに違いない。見物人に近寄ると「きゃー!」と言いながら逃げてしまう。隣のテーブルに乗っていたコーヒーカップの取っ手に勃起した陰部を突き刺しまた踊り始める。
ラッタッタッー、ラッタッタッー
しかしおかしな事にある程度時間が経つとなんだか気分が良くなってきた。俺にはもともとヌーディストになりたいという、隠れた欲求があったようなのだ。
ラッタッタッー、ラッタッタッー
恍惚となって踊る踊る。
俺はワルツを刻みながら可愛い女の子を追いかけ回す。妙なもんできゃーきゃー言いながらも少しだけ離れて完全に逃げてはいかないのだ。その心理をどういうんだろう。怖いもの見たさ?それとも鬼ごっこ?
ラッタッタッー、ラッタッタッー、ラッ!ドシン!
「午後二時三十分、通報により駆けつけた。おまえをワイセツ物陳列罪で逮捕する」
やっぱり捕まってしまった。遅かれ早かれこうなることは目に見えただろうに。俺の体を乗っ取った影の黒幕めが!
警察署に連れていかれ、取り調べが始まった。
「本当に機械の体なのか!?」
「だから何度も言っているでしょう。俺は遠隔操作を受けてあんな恥ずかしめを受けたって」
三日後、ただの酔っぱらいが起こした事件として処理され俺は晴れて釈放となった。
俺は主治医の先生にありのままを伝えた。
「考えられる事象といえば、この世に無数に突き通っているモバイルなどの電波を体幹LSIが何らかの条件が揃って拾い、大きなショックがある種のスイッチを入れてしまい、ワルツのリズムに乗って無意識にある欲望を顕在化したと。こう考えるのが最も自然なことですな」
「じゃあ黒幕なんか……」
「遠隔操作なんて妄想ですよ。あなたを操作してなんの益がある人がいるんですか。東西南北、上下左右をしっかりと
俺は主治医の先生に看破されぐうの音も出なかった。田舎にある病院である。そこの療養所となると、飛び交う電波も少なかろうと俺はしぶしぶ療養所で生活することにした。
ラッタッタッー、ラッタッタッー
今でもこのワルツが、頭の中をヘビーローテーションしている。
完
危険なワルツ 村岡真介 @gacelous
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます