第3話 プロローグ3


「ふむ、君たちが我ら『ユメ叶チャウヨ教』へ志願する者ぞよか?」


「右からシュウジとマフユでございます」


「どうも、シュウジです、はい……し、死ぬ」


 『ユメ叶チャウヨ教』の本拠地は、宮殿のようであった。軍事的設備を備えた城砦の形の構造をしており、その中は儀式を行うためか広く開けた外朝と、その最奥にある30段はあろう階段の先に丸まった屋根が特徴的な内廷が存在している。


「……シュウジ」

「なにさ」

「あの人、語尾が変」

「このアホ、そこでキャラの個性を出してんだよ。一番手っ取り早くて簡単なの、ツッコんじゃいけません」


「なんの話してんのよ」


 その間にある外朝全体を見渡すことができる位置に置かれた豪華な台座の上でふんぞり返っているのが、この『ユメ叶チャウヨ教』の主 グス・モブダヨである。その雪だるまのような体の至るところにキラキラと光り輝く色様々な宝石を身につけ、手に持った虫眼鏡を器用にクルクルと回している。なぜか銀髪少女だけに熱い視線を送っている。


「正直あなたの力ってのは修行するに値する力なのか甚だ疑問なんですよね。時は金なりとも言うじゃないですか、僕の大事な大事な時間を、つまりはお金を使うに値するんですかね?」

「……お金じゃない、金メッキ」

「誰だ今僕の時間を史上最悪最低な物質へと変換したバカ野郎は」


「なるほど、私の力を疑っているんだぬ。しかしそんなこと、一度見せればそれだけで解決するのだから些細なことだぬ。だから特別に私の力を見せてあげ……あの、聞いてる?」


「あんた達、喧嘩してんじゃないわよ!」


 どうやら早速その力を見せてくれるらしい。追いかけっこの喧嘩を始めたバカ二人をモブヨが何とか抑え込みの作業に入る中、グスは道義を着た女性を呼び、数枚の紙を受け取った。


「シュウジ・シキ君の夢は『大金持ちになりたい』だぬ。ふむ、いい夢ぞよ」


「なんで分かったんだこの人、できる!」


「入る前に『あなたのユメは?』ってアンケートに答えたでしょうが、それは普通よ。それで、叶えることは可能なのかしら?」


「その程度。お前さんの頭上に大量の金を振らせることも、私の力なら簡単だぬ」


「えぇ!?……い、いや信用出来ないなぁ! それが本当かどうか是非とも見たいものですなぁ!」


「シュウジ、にやけてる」


「うるさい黙ってろ」


 手をわきわきと動かしながらぐりんとグスの方へ顔を向ける修二、その目を「₤」にしながら駆け寄る彼にプライドはないのか、無いのだ。


 そんな彼を手で制し、グスはニヤリと笑った。


「しかしだぬ、私が簡単にお前さんの夢を叶えることはお前さんのためにならないぬ。夢とは生きるための目的なんだぬ」


「……ん?えっと、つまり何だぬ?」


「クズ様はこう仰っていらっしゃるのです。『努力は裏切らない。一見無駄に見える時間も、積み重ねることで来年、半月後、一月後の力のとなっているはず。それを知ってほしいからこそ、今叶えるのはその夢に近づけるための小さな願いだ』と」


「……つまり、夢を叶えてくれるって」

「なるほど」


 グス真横に立つ側近の1人、優しい雰囲気の中年男性が細かく説明するのを少しづつ首を傾げながら聞いていた修二は、真冬の言葉にポンと手を叩く。グスは台座から重い腰を上げた。


「早速いくだぬ。はぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」


 彼は中腰の姿勢になり両手に力を込め始めると、まるで何かが弾かれたかのようにグスの両手の間から光が漏れ始める。次第と大きくなる輝きは、驚く修二とぽかんと見つめる真冬の前で、





『マジッッッック、パワァァァォァァァァァアアアアアア!!!!』





 グスが両手を正面に出した瞬間彼の手元からまるで光線のように光が飛び出し、一瞬して修二達を飲み込んだ。思わず手で顔を覆うがそれでも瞼の外側からの光を強く感じてしまうほどの強い光は数秒ですぐに収束した。ゆっくり目を開けたその先には、先ほどとなんら変わらない景色が広がっている。


「ゾゾゾ! モブヨの後ろだぬ」


「後ろ……?」


 ニヤリと笑うグス、彼の言葉に返したのはモブヨ自身であった。彼女はグスの指す方向に何があるのか、ある程度の予測を立てつつ振り返る。彼の力を何度も見てきた彼女には、確信があった。



 そこに、修二の望む『ユメ』があーー



 ズザザザザザァァァーー!!



