それでも僕は英雄に成りたい

叶瀬囲炉裏

プロローグ 

小さいころにおじいちゃんが読んでくれた偉業を成し遂げた数々の英雄のおとぎ話。

厄災を振りまくドラゴンを倒す剣王。貧しい人々を癒し導き、己に秘められた多くの知恵を使いやがて大国を築く英雄王。飛竜に乗って囚われの妹を助ける姫竜騎士。悪徳領主や大豪商から、資産を盗み貧しき人たちにそれを分け与える怪盗王など、歴史にその名と偉業を刻み込んみ、おとぎ話として語り継がれる英雄たちの物語。


小さいころに僕はその数々の英雄の話を聞きこう思った。


英雄になりたい、と



    ◇    ◇    ◇    ◇



「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


まずいまずいまずい、逃げないと、こいつから逃げないと、


灰色の髪の少年は走り続ける、横腹や肺が痛みもう止まりたいと心で思うが歯を食いしばりただひたすら走り続ける。後ろから迫りくる一体のホブゴブリンから逃げる為に。


「はしれ、はしれ、はしれ、はしれ、はしれ」


足が悲鳴を上げるが、それを誤魔化すように声を荒げて叫び自身の身体に言い聞かせて走り続ける『死にたくないなら走り続けろ、そしてあいつから逃げきれ』と。


しかし、それも無駄に終わろうとしている。


「道が、無い…」


二つに分かれた曲がり道を右に曲がる。するとそこは八メートル程道が続くだけの行き止まりであった。


「グゲェへ」


「ひっ!」


駄目だ、今の僕ではこいつに勝てない、何か、何かないのか。


そう辺りを見回すが何もない、あるとすればこの空間の光源となる壁に埋まっている淡く光っている光石だけであり、彼の助けとなる物など何も無かった。


こうして思考を動かしている間も黒いオーラを纏うホブゴブリンは弱者たる彼をもて遊ぶかの如く、恐怖を駆り立てる様に迫りついに彼、ルクス・ノートのあっけない生涯がこのホブゴブリンによって終わろうとしたその時


閃光が走る


「ギュャィ…」


ホブゴブリンが悲鳴を上げるとともに閃光が走り、ホブゴブリンは切り刻まれ消滅する。そして、それと同時に ルクスの瞳には一人の女性が目に入る。


白く綺麗な髪をなびかせながら、その手に握るレイピアに滴るホブゴブリンの血を振り飛ばし、鞘に仕舞う。可憐な女性。


「あの…大丈夫、ですか?」


自身の視界を妨げる前髪を右手で耳にかけ乍ら、その曇り一つない美しいおっとりとした翡翠の瞳でこちらを見ながら彼女は、ルクスに声をかける。


「あ、え、その…」


ルクスは戸惑う、窮地に駆け付け助けてくれた閃光の異名を持つ彼女、レイシア・フィーメルドを目にして死と言う恐怖から解放される安堵と同時にこう思った。


綺麗だと。


つまり、ルクスは彼女、レイシア・フィーメルドに一目惚れをした。そして思考が低下し、さらに追い打ちをかけるかの如く、レイシアが顔を近づけ見下ろして話かけ来た。

それにより、現在ルクスの脳内はパンク状態にであり、顔にもそれを表すように真っ赤になっている。


「あの、本当に…大丈夫?」


顔をが真っ赤に染まり更に大丈夫なのかと心配する彼女はついに、ルクスへとその細く綺麗な手をこちらへと伸ばしてくる。それと同時にルクスの脳は限界に達した。


「はひぃぃいい、大丈夫ですぅぅうう!!」


触れかけたその瞬間、ルクスはそう言い残し走り出す、ホブゴブリンから逃げた先ほど以上の速さで走っていった。



この時、彼、ルクス・ノートを中心とする彼の人生と言う名の物語は新たに始まった。

彼の人生は安定した平凡なのか、はてまた荒ぶる逆境に抗う波乱万丈かは誰も知る由もない。

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