シケイダマン
美尾籠ロウ
第1話
俺は脂汗を流しながら、トイレに駆け込んだ。
個室に飛び込み、ドアを閉める。リュックを置き、シャツのボタンを外すのももどかしく、体をねじって脱ぎ去った。さらに、汗で皮膚にへばりつくTシャツもはぎ取るようにして、脱いだ。
「痒い痒い痒い痒い痒い痒いいいいい!」
裸の胸を掻きむしる。
が、その爪の先は「痒み」の根元には届かなかった。分厚く堅い皮膚――いや、かつて皮膚であったもの――の表面をこするだけで、その奥底にある痒みの塊をなだめることはできなかった。
あらためて、俺は自分の裸の上半身を見下ろす。
運動も得意じゃないし、小学校三年生から「ド」の付く近眼。やせっぽちで猫背――そんな俺の上腕二頭筋は、今やがっちりと堅くたくましく発達し、腹筋は六つに割れている。その上の胸は……
吐き気が込み上げてきた。便器につっぷす。
「うげげろげええええええっ」
三十分前に食べたばかりのフィッシュバーガーとオニオン・リングの残骸を便器に吐き散らした。
この体になってしまって二ヶ月。もういい加減に慣れてもいい頃だ。
指先で、おそるおそる胸に触れる。
ごわごわとした感触は、まるでプラスチックのようだ。が、ほんのりと体温が感じられる。だから、俺の胸を覆うこいつもまた、信じがたいことだが、俺の体の一部なのだ。乳首はもう、ほとんど見えないくらいの小さな茶色い隆起になっている。その少し下には、大きな溝があった。正面から鏡で見ると、ちょうどアルファベットのWを横に引き伸ばしたような形をしている。プラスチック化した皮膚をめくり上げて、その溝の下がどうなっているのか――確認できるほど、俺は勇敢じゃなかった。だから、見たことはない。今後もずっと見るつもりはない。
俺は、全然今の俺に慣れてない。
「うわぁ、やっぱ、自分がやんないとダメかぁ……」
思わず口を衝いて弱音が漏れ出てしまう。
そのときだった。
何か地面が揺れるような衝撃を感じた。いや、ほんとうは揺れてはいないのかもしれない。今の姿になってしまった俺の聴覚はとてつもなく鋭敏になっている。かすかに叫び声も聞こえた――ような気がした。
俺は、変わってしまった。それは、どうしても受け入れなきゃいけない。
上半身裸のまま、トイレを出た。まだ、胃の奥はひくひくと痙攣している。
みんなの前で吐いたらヤバいなぁ、と思う。
しかし、今の切迫した状況をぶちこわすことができるのは俺だけだ。
リュックの奥を探る。よし、ちゃんと入っている。
目出し帽を改造したお手製のマスクを引っ張り出した。そいつを頭からすっぽりとかぶる。ズボンを脱ぐ。一日中、厚手のタイツをはいているので、股間が蒸れて蒸れてしかたない。
夏場でもタイツをはかなきゃいけないのだろうか、と一瞬だけ疑問がよぎるった。
「いや、夏こそ俺のシーズンっしょ」
思わずつぶやいた。
個室から跳び出す。
一瞬だけ鏡に映った自分の像を見て、もうちょっとマスクのデザインをなんとかしないといけないな、と痛感した。
俺は走った。
廊下を十メートルほど走った先、教室のドアを引き開けた。
教卓の上に立ちはだかる全身銀色の姿が視界に飛び込んできた。まるで昔のヨーロッパの鎧を着ているかのようだ。銀色の長髪を振り乱し、やつは俺を振り返った。双眸が赤黒く光っている。
つい数分前まで演劇学校の教室であったはずの部屋は、ほんの数十分のあいだに灰色をしたセメント状の物質で覆われていた――黒板も、机も椅子も何もかも。そして灰色の塊の上では茫然とした面持ちの学生たちが四、五人、立ち尽くしている。
「うおりゃあっ」
気合いとともに、俺は教卓めがけて飛びかかった。
銀色野郎は、身をよじってダイヴした。一瞬後、かつて窓であった場所へ取りつくと、俺に顔を向けて笑った。少なくとも、そう見えた。
「このシロアリ野郎があああっ!」
この演劇学校の地下のどこかに隠れ、一人また一人と学生たちの心を操り、いずこかへと連れ去っていた謎の存在。この街のそこここに、謎の蟻塚状の構造物を作り上げている存在。少しずつ少しずつ、この街を浸食して自らの「城」と改造している謎の怪人。いつしかこの街の人びとが都市伝説的に噂する恐るべきヴィラン。
人はやつをこう呼んだ――〈ドクター・ターマイト〉と。やつが、ついに俺の眼の前に姿を現したのだ。
俺は、足元にしゃがみ込んで震えている女子学生の手首を摑んだ。
「ここは俺に任せろ。逃げるんだ」
くうううっ、一度言ってみたかった台詞なんだよなぁ!