「500リラだ、間違いない500リラだ。金なんて落ちてなかったのになんでこんなとこに、というか『落ちてたのを拾ったらそれは自分の物になるよ』理論採用者のシュウジ君としてはもうこれ僕のものでいいよね、ね?」


「あなた、もう少し人間としてのプライドとか無いの?」


「……無いと思う。そんなの、お金にはならないから」


『ユメ』は、すでに彼の懐へと吸い込まれていた、早業である。モブヨが振り返ったのはグスが「後ろ」と発言して約1秒後、そのたった1秒でこの修二という男は『振り向く→金を認識する→飛びつく』の3行程を行なったことになる。金への執着に関してのみとことん人間離れした男であった。


 ガルルルルル……!と自分が手にした『小さなユメ500リラ』を両手で包み、誰も取ろうとしていないにも関わらず辺りを警戒する修二の様子に、モブヨは心底頭を抱える。一体何しに来たんだこの男と呆れ果てる彼女、


 対してグスは豪快に笑ってみせた。


「わかったかぬ。私は『願ったことを必ず叶えることができる力』を持つ神に選ばれし者、そしてこの力こそが--」


「『マジックパワー!』なんですね、ブス様!」


「……ぷっ、完全に信じてる」


 今一度ポーズを取るグス、その真横で修二は活き活きと真似をしていた。ヘッヘッヘッとまるで興奮した犬のように舌を出しながらグスの周りを飛び回り媚びへつらうその様子を目をジトッとさせたまま見ては小馬鹿にしたように笑う真冬である。


「やっぱり不思議。私の後ろにお金なんて無かったのに、それがどうして……?」


 そのポーズとセリフのダサさから緊張感に欠けるもののモブヨはやはりと、その異能に圧倒されていた。小さな金貨一枚とは言え、突如として現れたその理由をわからない彼女にとってそれは何度見ても超能力、何度見ても超常現象、


 これがグスの『ユメを叶える力』、何百人という人間を溺れさせたであったのだ。


「ふむ。まだマフユとやらは信じていないようだぬ。なんたることか」


「おいおいおいおいおい! 何疑ってんだバカ真冬、この頭固い馬鹿女、ブス様に失礼だろ! お前はブス様に失礼なんだ!」


「……あのね、君もさっきから私の名前間違ってるからぬ? ブスじゃないぬ、グスだぬ」


「そうだぞ! この人はブスでもブスじゃないんだ! 顔はブスで施し用のないほどにブサイクだけど、名前はブスなんだ!」


「ん、よろしくクズ」


「お前達は僕を馬鹿にしに来たのかぬ!?」


 そんなモブヨの隣、自身の髪をくるくると弄りグスの力を見ても全く反応を示していなかった銀髪の少女へとグスの視線が移る。すでに彼の側近の様な立ち位置になっているバカの様子にもなんら反応せず、他所を向く彼女にむむむ、とブスは顔を真っ赤にし、


「今回は特別ぬ! マフユ君、君の夢も少しだけ叶えてやるだぬ、お主の夢はーーぬっ!?」


 信じさせるならば彼女自身の夢を叶えてみせるのが手っ取り早い。そう判断したブスは、手に持ったもう一つの紙をめくり中を読もうとした、


 その紙が、一度まばたきをした瞬間に手元から消えてしまう。


「……私の夢は『お腹いっぱい食べること』、それ以外にない」


「ま、マフユ君、いつの間に私の隣にいるぬ!? 」


「……お腹いっぱい、ごはん、食べたい。それが私の夢」


「でもその紙には確か『とーー』」

「黙って」


「アボボボボボボ!?」


「おぃぃいいい!? 真冬おまっ、神様のブサイクな顔に何してんだボケェ!」


 ブスの大きな顔をその小さな片手で握りつぶそうとする真冬を修二はなんとか引き剥がす。心なしか焦った様子の彼女の様子に何事と慌てる修二の横で、彼女は自身が書いた紙をバラバラに破り捨てた。


