第26話 愛猫とは別に買い物に行く(武器屋編)
「ねーちゃん、ねーちゃん」
福に呼ばれて下を向く。
「色々うろうろ買い物行くんやろ?」
「そうだよ」
質問に答えると、福は
「じゃあ僕はナワバリ作ってくる!
そのねーちゃんが一緒なら大丈夫そうだし!」
とベロニアを見やった後、胸を張って宣言した。
「えー!?
別行動力する気!?
しかもナワバリってケンカしてくるんじゃ!?」
幸歌は慌てるが、福は余裕たっぷりにヒゲを前に倒して見せた。
「ちゃんとここに戻ってくるし。
今の僕は最強だよ?
ケンカにもならない!」
フフン、と鼻を鳴らさんばかりの福の態度。
止めてもムダそうだ、と幸歌は早々に諦め、肩を落とした。
「ちゃんとここに帰って来るんだよ?
なるべく自分も相手もケガしないように!
大きくなったらダメだからねー!」
「わかったー!
じゃ後でねー!!」
言うが早いか、ピューっと擬音でもつけたい勢いで、福は冒険者ギルドを飛び出して行った。
「えっと、福ちゃんはどうしたのかしら?」
ベロニアが急に走り去った福を呆然と見送り、口を開いた。
「ナワバリ作ってくるそうですー。
猫なんで」
「猫…だから?」
福がバジリスクを倒した事を知っているベロニアは、違和感に満ちた表情で懐疑的に呟いたが、幸歌は無言で頷いた。
「ここに帰って来るそうですし、買い物行きましょう?」
「…ええ、まあ、そうね」
ぎこちなく頷くベロニアにお願いし、一同は装備品を手に入れるべく、職人街を目指した。
「ここがオススメの武器屋よ」
ベロニアの案内で、一軒の古くさい、看板も出ていない、工房のような店を訪れた。
「こんにちはー」
ベロニアが挨拶をしながら中に入るのに続き、幸歌や少年達も…若干一名を除き、挨拶をしながら店の中に入る。
そこには武骨な店内に、様々な武器がぶら下げられたり、立て掛けられたりと多種多様な方法で陳列されていた。
「うわー!」
スカイが歓声を上げて武器に駆け寄る。
セリュも興味深そうにキョロキョロと店内を見回している。
スノウは何かを探すように視線を走らせていた。
「おい、坊主たち、危ねえから迂闊に触んじゃねえぞ!」
店主とおぼしき野太い声が店の奥から飛ぶ。
「こんにちは、ガンツさん」
ベロニアが店主に近づく。
「おう、冒険者ギルドの看板嬢ちゃんかい!」
応じた店主はベロニアと比べて随分と背が低く、筋肉質で樽のような体型をしていて、立派なヒゲを蓄えていた。
その姿を見た幸歌に衝撃が走る。
これは間違いない!
ドワーフさんだ!!
密かに感動に身を震わせる幸歌には気づかず、2人は会話を続ける。
「ベロニアの嬢ちゃんが直接来るなんて珍しいじゃねえか」
「ええ、この子、ギルドにとって大事な冒険者さんで、しかも私の可愛い妹分なのよー」
後半は隠しきれず、嬉しげに若干ベロニアの声が弾む。
「ほーう、お堅いあんたが珍しい事もあるもんだ。
確かに可愛らしい嬢ちゃんのようだが」
「ええ、性格も素直で可愛くて、すぐ騙されそうで放っておけないのよー」
その言葉には、前の世界ではいい年だった幸歌は、流石に複雑な表情を浮かべてしまう。
可愛がってくれるのは嬉しいんだけど…なんか…元社会人の尊厳が…。
「それで買い物もこの私がお目付け役ってわけなのよ。
半端な商品は許さないからね」
胸を張るベロニアにこえーこえー、とドワーフの店主、ガンツはヒゲを撫でた。
「と言っても、ソイツらまだひよっこだろ?
使いこなせる武器にゃあ、限りがあるだろ」
「まあそうね、その中でできる限り質の良い物を、と思ってあなたの所へ来たのよ」
「へ、誉めてもまけねーぞ?」
ガンツは照れているのか、鼻の下をこすった。
「知っているわよ、元々良心的な値段だって事」
ベロニアはにっこりと営業スマイルを向けた。
どうやら幸歌達に代わって交渉までしてくれるようで、ありがたいとしか言い様がない。
何しろこちらは初心者集団だ。
「んで、それぞれどんな武器が希望なんだ?」
どっかりとカウンターに丸太のように太い腕を乗せ、ガンツが幸歌やセリュ達に視線を向けて来た。
それに嬉々として瞳を輝かせ、幸歌が応える。
「一人は盾を持つ予定なんで、片手持ちの剣か槍、もう一人は片手両手両用のバッソ…バスタードソードなんていいと思うんですよね!
後短剣。
それぞれ遠距離用の武器も欲しいです!
できれば斬、打、突揃えた方がいいんでしょうけど、流石にそれはまだ早いかなって!」
怒濤のように捲し立てた幸歌に、ガンツは驚いたようだった。
「お、おう…見かけによらず詳しいな嬢ちゃん」
斬、打、突を揃えたいのは敵によって武器を変えるためだ。
例えば骨のみのスケルトンには斬武器は効きにくく、打武器が効きやすいのはファンタジー界の常識だ。
だが複数の武器を持ち歩くのは、まだ初心者のセリュ達には辛いだろう。
第一お金が足りるかも幸歌には不明だ。
だが、遠距離武器は遠くから攻撃したい際、例えば見張り役への攻撃や、攻撃範囲に入る前の先制など…、武器の間合いに入らない飛ぶ敵などには絶対必要になる。
幸歌は最低で主武器と遠距離武器とを購入するつもりだった。
チートされた飼い猫と旅する異世界 珠貴 朝香 @tensora0107
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