世界終わりし、乙女よ振り抜け金属バット!

@deko_boko

あと五分で世界が滅びる!!!

 おいっす、どうもの私の名前は「デス トロ子」! ちょっと変わった女子学生! って、悠長のんべんだらりと酒でくだまくような説明なんざ今はしてらんない! なんせだっての緊急事態、まったくもって今は大変なんだ! そう、大変大変、大変だ! 空から近づくおっきな隕石! つまり……、なんてタメは捨てとけゴミ箱直球!


 あと5分で世界が滅びる!!!


 私は走る、金属バット片手に愛しのあの人、最期のひと時迎えるために全力疾走、勢い猛進、猪突が如く! それにしたってももはや状況、人間社会のろうそくが燃え尽きる瞬間、最後に燃えあがる炎が如くに阿鼻叫喚の終末押し込み強盗! そこかしこでまさに倫理は零落、社会崩壊、過去の遺物の社会性、むき出し欲望人間性が跋扈ばっこのあと5分!

 おおっと、そんなこと思ってたらさっそくあちらで男が力で女を組みしだき、ことに及ぶ一歩手前のクソ野郎がいやがるぞ! ったくこちとら急いでんだの衝動直結即行動! 男めがけて突っ走れ!

「ああん? なんっ」

こっちはあんたのセリフなんて聞いている暇なんて一切合切ありゃしない! ってことでアゴを全力で蹴り上げ、男の頭がどストライクの打ちごろだ! あとは勢い任せて金属バットでこめかみ直撃全力スイングホームラン! どや、これが暴力の因果応報ってやつだ覚えとけ、っていってももう一足先に昇天か! アハハハハッって、あたり飛び散る血と脳しょうと共に笑ってみた! 金属バット一発でそこまでいかない? そういう細かいことは気にしないでの今は勢い、すべては勢い、それがクライマックスってなもんだ!

「あ、ありがとうございます!」

「なに、どういたしまして! じゃ、よい終末を!」

最高の笑顔を見せて返事してから顔にかかった血を拭って先急ぐ! さあ、愛しの人はどこにいる! 君死に給うことなかれ、私が隣にいない間には!


世界が終わるまであと……、大体4分!

 

 さあ、走れや走れ、私の足と心臓、息せよ呼吸! このままじゃ間に合わない! 恋愛至上主義なんて考えは毛頭ないの不毛な憧憬だからって、気持ちを伝えられないのは勘弁こうむり、絶対無理だ!

 にしてものどうにもこうにも、世界の最後だからってみんなちょっとはっちゃけすぎじゃない? 目の間に広がる人、人、人、クズ、クズ、クズ!

「金を出せ!」

「世界終わるんだから金なんてもう意味なしだばっか野郎! ノドを一突き、金属バット!」

強盗野郎に渾身一撃、飛び散る吐血につぶれる仏! 赤い液体ってのは空中に映えるね! さあ、次!

「おうおうおう、ここを」

「おらおらおら! どけの延髄バット打ち!」

なんで通せんぼしてんだってんだ、お前はゲームの通せんぼやくかっての! おとなしく寝とけ! さあ、次!

「信じる者が救われる、さあ皆さん神に」

「神がいるならそもそも世界を終わらせるな! 必殺神殺しバット!!!」

今私に必要なのは私が私の心を叫ぶこと! 代弁者なんて不必要! あっ、さすがに私は悪魔じゃないから今のは神は殺しても、人は殺してないからねのかしこ! さあ、次!

「フハハッ、とうとうこの時が来たか! 今、魔王たる私は」

「長い! もう世界は終わるんだの魔王撲殺バット!」

世界を支配したいならまずは世界を救ってからにしろ! 滅んじゃ意味ないだろの意味深場違い野郎は即退場! さあ、次!

「お嬢ちゃん、一曲歌ってきな!」

「私の相棒は金属バット♪」

ふう、ちょっと3秒程度のひと休み。あー……、一息、ついた! 残す時間はあとわずかなんだの最後まで突っ走るぞ! さあ、次はなんだのお邪魔は無視、邪魔なやつは馬に蹴られなくても金属バット!

「グバァーーー」

「ゾンビはお呼びでない! ヘッドバット!」

ゾンビの頭は脆すぎて個体だったのが嘘のように液体があたりに飛び散る! もしかしてこれでゾンビ症に感染……、ってそんなことを考えても今は意味なし、死んでから考えれ! さあ、お次はなんだのそろそろ良いんじゃないのフィニッシュだ!