「わ、わかったぬ、いやよくはわからぬが。マフユ君の夢は『お腹いっぱい食べること』、それでいいぬ?」


「……。」


「よし、お前の夢を少しだけ叶えてやるだぬ」


 こくりと頷く真冬に少し怯えながらもブスは再びその腰を落とし、そして、


『『マジッッッックパワァァァア!!』』


 再び彼の手元が光り輝き、その掛け声と共に光が彼女たちを包み込んだ。若干約1名、先程疑いに疑っていたはずの貧乏男の声も重なって聞こえたことは無視したとして、


 目を開けた彼女たちの目の前に映ったのは、彼らとブスの間にいつの間にか置かれた豪華な料理が様々に並べられたテーブルであった。もちろん最初から置かれていたわけもなく、真冬が突然夢を変更した上での出現であるため事前準備など出来るはずもない。しかし現にそれは彼らの目の前に出現していた。


 やっぱりすごい、どうなっているの……? とモブヨが感嘆の声をあげる中、


 彼らの動きは、速かった。


「ブス様、万歳!」

「……クズ様、万歳」


「お前らいい加減覚えろぬ!」


 バカ2人はすでにテーブルへダイブすると料理を口にバクバクと詰め込んでいた。敵の施しであり口に含むことは躊躇われるはずのそれらをなんら気にすることもなく両手を使い口の中に次々と放り込んでいく。


 順応性が早いと言えばいいのか、単純に何も考えていないと言えばいいのか。2人の性格をこの数時間で何となく理解してきたモブヨは真剣に考えている自分がバカバカしく思えてきてしまいため息をつくのだった。


「次はステーキ、ステーキ食べたいぞブス様! 軽く叶えちゃってくださいやぁ!」


「おい君、私のことを便利道具として扱ってないかぬ!?」


「そんなことないですって! いやでもステーキは流石に出せないかぁ。あれ出されたら信じちゃうよマジで!」

「……ステーキ怖い。ステーキ怖い、おいしい」


「ぬ? そうかそうかそれなら見とくぞよ馬鹿ども、マジッッッックーー」


「ブス様、落ち着いてください。そうそう力を使うものじゃありませんから!」


「お前もブスと呼ぶんじゃないだぬ!」


 ブスが再び力を使おうとするのを側近の男が慌てて止めに入り、その後ろでは兵士(?)と銀髪娘が肉争奪戦を始めるというカオスな空間と化す。終いにはブスの前で膝を立てて座り敬礼の意を示す2人が出来上がるそんな中で、



 モブヨは、ただ側近の男をじっと見つめていた。



 *****



「さてと、無事潜入成功だな」

「……上々」


「どこがよ!? 思いっきり目立ちまくってたじゃない!」


「……おいしかった」

「美味しかったなぁ」


「あんた達、本当に目的忘れてないでしょうね!?」


 ブスの容認を得て『ユメ叶チャウヨ教』の信者として認められた2人のお腹はパンパンに膨れ上がっていた。少しばかりの休憩をと場所を移し、あまり人気のない狭い空間へ移動した途端にモブヨによって叩かれてしまう。


「貴方達に依頼したのは『ユメ叶チャウヨ教』の実態を暴くこと! 遊びのつもりなら屯所に戻るわ、他のちゃんとした兵士に依頼するから!」


 出会ってから数時間経ち、モブヨは人選を誤ったと後悔していた。今更その理由を長々と説明する必要もないだろう。肩書き自称下級兵士のこの男、その素ぶりが一切見受けられないのだ。少女に関してを抜きにして、これ以上この男に何かしてもらおうとは思っていないと彼らに背を向ける。


「あっ、いや、その、すみません。俺も出来ればちゃんとしたいんですよ、本当ですよ? でも、その、あの」


 修二はモブヨの冗談抜きの怒りに頭を下げながら上目遣いでモブヨを見上げてそういった。その様子は先生に怒られている子供といった様子である。今も何かしら言い訳出来ないかとしどろもどろになる彼はその目を彷徨わせ、


 銀髪少女と目が合った。


「……私が手伝えば、簡単。それを案に入れていないから、難しいの」


「それが嫌だから悩んでるってのが伝わってる時点で帰ってくれませんかね? お前のせいで怒られてるんだけど」


「くれま、せん」


 ピシッとデコピンを喰らわされた修二は少し赤くなったおでこを摩りながらそれでもうーんと唸った。モブヨはその様子をチラと見ながら、今朝からの疑問を考える。それは、二人の関係。関係といっても恋人かどうかなどといった話ではない、彼は何故かこの少女をこの件に関わらせたくないという素ぶりが見られるのだ。


