第3話
結局のところ、道雄とめぐりは、AIを見つけたところで、2人はそれをどうしようとか、誰かに伝えようなんて思わなかった。
実際、手に余った。
だから、2人は何もなかったことにしようと決めた。
「なぁ、メーグ」
「なに、ミルチー」
「今日は、どうやって帰ろうか。
下道を通ろうか。高速を通ろうか」
「下道は景色が良いけど、長くて退屈なんだよねぇ。
高速は早く帰れるけど、景色が単調で、それにスピードが出て怖い」
「でも、スピードが出るからこそ見える体験もある。
バイカー特有の、スピード狂なんかは、その為に走ってるし」
「アタシ、その考えは一生理解できない。
スピード出ると、すっごく怖いモン」
「なら、下道で帰るか。木曽川を沿って、ずーっと真っすぐ。
そしたら名古屋に帰れる」
「箱の中にあったさ、AIたちって、こんな感じなのかもね」
「なんで」
「その場にあったもので、進化するんでしょ。
アタシたちも、そこにあった道があって、進むじゃん?
でも、どっちかを選ぶくらいはするじゃん?」
「あぁー。そうだな。
それがまさに、ニューラルネットワークの、重み計算だ。
人間は、どっちかを選ぶとき、より好ましい方、重い方に進む。
ビュリダンのロバってのがあってな。
お腹をすかせたロバの前に、左右二つの方向に、2つの草がある。草の量もロバとの距離も同じ。
もしこのロバが完璧なコンピュータだったら、どちらの草を取ればいいか、計算をする。しかし、どちらも同じ効率で取れる食料だった時、コンピュータはずーっと効率を探求し続ける。その内、草は取れないで餓死しました。終わり」
「バカじゃん」
「そ。でも、人間は違う。どっちかの選ぶ自由意志を持ってる。
というか、人間は利き手があるからな。
右利きだったら、右の方を取った方がしっくりくる。
左だったら、その逆。
体幹とか、体のバランスによって、また千差万別。
たぶん、効率とか関係なく、適当な方を選ぶ人もいるだろう」
「よくわかんない」
「つまりな、俺たちは、好き勝手な道を進んで、そこにある景色を見るの」
地球のヒト、箱の中のヒト 強井零 @real_de_yaruo
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