が、女子学生はぎょっとした面持ちで、俺の裸の上半身をためつすがめつ見上げていた。
「キ、キモッ……」
女子学生は顔をしかめ、今にも
「そ、そんな……」
確かに、今の俺は目出し帽をかぶり、人目にさらしている裸の上半身はごわごわとした茶色いプラスチック状に硬化したグロテスクな姿だ。変質者というよりも……むしろ
いや、
ガラスが割れる音で、俺は我に返った。〈ドクター・ターマイト〉が片腕を窓ガラスに叩きつけている。
逃がすか!
俺は肩に力を込めて、全力で胸を張った。
俺の気迫が伝わったのか、〈ドクター・ターマイト〉が窓ガラスから手を離した。俺のほうを振り返った。
俺はほくそ笑んだ。
肺に力を込める。両腕と両肩がぶるぶると震える。
「喰らえええええっ!」
全力で胸を張った。
そして、放つ。
みーんみんみんみんみんみんみーん!
二ヶ月前のある夜だった。一人、バイト先のスーパーから帰宅する夜道、背中に鋭い痛みが走った。振り払い、地面に転がったそれを見て、俺は首をかしげた――青黒い小さな蝉の幼虫。俺の身体を木と間違えるバカな虫だな、とそのときは思った。アスファルトの上で無様に脚をもぞもぞと動かすそいつを、俺はそっと拾い上げて、街路樹のイチョウの幹に摑まらせてやった。
そいつのせいで、俺の体はこうなってしまった。
蝉の恩返しなのか? いや、恩返しっていうか、むしろ逆に呪われた感じなんだけど。
みーんみんみんみんみんみんみんみーーーーーん!
やつのせいで俺が手に入れた必殺技――それが、
「シケイダ・バズソニック!」
おおっ、必殺技の名前って、やっぱり叫んでみたいよね。マジで気持ちいい!
窓枠で〈ドクター・ターマイト〉が身をよじらせた。一瞬後「ぐぁっ」と声を漏らし、〈ドクター・ターマイト〉がごろんと床に落ちた。四肢をぴくぴくと痙攣させ、天井をにらんでいる。
「さあ、おまえは終わりだ」
俺はさらに胸を張った。床でうごめく〈ドクター・ターマイト〉に人さし指を突きつけ、歩み寄った。
俺は確かにグロくてキモい姿に変容してはしまった。けれど、今の俺はスーパー・パワーを手に入れた男なのだ。
今の俺は
俺を刺した蝉の幼虫が何者だったのか、俺にはわからない。宇宙から来たのか。それとも極秘で遺伝子操作されたのか。この自然界が生んだ突然変異の落とし子だったのか。
でも俺は、スーパー・パワーを手に入れたことをわかっている。俺は、コミックや映画に登場するスーパー・ヒーローになったのだ!
スーパー・ヒーローには敵が要る。それがおまえだ。世界を支配しようと企む〈ドクター・ターマイト〉!
そのとき、俺は何かにつまずいた。
人だ。ついさっき俺を「キモい」と言った、あの女子学生だった。白眼を
へ? どういうこと?
少し考えて、気づいた。
ということは……マジっすか!
俺の必殺技、シケイダ・バズソニックって、周りの人間にも被害を与えるのか?
なんてこった。ああ、なんてこった。そんな必殺技ってあるか?
昨日の深夜三時過ぎ、三本目の缶チューハイを飲みながら、ようやっと「シケイダ・バズソニック」っていう名前を思いついたときは、思わずガッツポーズをして、叫んだよ! そうしたら、下宿の隣の部屋の住人から壁をゴンッと叩かれたよ。
なんてこった。こんな仕打ちってあるか? 必殺技を使うと人を傷つけるって、そんなヒーローいるか?
次の刹那、俺は二の腕に衝撃を受けた。吹っ飛ばされる。一瞬、意識を失いそうになった。視界が暗くなる。
〈ドクター・ターマイト〉が、いつの間にか怒りの形相で俺に覆い被さろうとしていた。
「ぐあっ……!」
俺はあえいだ。馬鹿な! やつには存分にシケイダ・バズソニックを浴びせたはずなのに……
〈ドクター・ターマイト〉の激しく生臭い吐息を感じる。体の自由が利かなかった。
意識が遠のいていく……まさか、スーパー・ヒーローが初戦で負けるなんて……そんなのあり? それじゃ、コミックや映画が成立しないじゃないか。
いや、そもそも俺みたいなイケてないオタク学生風情は、結局はヒーローになれなかったってこと……?