 普通であれば、女性を危険な目に合わせたくないという男子特有の自己欲求で説明がつくが、この男に関してはそういった理由であることはまず間違いなく無い。彼が金のみに執着する人間のクズであるというのが大きな理由ではあるが、それをより確信させたのは彼女と初めて出会ったその時の一撃、


 --彼女なら、心配する必要がないじゃない。


 足を振り下ろしただけで、地面が割れた。その理由すら今のモブヨには理解できないものであるが、事実彼女は常識とはかけ離れた何かしらの特異体質なのだろう。彼女が暴漢に襲われたとしてもなんの苦労もなく一撃で倒すことも容易であろうとモブヨですら確信を持てる。


 だからこそ、その彼女が手伝うと言ってくれていることは彼にとっては嬉しいものであるはずなのだが、


「わがまま娘が、お前本当に俺のこと考えないよな。迷惑だって言ってるんだろうが」

「……わがままだから、人の話聞かないの」

「自分のわがままを肯定すんなよ、どうしようも無くなるだろうが。もういいよだったらお前無視して1人で動いてやる」

「ずっと、シュウジの近くにいるよ?」

「怖いわ!!」


 この二人の関係が少し気になり始めたモブヨ、しかし彼女自身の現状においてそれを考慮する余裕はない。カルト集団に騙され、土地も財産も無くなった彼女にはもう兵士を頼ることしか打つ手がない崖っぷちなのだ、その依頼をこうふざけられてはたまったものじゃない。汐どきなど、とうの昔に過ぎ去っていた。

 当の本人たちは未だ漫才めいたやり取りをしている中、今一度屯所にて別の兵士に依頼を任せることを伝えようと、


「あ、言い忘れてた。バァさん結論から言いますけど、あなたの依頼は上級兵士が受けたとしても絶対に叶わないと思いますよ」


 一拍。


 その一瞬で、雰囲気が一変したのをモブヨは確かに感じた。姿が変わったわけでも、何か目に見えて変化があったわけでもない、修二が口にしたその言葉には今までの街に流れる騒音のように言葉として残らないようなおちゃらけた雰囲気が一切存在しなかった。その内容は、簡単に納得できるものではなものだった。


「は、はぁ!? 何よ突然、自分が降ろされそうになったからってそんなデマカセ言ったって私の意思は変わらな--」


「違うんでしょ、バァさんの本当の依頼内容。ブスの隣にいたあのおっさんのことなんじゃないですか?」


「……え」


怒声が、止まる。言った覚えも、暗に伝えようとしたわけでもなかった。ただ、彼の言っていることは、間違いなく彼女が考えていたことだったのだ。


「ど、どうして、それを。私一度もあの人のことなんて話してないのに……?」


「僕って自分を見る目線というか、視線を超気にしちゃうんですよ。それが次第と人が人を見る目線とかもわかるようになっちゃっていきましてね。貴方がブスの元についてからずっとおっさんのこと見てることはなんとなくわかったみたいな。……違いますか?」


モブヨは不意をつかれ呆気にとられていた。今までただ何も考えずふざけ倒し自分のことを笑い者にしていたと思っていた青年がぽろっと口にしたのだ。彼女が言おうとして言うことができなかったその本当の依頼内容を。


震え始めていた口が、おもむろに開いた。


「……夫よ。あのブサイクの隣にいたのが、私の夫。優くて誠実な人だったのに、『ユメ叶チャウヨ教』に心酔してからまるで別人のように変わってしまったの。本拠地であるこの場所も本当は私たちの土地だったのに、夫が全てあの詐欺師に財産ごと全て渡してしまって今はもう手元にない。

 何かがおかしいの、あの人が変わったのはグスのせい、このカルト宗教のせいに違いないのよ!!」


「つまり、バァさんの依頼は『「ユメ叶チャウヨ教」の壊滅』じゃなくて、『夫さんを正気に戻すこと』と『土地を取り戻すこと』なんですね」


「えぇ……可能、かしら?」


 膝をつき、涙を流しながら語る彼女は、ただただ思いのたけをぶちまけた。自分の最愛の者が変わってしまったこと、彼にとっても最愛であるはずの自分を放り出し財産も土地も全て渡してしまったこと、それらを全て偽物であると。


