魔法を信じ込まされそうになった場合の対処法

 メイドさんに連れられてやって来たのは、学習用机2つとそれに付随する椅子2つだけがある部屋であった。広さは先ほどの校長がいた部屋と比べると、あまりにも狭く感じられた。



 着席を促され、席に着くと、メイドさんは机の中から様々な用紙を取り出した。

「まず、ここの学校について説明をさせていただきます。この学校は、一般の人間では持ち得ない能力、ソルセルリエを持っている者のための学校です。ここには、小学1年生から高校3年生までが在学しています。あなたがここへ連れてこられたということは、つまり、あなたもソルセルリエを持つ者であるということです」

 ソルセルリエ————。さっき校長が言っていた能力のことなのだろうが、私はそんなもの持ち合わせていない。



「私、そんなもの持ってないと思うんですけど」

 私は、メイドさんに言った。

「ソルセルリエは人によって異なりますし、力の大きさ、数、出現時期も異なります。あなたが持っていない、と思っているということは、はっきりとした自覚が無いまま既に使用しているか、まだソルセルリエの力が小さく、気づいていないかのどちらかだと考えられます。あなたはかなり賢いようですから、自覚が無いまま使用していることは考えにくいですが」



 なるほど、自覚が無いならわからなくても仕方ない……。って、そんな落ち着いていられるか。訳の分からない能力が勝手に身につく前になんとかして、早く東京に帰りたい。このままでは、新中学1年生としての生活がスタートしてしまい、新たな友人関係は定まり、それに乗り遅れた者には惨めな学校生活が待っているのだから。



「じゃあ、早くそれを治してください」

「無理です」

 かなり食い気味に返答が来た。

「ソルセルリエは生まれ持った才能なのです。生まれ持って身体能力が高い人が、その身体能力を完全に失うことがないのと同じように、ソルセルリエも失うことはありません」



 なんというか、絶望しかない。そんな気味の悪い能力を持ち合わせていると他の人に知れたら、いじめられてしまうかもしれない。惨めという言葉では言い表せない、まるで地獄のような学校生活になってしまう。

「じゃあ、私はどうすればいいんですか」

 現状を打破するために、何かヒントを得ようと質問した。

 しかし、質問にはヒントが返ってくるのではなく、正答が返ってきた。



「それは、この学校で生活することです。ソルセルリエを身につけ、コントロールするすべを身につけるのです。それが、この学校の創設理由でもあります」

 メイドさんは椅子から立ち上がり、私の正面、メイドさんの背側にある窓から外を見た。

「私も、最初ここに連れてこられた時はあなたと同じように、ここから出る方法を最初に尋ねました。しかし、その時も、私がお答えしたような返答がきたのです。ここには、同じ年代の子たちがいます。全員がソルセルリエを持っている子たちです。中学生の場合は通常の学校で学ぶ教科ではなく、ソルセルリエについてのみを学びますが、あなたの場合は問題ないでしょう」

 メイドさんはこちらを振り返った。



 確かに、このメイドさんが言う通り、中学生で学ぶ内容を勉強しなくても問題は無い。なぜなら、もう既に学習していたからだ。



「中学生でこの学校に来る子は、必ず賢い子ばかりなのです。中学受験に向けて、中学生の内容も小学生の段階で学習し終わっている子ばかり。これは、この世界での一つの傾向と言えます」

 メイドは、私の目を見つめ、話を続けた。

「そして、中学生でこの世界に入った者はソルセルリエを中学生の間にコントロールできるようになる者が多く、その者は、必ず偉大な人物になるとされています。例えば、校長先生もそのうちの一人。あなたも、どのような道であれ、偉大な人物になる可能性を秘めている…。だからこそ、ここで学ばなければならないのです」



 偉大な人物————。それがどんな人物を指しているのか、私には分からなかったが、その言葉には大きく惹かれた。



「わかりました。私、この学校で学んでみます」

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絵に描いたような学園ファンタジーの世界に飛ばされた場合の対処法 継生 大秀 @daisyutugiu

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