第一章 一話

「はぁ…今日は散々なめにあったな…」


九死に一生を得て助かったあの後、全力で逃走して疲労が溜まった為、早めに切上げて体に着いた汗や血を洗い流しているこの時でも僕は脳内に刻まれたあの光景を思い出す。


「レイシアさん…か…」


あのホブゴブリンに追い込まれる恐怖を今だに感じ続けて居るが、それを覆すように僕を助けてくれた彼女の事が何度も脳にフラッシュバックする。


「僕なんかじゃ釣り合わないよな…」


彼女はこの迷宮都市、エルロリアの閃光の異名を持ち第一級に名を連ねる誰もが知る冒険者だ。対しこの迷宮都市に来てまだ一ヶ月も経たない新人冒険者の自分なんか釣り合うはずもない。


「っ、冷たい、あ、時間切れている…」


メータを見ると、最下まで下がっていた。


「はあ、今日得た魔石で代用しないと…」


このシャワーは一回目は無料だが二回目からは自腹だ。 肩をがっくりして落ち込むが、ここで魔石を使いお湯に変化させないと明日以降の探索に支障をきたすかも知れない。

その為、自身が今日得た魔石を一つ取出してはめ込む。

すると、メータがある程度上がり、お湯になったシャワーが出始める。


「はあ、夏だったらよかったのにな」


そんな愚痴を言いながらもメータが切れる前にと急いで身体を洗い、その後冷えないように体を拭終えると、僕はギルドに向かった。



    ◇    ◇    ◇    ◇



「ルクス君、大丈夫かな」


ギルド員のエリス・ローナは自身が迷宮探索のサポートを担当しているあの、灰色の髪をした明るい彼の事をふと思い、心配する。


迷宮を探索する冒険者達の内、数は少ないが誰かは必ず毎日死んでいる。

実力不足、自信過剰、有頂天、欲に負けた、現実を見ていなかった、仲間に裏切られた、運が悪かったなど、様々な理由で死んでいく。


そして、その理由に当てはまるのは新人冒険者達だ。

熟練の冒険者は欲に負けたりや仲間に裏切られるや運が悪かった事で死ぬことはあるがそんな事はめったにない。

対して新人の冒険者は甘い夢を見ているせいで引き際を知らずにデットラインに踏み込み死にゆく。


その中にあの子が入っていないか、心配しているエリスは書類作業のスピードが段々と落ちて行き。


「もう、エリス。この書類今日提出なんでしょ、集中して早くやらないと、上司に怒られるよ」


同僚の獣人の女性はそう言い、エリスの右頬を羽ペンで突く


「あ、ミーシャ、ごめんごめん、直ぐやるね」


そう言い、エリスはスピードを上げて書類作業に専念するが、また段々と速度が落ちて行く。


「エリス、貴方の担当し居ているあの白っぽい髪の子の事を心配する気持ちもわかるよ。あんな無邪気で優しくて元気な子なんてこのエルロリアではめったにいないしけどさあ、あの子は自身の夢を見て自分で死と隣り合わせの冒険者と言う職業を選んだんだから」


「で、でも、あの子、仲間作りが苦手ソロだから心配…」


「あ~もう、エリス、貴方は心配するんじゃなくて、あの子を笑顔で待ち続けて笑顔で迎えなさい。そしたらあの子も心配かけないようにすると思うから。それに、今潜っていいって言ってるのは三階層までなんだから、まじめに言う事を聞くあの子なら新人のソロでも大丈夫なんだから、安心しなさい!」


「う、うん、そうだよね、私が暗く落ち込んでちゃあの子に無駄に心配かけちゃうよね。ミーシャありがとう、私頑張ってみる」


エリスは、ぎゅっと拳を握りしめ「よし、頑張ろうと」小声でつぶやく


「はあ、いつも大人なエリスがこんな乙女になるなんて…っと、噂をすればあの子が帰って来たみたいだよ」


「え、ホント!」


「あ、エリス、こら!」


エリスは仕事を放り出して、エントランスに向かいそれを止めようとミーシャが捕まえようとするが失敗に終わった。


「やれやれ、いつも手伝ってもらってるし私がするか」


そう言い、ミーシャは部長にエリスの分を自身がすると言い含めて仕事を再開するのだが、今日のエリスの仕事は古代語を必要な難しい仕事であり、古代語が苦手なミーシャはそれを目にし「うみゃぁあああああ!」と叫ぶ声がギルド内に響いた

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それでも僕は英雄に成りたい 叶瀬囲炉裏 @ka1412ryu

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