「ヒャハハハハハッ! 世界終末バーゲンセール! 気分が超ハイになる不思議な粉パーティーだ!」

「アハハハハハハハハハハッ! バァァアッット!!!」

白い粉に赤い血しぶき白っぽい脳みそ空中散歩! アハハハハって感じで脳内シナプス最高潮! これなら終末まで私は突っ走れる! あー、にしても。

 こんな社会死すべし! って、そっかでどうせあと少しでこの社会は死ぬんだったな、アハハハハハ!


世界が終わるまであと……、多分3分気分!

 

 あ、赤信号だ。世界はもうすぐ終わりだってのに信号というルールをちゃんと守ってしまった。こんな世界が壊れた中で、私自身も結構壊れてきてる中で、ふとそれでも社会が律する小さな規範意識に縛られているようで少し嫌悪感を覚える。罪悪感はない。規律を守るんだからそりゃそうだ。でも罪悪感はないのに嫌悪感が生まれるのがなんだか不思議だった。罪悪と嫌悪は必ずしも結ばれている感情ではないんだな。そんなことを赤信号を見つめながら、今まで全力で走った結果の心臓の高鳴り、頭の中で思考のBPMが高まる中で、ふと考えた。そして、信号は青になり私は一歩、歩を進める。

 と、その時! 信号無視の大型トラックが私に迫る! めぐる思考に走馬灯、0.1秒の間に思考が動くよ光速で! はてのさてさて世界が終わるにはあと少し、ここで死んでも死亡時間にすれば些細な違い、でもその2分程度が大きな違いなんだ、私には! こんなところで死ねるかってのバッカ野郎の振り絞れの火事場の力に脳細胞に筋肉たちよ、命燃やせよ、金属バットをふれ乙女!

「異世界に転移するのはオマエだ、トラァァアック!!!」

私の魂をかけて振った金属バットと大型トラックが衝突する! 瞬間、衝突した箇所に空間、そう空間としか形容のしようがない何もない場所に亀裂が走る! その亀裂からは徐々に七色の光が漏れ出し、そして亀裂が縦横無尽に空間を走り出す。私の金属バットと大型トラックの力は拮抗してる。この拮抗が崩れ、相手をぶち負かした方が異世界に飛ばされるんだろう。異世界、そこに行けば世界の終わりには巻き込まれないのかもしれない。でも、はたしてそれでいいのか。生き残れる。あと2分後に死なない。人生の逃避先として異世界もまた有りだろう。……でも、

「そんなの、否だ!!!」

トラックが、消えた。光に包まれ、そして亀裂がトラックを中心に収縮していきパツンと。まるで最初からそこには何もなかったように空間の歪は消えた。運転手ごと。グッバイ、トラック運転手。異世界であなたの健闘、祈っとくよ。

 ふう、さすがに今のはとても濃密な時間だった。時間が圧縮され、筋肉の動き、血流の動き、神経そのものに情報が伝達されるのがわかるほどに感覚は鋭敏に。まるでこの1分は、1分だった。にしても、あー……。

 右腕、折れた。


世界が終わるまであと……、2分。

 

 読んでいるみんなには聞こえないかもだけれど、さっきから終わりが近づく音がどんどんと大きくなってきた。地面が揺れるオマケ付きだ。終わりが、近い。本来の私ならエクスクラメーションマークを言葉につけてつけてつけまくって、疾走してただろうに、でもさっきので精魂が尽き果てた感じがするし、何よりも右腕が折れて痛くって思考は通信制限がかかった如くに鈍い。気分がハイになる粉の効果時間も今ので脳からぶっ飛んだらしい。テンション、ひく。赤く染まり少しへこんだ金属バットの頭を地面にすらせながら夢遊病の様に歩く。走る元気がなくなっちゃたんだ。あと、少しなのに。あと、少しなんだ。あと少しで愛しの人と会える。物語なんだから、きっとそのはずなんだ。そして、言って、世界と終わる。けど、どうやらそれは……。

「嬢ちゃん、どこに行きたい?」

「え?」

「どっかに行きたいんだろう? なら連れてってやるぜ、世界が終わるまでよ」

「なんで?」

「嬢ちゃん。オレはタクシーの運ちゃんだぜ。ならよ、どっかに行きたいやつがいれば連れてくだけだ。たとえ世界に終わりが近いからってな」

「…………」

「乗りな」

世界はうまくできてるもんだ。そう思った。ってことで……、これはだ。

「うん、乗るよ!」

つまりこれってクライマックスがタクシー運転手とやってきた! ジャンプ、着地の仁王立ちのボンネット!

