脱走者

そろそろ身体も頭も限界に近い。実験をしている余裕などなかったが設備のブレーカーを完全にオフにするとどうなるのかというのを行ってみる必要があった。


津村は3階の現在は使われていないエスカレーター下の隠しスペースの存在に目を付け、そこで電源を取り簡易的な「守衛室」とした。用意した2台のラップトップはこのビルの電源システムと警備システムにつながっている。


石川といううるさい人間がいなくなったこともあり、4階にある回線が3階へ降りてきているということも判明したので、一部迂回させてバックドアを作成した。それは一度セキュリティ外の領域に出た後すべてのシステムにリンクしてアクセスすることが可能で、コマンドによってプログラムを全て削除できる仕様のオブジェクトに見せかけたプログラムだった。


先ず全館の電源を落としてみた。警備システムは生きているので監視カメラの映像を観ながら各人の様子を観察したが、比較的皆落ち着いていた。目立つ動きをしていたのは石川で停電後直ぐにシステム内に入り不備がないか確認していたようだ。ただし、この会社のシステムに関しては外注しているはずなのでコマンドを覗いただけでは簡単に変更点はわからないとは思うが、一応何か変更点が無いか調べていたようだ。


ハッキリ言って肝が冷えた、まさかこいつがこんなに頭が回るやつだとは思わなかった。新しく加えられたプログラムに関しては日付が付与されるが、津村が仕掛けたプログラムに関してはバックログを改ざんし2週間前バグのフィックス用に配布されたパターンファイルを装っていた。


それが功を奏したのか怪しむ素振りはしなかったが、そのフィックスのタイミングを見てか知らずか石川は各員に建物からの即時退去の命令を出した。しかも5Fにある武器室のロックをしめ、生体認証付きのすべての銃器に関してロックをかけている。


なんという手際の良さ、津村は戦慄した。抜け目のない女だ、どうすればいい…


考えることが全て面倒くさくなってきた。もう会社に放火して全員丸焼きにしてやろうか…今セキュリティシステムは手のひらにあるので各階の排気を止めて発煙筒でも投げてやれば全員窒息死するだろう。危機管理システムで排気処理がされる可能性はあったがその前にフロアに火を放てばいい。幸いスプリンクラーのシステムはこちら側から停止させることが出来る。


殺す、殺す、全員殺す…津村の思考はもう既に人間のそれではなくなり始めていた。

道具をそろえるのに時間はあまり必要ない。後2日程度生きることが出来れば問題ないだろう。


津村はラップトップを閉じ清掃員に化け片足を引きずりながらボウガンを持ち4階へ向かった。

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