それら全てを聞き、修二は何も答えなかった。見上げる彼女から目を背け、銀髪少女へ、


「真冬、あれはなのか?」


「違う。あんなの子供騙し、


「ここにいる信者もおっさんもそのインチキに騙されてるってことか。じゃあそれを暴けばいいってことか?」


「……多分、催眠術の類だから暴いたところで変わらないと思う」


「なるほど、だからおっさんも話を聞かなくなったと。じゃあブス本人を狙って催眠を解くとか、あいつは強いの?」


「弱いけど、狙うのは無理。面倒そうなのが4人いた」


「まじかよ。俺がそいつらを倒すことは?」


「無理。多分中級兵士クラス、今のシュウジだったら1人も勝てない」


 端的に、正確に。彼らは敵の戦力を把握していく。いつの間に調べたのか、はたまた彼女の特異体質によるものか。敵の力をすでに見極めている彼女へと修二は次々と質問していく。敵の数、建物の構造、自分たちの状況、それらを全て把握し修二はうんと頷く。そして、モブヨの肩に手をポンと置き、




「無理ですね。あなたの依頼は絶対に叶いっこないんでパスします。バァさんごめんね」





「……は、はぁ!? あんた、私にここまで言わせて断るって言うの!?」


「だ、だってさ、勝てないって言われたらどうしようもないじゃん。俺にどうしろと」


「そこをあんたが考えるんでしょう!? あんたの言い分は「兵士隊に言っても無理、あんたに言っても無理」ってだけ、八方塞がりなことをただ言ったってこと!?」


「いや俺は思ったことを言っただけなんですけど……」


愕然とした。この男、言うだけ言って何も動く気はないらしい。普通ならここで修二が助けてやるの一声をかけるのではないのか、そしてしっかりと解決してくれるのではないのかと、モブヨは開いた口が塞がらない。


修二も修二でどうしたものかと頭を抱えている。


ちょんちょんと、彼の裾を掴む者が1人。


「……ねぇ、しつこい」


「はぁ? 何がしつこいってんだ」


「だから、私が手伝えば簡単なのに、どうしてパスするの?」


「……、」


その様子をただ傍観していた銀髪少女は修二に向け苛立ちの目を向けていた。その目に嫌な顔をする修二はうんざりとした顔で再び空を見上げ--ようとした顔をぐいっと真冬の両手によって彼女の正面へと動かされる。


「シュウジ。どうせ助けたいんなら余計なこと考えなくていい、バカなんだから。余計なこと考えるだけ無駄、だから--」


「あーもうバカバカ言うな、わかったわかったよ!! 今回だけだからな、今回だけ特別だからな!


手伝え、真冬」


「ん」


 修二の差し出した拳に、真冬が合わさる。見た目が変わったわけでも、何かしら確信出来るような事柄が起こったわけでもなかった。今もその筋肉質とは到底言えない体つきをした自称兵士に頼ることに懸念があるのも確かだ。そしてそれと同時に目の前の少女にも得体の知れない何かがあることも確かであり、信頼など到底出来るものではなかった。


「バァさん、パスって言ったのは無しで。正直、俺1人だったら本当にどうしようもなかったし、絶望的だったからパスしたんですけど。

 だけど、もう安心してくださいな。銀髪娘こいつが手伝うことが決まった以上、あなたの依頼ユメは絶対に叶うから、だからもうちょっとだけ待っててくれよ」


「……まじっくぱわー、おばぁちゃんの夢、叶うよ」


 なぜだろうか、ほんの少しだけ上級兵士に依頼するのとはまた違った、何か特異的なことを期待してしまうのは。実際のところ、この依頼を上級兵士に依頼したところでどうしようも無いと言われてしまうことは目に見えてわかっていた。そもそもこの青年の言う通り、本当の依頼内容を隠したままでは最悪夫は殺されてしまっていたかもしれないのだ。


だったら、最愛の夫が生きる残り、また元の生活が遅れる可能性があるのなら--


「わかった、わ。でも本当に、本当に頼むわよ。あなた達しか本当に頼れないのだから」


「「あいさー」」


 とんでもない博打を、打ってみようか。そうモブヨは決心した。涙を拭き取り、立ち上がると、彼女は初めて修二と真冬の隣へと並んだ。


「じゃあまずは、種を探らないとな。とりあえずまずは」


「屋敷内の下見かしら? それだったら私が案内をーー」


「ご飯をタダで出せる力を授かろうね! 家計のために、お金のために!」


「ぷっ。……ん、わかった」


「少しでも期待した私がバカだったわ!」


 道着に着替え、颯爽と修行の間へと乗り込んでいく修二の様子をニヤニヤ笑いながら同じく道着に着替えてついてく真冬にモブヨは本当に自分の判断が正しかったのかと、たった数分後に後悔するのだった。

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サイカイのやりかた ぎんぴえろ @ginpiero

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