「運ちゃん! 世界の果てまでぶっ飛ばせ!」

「ああよ、任せときな!」

直後にフルアクセルで速度超過のタクシーが走り出す! しかし、そうはいかんぞと後ろからはパトカーがサイレン音を鳴らせ散らせながら迫ってきやがるってんだから、社会の終わりだってのに公僕ってのはルールの下僕だなって再認識!

「運ちゃん、振り切れる!」

「ハハッ、誰にものいってんだ嬢ちゃん! 嬢ちゃんこそ振り落とされんじゃねえぞ!」

「アハハッ、私を振り落とすには世界は遅すぎる!」

風になるが如くの、ううん、ここは盛りに盛っての光になるが如しの超速度でパトカーをぶっちぎる! へへんだ、のろま! 速度違反のキップは世界の崩壊後にとっといて! よし、これで後は

「嬢ちゃん、前!」

「は?」

 前を振り向いた瞬間、隕石雨が眼前に迫り側頭部をかすめる。一瞬遅れて、頭に衝撃が走る。一瞬遅れて、飛び散った肉を補うかのように血が飛び出す。一瞬遅れて……、隕石の一部が地面に落ちた衝撃波によってタクシーが飛び、そして私はさらにぶっ飛び、空を飛んでのアイキャンフライ。


世界が終わるまであと……、1分。


 アハハ、空が回るよ回る。あー、頭蓋骨も少し吹っ飛んだかも。ともすると脳みそも実はかけちゃった系? そんなことを脳みそのシワに沿うように思考が這う。鈍く動く思考の流れは脳みそが欠けてるって教えてくれる。世界が、低速になる。私だけが世界と時間軸を異にしてる。ただたとえ時間は異にしても空間はまだ同じだ。空からは石の雨が降り注ぎ、そして一つの隕石がこっちに向かってきてる。さすがに、死ぬかな。

「ここで死んでいいの?」

「誰?」

「キミの相棒の金属バット」

「もう右手は折れて、頭は欠けた。さすがにもう無理だ。私は」

「一生懸命やった?」

「うん、そうさ。過程である程度の満足は得たさ」

「でも、過程だけに満足していいのかい? まだ結果は出ていない。そして、次の結果は訪れない」

「得られない結果を得ようとさせるのは洗脳じゃない? 洗脳じゃなくたって、それは呪いだ」

「そうとも取れるだろうね。でも、今のキミの場合は違う」

「なんでさ」

「キミがあとの時間、ほんの数十秒。命を燃やせばまだ間にあうからさ」

それを聞いた瞬間、金属バットが眼下に見える人影を差す! その人影は……、誰かなんて言うすら必要なんてない! 迫りくる隕石、

「お前、邪魔!!! 人の恋路を邪魔する隕石は金属バットにぶたれて砕けちまえってんだの、この隕石ふぜいっ!!!」

私を諭すまったくもって生意気な金属バットが隕石を粉々にして、私の肌を裂くようにして流星雨! もうこれで邪魔するやつはすべて金属バットでホームラン! さあ、あとは……!

「振り向いて!!!」

彼が、振り向く。時間はもうない、あとわずかだ。ビルの屋上に着地するまえに……!


 私のまなこは愛しのキミをまなざす!

 私の心臓は最後のビートを刻む!

 私の脳は欠けてもキミへの恋が頭を満たす!

 私の金属バットは、私の手を握ってくれる!


「キミがっ」


ここで詰まる呼吸なんて今更ない。もうあとは、最後の言葉を、吐け!


「大好きだ!!!!!!」


 心臓の鼓動が、血液の流れが、全身の神経が、その言葉を吐き出した。その言葉と共にキミの目の前に着地して、私はここを世界の中心にした。

 キミは私を見つめ、沈黙が私たちを包む。終わりまではあと数秒だ。だから、答えてほしい。答えを聞かずに終わるだなんて、それだけは嫌だから。だが、まだ沈黙。世界の終わりを告げる隕石だけが雄弁にしゃべっている。金属バットを握る手に少しだけ力が入り、地面を擦ってかすかな音が聞こえる。私は、それに伴って声を出そうとした瞬間、彼が口を開き応える。


「断る」


時間が止まった。


 うーーーん。ま、そうだよね。今、私って血まみれだし、頭が欠けて脳みそ出てるかもだし、金属バットは赤く染まってるし、うん、しょうがないかな? 告れば絶対大丈夫って確証なかったしね。でも、ま、そだな。うん。見上げれば隕石はもう目の前。世界、あと数秒で終わるんだよね。ってことで。




 ガンッ!!!!!!




世界が終わるまであと……、3、2、1、

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