夫の視点

先を行く藤島と三上の後ろでバッグの中からベレッタを取り出しジーンズの腰に差した。藤島が廊下の様子を確認すると特に変わった様子はなかったらしく目でその旨伝えてきた。


このビルの配電は2系統あり通常電源が落ちれば非常電源が作動する筈だった。非常電源が作動していれば襲撃があった際5階の武器室で武装することも可能だったが、今日は非常電源まで作動しなかった。ビルの老朽化か、はたまた回線業者の手抜き工事か…早急に対応しなければならないのは事実だが果たして弊社にそんなことを気にしている人間がいるのだろうかという疑問は頭から離れない。


自然に電源が落ちたとは考えにくい、きっと誰かが作為的に落としたんだろうと思った瞬間、懐に銃があってよかったと思った。ボロボロではあるが先ほどコンペンセイターを含む強化キットを組み込んでスムーズに使えるようになった銃だ、何があっても問題ないだろう。


藤島に続いて三上が廊下に出た瞬間、ヒュンっという音ともに何か飛んできた。飛んできたものは三上の足に刺さった。それがボウガンの矢だと気づくまで若干の時間差があったが飛んできた方向を見ると誰もいない。


三上はバランスを崩しその場に転倒した。藤島は矢が放たれた方向に小型の拳銃を構えている。「襲撃だ、フロアに戻るぞ」と藤島に言われ三上を担いでフロアに戻った。その姿を見た石川は全てを理解した様だった。


「人為的な停電で襲撃者がいる。武装して排除するしかないわね」と部長室のPCに向かった。すべてのID銃のロックを外し装備が整うように手配するようだった。


矢が刺さった三上を手当しながら藤島が「あのゾンビ野郎だと思うか?」と聞かれた。組織的な行動ではなさそうだったし、何より三上が撃たれたのも偶然ではないだろう。誰でもよければ藤島の頭を射抜けばいいだけの話だった。

「恐らく津村だろう。皆殺しにする気かな」というのが精いっぱいだった。

部長室から出てきた石川から「武器室のドアだけロックがかかってる。ID銃のロックも外せなかった。ちょっと不味いわね…」


藤島も自分も持っている銃器に関しては何も言われなかった。「部長、ID登録が完了していないショットガンが2丁あります。1チームに1丁持たせて建物内を捜索させましょう」と臆せず伝えた。この状況だ、いったところで問題はないだろう。

「しかし、弾が無い。どうする気?」「今週試験的に導入しようと思っていた弾丸が手持ちであります。それに廃棄処分のコンテナにはギリギリの期限が印字された破棄対象の弾丸もあるでしょう?先ず地下の廃棄場まで行って弾丸を回収し、そこから室内を捜索する形で進めましょう」


エレベーターが動いていない中で地下に降りようとするのは賭けでもあった。各フロアにはエスカレーターが2基、エレベーターが2基あるが後者に関しては恐らく止まっているものと推定される。各エレベーターに関しても罠が仕掛けられている可能性が十分にあった。そんな中進まなければならないことに非常にナーバスになりながら妻のことを思い出す。そういえば妻は1階にいるはずだ、何とかして…と思ったが彼女にそんな重荷を負わせるのは無理だ。それにこれが津村の単独犯ではなく集団的な襲撃だったらと考えると自分たちだけでどうにかする必要があった。


幸い砂原も藤島も出勤している。オペレーターに関しては副島に加えて負傷した三上を加えれば何とかチーム編成は可能だった。


「残業代は弾むわ。我々をおちょくるやつをぶっ殺してきて」と石川は言う。言われなくてもそのつもりだった。

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均衡 阿邊諄一 @junT1000

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