エピローグ

 ブラジル、ナイジェリアを撃破した日本。続くハンガリー戦では主要メンバーを休ませ、結果引き分けとなったがグループ1位で決勝トーナメント進出を決める。

 強豪に打ち勝っての快挙に日本中が沸くこととなった。


 ベスト8の相手はガーナ。ナイジェリア同様恵まれたフィジカルに苦しめられるも、コーナーキックからのキャプテン井原のヘディングゴールを守り切り、ベスト4に進出。

 そこで待ち構えていた相手はマイアミで奇跡の勝利を勝ち取った相手――ブラジルであった。


 アセンズで行われたブラジルにとっては雪辱の一戦。前回の敗北を教訓に、侮ることなく開始から本気で攻め立てたブラジルの攻撃は圧巻の一言。

 これまでの快進撃で深めた自信を根こそぎ奪われるほどの実力差がそこにあった。2-4の大敗は『アセンズの現実』と後に呼ばれたが、金メダルを獲得したブラジルとの二試合は世界の『日本を見る目』を確実に変えた。


 大敗はしたものの、仲田、中園のゴールで爪痕は残した日本。本気の『世界最強』という得難い経験、確かな実績が日本サッカーの未来を変えようとしていた。





 夕暮れに浮かぶ桜島の噴煙を眺めながら、宮原は錦江湾の海を眺めていた。側にいるのは妻のサビーネのみ。


「今回の結果はあなたとしてはどうだったの?」

「上出来だよ。俺の知るアトランタ五輪は決勝トーナメントに進めなかった。グループリーグでブラジルを破るところは同じだったけど、その後さらに本気のブラジルと戦えた。あいつらはすごいよ」


 その表情に浮かぶのは純粋な賞賛の色。自分が挑んだ『ドーハの悲劇』は内容に差異あれど、かつての歴史をなぞらえた結果であった。

 世界の流れという大きな枠組みでは小さなものであれど、日本サッカー史の流れを変えた若き選手達の奮闘を宮原は心の底から喜んでいた。


「これから時代はどう動いていくのかしら?」

「俺にも分からないよ。自分なりに鹿児島が、日本がよくなるように色々やって、これからもやっていく。全てが俺の思い通りにいくことなんてない。まぁだから人生は楽しいんだけどな」


 そう言って笑う宮原。彼の秘密を知る数少ない人間にしか漏らすことのできない本音を、サビーネは優しい微笑みで受け止める。


「これからもっともっと忙しくなるわね」

「育成年代も目を向けたいし、日本人選手が海外で活躍できるようなルート作り。Nリーグも盛り上げないとな。お義父さんからも手伝ってくれと言われてるしなぁ」

「実業面もやらないといけないことだらけでしょ?」

「そっちはそろそろ後進にゆずるよ。というかそのための準備はある程度できてる。引いたからといって一切関わらないとはいかないけど」

「じゃあ家庭に費やす時間も増やせるわね。翔太も佳奈も喜ぶわ」

「全然家にいない父親ですいません」

「子供たちも分かっているわ。あなたができる範囲で精一杯相手してくれることは」


 その時桜島から音が鳴った。遅れて大きくなっていく噴煙は自然の持つ確かな生命力を具現化したようであった。


「私、桜島好きだわ。確かに地球は生きているんだと感じれて、私もちゃんと生きなきゃと思うもの」

「二度目の人生が何故始まったのかは分からないけど、俺は確かに今を生きている。これからも君や仲間と共に生きていく。マンガの打ち切りじゃないけど、俺たちの闘いはまだまだこれからも続く。引き続きサポートよろしくお願いします」


 頭を下げる宮原に、吹き出すサビーネ。笑いあう二人の上に延びるのは桜島の噴煙。


「日本のサッカーがこまで伸びるのか? どの道に延びるのか、楽しみだな」

「あ、まずい。灰がふってくるから洗濯物入れないと」

「よし、家まで競争だ!」


 日本サッカーはこれからもW杯や五輪に挑む。選手個人でも海外に挑戦する者達が増えていくだろう。彼らの軌跡がどう変わるのか。


 一人の男がつくる流れはこれからも続いていく。





 『サッカークラブをつくろう~SC鹿児島物語~』、これにて本編完結とさせていただきます。今後は時間軸を飛ばしながら随時追加していく予定です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サッカークラブをつくろう~SC鹿児島物語~ ダヌ @danu0730

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