冴草ちゃんとキャンプ 1日目夜



 ワイルドでアンタッチャブルなキャンプは初日の夜を迎え、阿鼻叫喚の真っ只中にあった。


 キャンプと言えばキャンプファイアーだ!とは誰が言ったのか。


 キャンプ場に作られたそれは天まで届けといわんばかりに燃え盛っている。


「・・・・・・」

「いくら何でもやり過ぎじゃないか?アレ」

「・・・・・?」

「そう言ってもなぁ……三階建ての家くらいの高さがあるキャンプファイアーってどうよ?」

「・・・・・♪」


 彼女はベンチに腰かけ、足をプラプラさせながら楽しそうに笑っている。


 うん、この笑顔が見れたからアレは良しとしとこう。


「あらあら?お二人さん、ちゃんと食べてる?」


 そうしていると、乙さんが焼魚を持ってきてくれる。

 ってデカいな!?


「・・・・・・」

「鮭?鱒?なぁ乙さん、どっちなんだ?」

「似たようなものだからどっちでもいいじゃない?美味しければ問題なしよ!」

「・・・・・・」


 普通焼魚といえばアユの塩焼き的なものを想像するだろ?


 ははは、見てみろよ?1メートル近い鮭だか鱒だか分からない魚が木の杭に刺さって焼かれてるんだぞ?


 どうやって食うよ?


 子供達なんか周りに群がってかじりついてるし。

 あ、ゴリラが持つと案外小さく見えるな。


「・・・・・・」


 へいへい、骨を取って身だけにするのね。

 綺麗に身をほぐして彼女に食べさせてあげる。


「・・・・・♪」


 にぱっとご満悦のご様子。

 煌々と燃える火に照らされた彼女の横顔は息を飲むほどに美しい。

 跳ねっ返りのある金髪も、フランス人形の様な端正な顔立ちも、全てが全て美しい。


 顔じゅうを魚な脂でべったべたにしてなけりゃ、だけど。


「どうやって食えばこうなるんだか」

「・・・・・?」


 タオルで顔を拭いてやる。


 くすぐったそうにいやいやをする彼女を捕まえてキレイにしてやっていると、キャンプファイヤーの方から大歓声が聞こえてきた。


 ……また踊るのかよ?


 じゅりあなさんを筆頭にボディコン姿の熟女の群れ、それを取り巻く旦那さん方と思しきオヤジ達。


 未だブーメランパンツのちっさいオッさん。


 お茶を運ぶ黒服。


 ゴリラに寄り添って楽しそうな頼子さん。


 そしてクマ。


 ……クマ!?



 おいっ!何ちゃっかり参加してんだ!クマ!

 ってか器用に焼魚食ってるな!?


 あ!こっちに気付いた!


「・・・・・・」

「ガウッ!」


 サムズアップしてるぞ?

 それでいいのかクマよ……





 そんなドンチャン騒ぎは深夜まで続いたのは言うまでもなく。

 火が消えたキャンプファイヤーの周りには死屍累々と酔っ払いが寝転がっている。



「いい夜だな。冴草ちゃん」

「・・・・・♪」

「そうだな、たまにはこんなのもいいかもな」

「・・・・・♪」


 俺と彼女は河辺に寝転がり満天の星空を見上げていた。

 風が涼しげに流れ、羽虫達の合唱が聴こえる。


「・・・・・・」

「また来たいねって?うん、また来ような」


 よいしょよいしょと俺の上によじ登ってきた彼女を抱きしめ、撫でてやる。


 ぺろりと俺の唇を舐めて顔を埋める彼女。


「・・・・・・」

「は?ここでか?」

「・・・・・・」

「いや、そりゃそうだけど……もうちょっと向こうに行かないか?」

「・・・・・♪」


 俺はそのまま彼女を抱き抱えると上流へと向かう。


「・・・・・♪」


 月明かりの下の彼女の裸体は綺麗だった。

 キズひとつない真っ白な身体に真っ赤な唇がひどく卑猥で。


「・・・・・♪」

「うん、綺麗だ」


 彼女は満足そうに笑い、俺に覆いかぶさった。





 ぱしゃ。


「ん?……なんだ河童か……」

「・・・・・・」

「いや、あれは食べれないからな」


 え?河童!?




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冴草ちゃんはしゃべらない。 揣 仁希(低浮上) @hakariniki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