〈ドクター・ターマイト〉が口――と思しき赤黒い穴――を開いた。そして、その奥から、灰色のどろどろした液体が俺に向かって噴き出した。
わあああああ、マジか、やめろやめろやめろやめてくれええええええ!
叫んだつもりだったが、声になっていなかった。
生暖かい液体が、俺の全身に降りかかってくる。それはすぐに硬化し、俺はますます身動きできなくなっていた。
そ、そんなん、ありかああああああ!
シロアリ男のゲロにまみれて死ぬなんて、およそ人間の死に方の中でも最低の最低のクソ最低じゃないかあっ!
そのときだった。かすみ行く俺の視界の片隅を、何か濃緑色の塊が一瞬よぎった。
次の瞬間、眼の前の〈ドクター・ターマイト〉の体が消えた。いや、吹っ飛ばされたのだ。〈ドクター・ターマイト〉は天井に叩きつけられた。天井にヒビが入り、砂埃が舞い落ちてくる。砂埃に一瞬遅れて、〈ドクター・ターマイト〉の体が床にたたきつけられた。
次の刹那、濃緑色の塊がふたたび〈ドクター・ターマイト〉にすごい速さで近づいた。と見るや、またもや〈ドクター・ターマイト〉が吹っ飛んだ。やつは、教室前面の黒板に叩きつけられ、もんどり打って倒れた。
「大丈夫か」
濃緑色の塊――グリーンの全身タイツのようなものを着た男が俺に近づき、手を伸ばしてきた。俺と同じように、頭には目出し帽的なものをすっぽりとかぶっている。
ド変態じゃないか!
「だ、誰?」
緑色の男は俺の腕をぐいと摑んで起こした。
ふらふらと立ち上がってはじめてわかった。男は異様に背が高かった。いや、単に長身なのではない。両脚がとてつもなく細長いのだ――まるで、バッタのように。
「あ、あぶなっ!」
俺は叫んだ。
〈ドクター・ターマイト〉がいつの間にか起き上がり、口を開いていた。やつは、またもやあのセメント・ゲロを吐き出した。緑色の男は跳躍しようとしたが、間に合わなかった。灰色のゲロが緑色の男の脚にかかった。男の脚の上で、ゲロはみるみるうちに固まっていった。
どうすればいい? 今ここでシケイダ・バズソニックはできない。くっそー、なんて使えないスーパー・パワーなんだ!
と、次の瞬間だった。またも窓ガラスが割れる音がした。
外から、今度は何か三つの塊――バッタ男と同様な、三人の全身タイツ人間が教室に飛び込んできたのだ!
「な、何じゃこりゃあ……?」
一人目の茶色い全身タイツ男が〈ドクター・ターマイト〉に頭突きをした。そいつの頭には、一メートルはあろうかという、ツノが生えている――まるでカブトムシのように! そんなツノで突き刺されたから、〈ドクター・ターマイト〉としてはたまらなかったのだろう。「ぐぇえ」というような声を上げて、悶絶した。
そこへ突進したのが、二人目だった。赤い全身タイツ男が〈ドクター・ターマイト〉を蹴飛ばすと、背中を向けた。そして、男の背中から……いや、背中じゃなかった。男の尻の辺りから、白い糸が飛び出した。その糸はみるみるうちに〈ドクター・ターマイト〉の体を絡め取った――まさか……蜘蛛?
そして〈ドクター・ターマイト〉に突進したのが、三人目だった。華奢な体つきは、明らかに女だった。つやつやした真っ黒のボンデージ的なスーツ姿が、妙にエロい。
女は〈ドクター・ターマイト〉の体の下へ潜り込むようにし、ぐいとやつを持ち上げた。
「今だ!」
緑の男が叫ぶと、茶色の男が頭のツノで〈ドクター・ターマイト〉をさらに突き上げる。それに呼応して、糸をケツから吐いている赤い男が、ぐいっと体をひねった。すると、俺の脇にいた緑色の男が拳でゲロのセメントをたたき割り、〈ドクター・ターマイト〉に向かって跳躍した。異様に長い両脚で、その体を蹴る!
〈ドクター・ターマイト〉が叫びながら、窓の外へと放り出された。
「やるんだ!」
緑の男の声で、俺は我に返った。
そうだ。俺には、俺の必殺技がある!
窓に向かってダッシュする。中空に飛ばされて放物線を描いている最中の〈ドクター・ターマイト〉に向かって、俺は力の限りに胸を張った。
「シケイダ・バズソニーーーーック!」
やっぱ必殺技名は声に出して叫ばないと!
みーーーーーーんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみーーーーーーーーーーーーーーーーん!
決着は、一瞬だった。まるでそれは、小さな小さな花火のようだった。
赤い男の糸の先、〈ドクター・ターマイト〉の体が一瞬だけ震え、そして、弾けた。その体が破裂して四散した。
灰色の臓腑をまき散らし、つい一瞬前まで〈ドクター・ターマイト〉だった残骸は、地面に散らばった。
しばらく、俺たちは全員、誰一人身じろぎ一つすることができなかった。
不意に、窓辺に立つ俺の肩に、そっと手が置かれた。
振り返ると、漆黒のボンデージ姿の女がいた。顔の上半分がマスクで覆われているが、俺には彼女が間違いなく美人だということがわかった。
俺は、ついつい彼女の全身を上から下まで眺めてしまった。出るべきところは素晴らしく出ていて、へこむところはへこんでいる――やっぱり、エロい。
緑色の男が、俺に向かってうなずいている。
「君を探していたんだ」
「えーと、もしかして……バッタ?」
俺が訊くと、男は目出し帽的なマスクの下で、笑みを浮かべたようだった。
「私の名は〈ミスター・グラスホッパー〉」
「あ、やっぱりね……」
納得せざるを得ない。では当然、頭からツノを生やしているのは……
「俺は〈ビートルマン〉だ」
男は手を伸ばしてきたので、俺はその手を握り返した。ま、そりゃそういうネーミングでしょ。他に考えられない。
続いて俺は、赤い全身スーツ男を見やった。
「まさかとは思うけど、スパイダ……」
俺が言いかけると、赤い全身スーツ男は激しくぶるんぶるんと首を振った。
「いやいやいやいや、僕はね、〈ザ・タランチュラ〉」
ん? タランチュラって糸を吐かないと思うんだけど。ま、「スパイダー○○」と名乗ったりするといろいろと、著作権的に問題があるんだろう。だったら、わざわざ赤いスーツなんて作らなきゃいいのに。
「我々は君と同様、予期せずこの力を身につけてしまったんだ」
〈ミスター・グラスホッパー〉は言った。
「ああ、わかります。『大いなる力には、大いなる責任が伴う』ってやつですよね」
俺は知ったかぶりなことを言った。そんなことよりも俺にとって大事なのは、エロい漆黒のボンデージ娘なんだけど……
「で、君は……」
と問いながら……俺は急速に全身から力が抜けていくのを感じていた。
漆黒の女は、真っ赤な唇をへの字に曲げた。ぽってりとした唇がまたエロいな……と思いつつ、ますます俺の力は抜けている。
どうしちゃったんだ?
「あたしの名前なんて、いいでしょ? あなたと同じように、『力』を手に入れちゃった仲間なんだから」
女は唇を尖らせた。
「でも……あれ……俺って……」
ますます力が入らない。俺はいつの間にか、床に膝を付いていた。
「わっ、どうしたの?」
〈ビートルマン〉が俺の身体を支えようとした。が、俺の視界は少しずつ暗くなって行った。
「だ、だ、大丈夫……」
俺は顔を上げ、精いっぱいの作り笑いをした。
「おい、しっかりしなよ!」
俺の両肩を揺すったのはスパイダー……じゃなくて〈ザ・タランチュラ〉だ。
「なんか……眠いっていうか……」
俺は薄れていく意識と必死に闘った。
「ねえどうしたの? パワーを使いすぎたの?」
漆黒の女が、俺に顔を寄せてくる。うれしい。うれしいが、頭からも体からも、どんどん力が抜けていく……
俺の脇にひざまずいた〈ミスター・グラスホッパー〉が、不意に低い声で言った。
「そうか……虫から力を得ただけじゃなく、その特質もまた、君は手に入れてしまったのか」
ん? どういうこと? 意味がわからない。
訊きたいが、もう俺は声が出せなかった。
〈ビートルマン〉が言うのが聞こえた。
「彼のスーパー・パワーは、蝉の能力。ということは……」
「それは、ひどいよ!」
〈ザ・タランチュラ〉が悲愴な声を上げた。
え? まだ全然わかんないんだけど。っていうか、とてつもなく、眠い。もう視界が真っ暗だ。
そのとき漆黒の女が、俺の頭をぐいと抱き寄せるのを感じた。
「ああ……ひどいじゃない、それって」
いや、俺はひどくないけど。エロい女の子に抱かれて、超絶嬉しいんだけど。
「蝉のスーパー・パワー……
は? 今、何て言った? 蝉のスーパー・パワーって……?
俺の周りの声が、どんどんと遠ざかっていく。
そんなアホな。俺はスーパー・パワーを手に入れたヒーローになったんじゃないのか?
「残念だよ……〈シケイダマン〉」
食いしばった歯の隙間から漏らすように、〈ミスター・グラスホッパー〉が言うのがかすかに聞こえた。
もはや、俺の視界は真っ暗だ。音もどんどん小さくなっていく。
なんてこった。これが、〈シケイダマン〉の第一話にして、最終回なの? なんて理不尽な……。
俺の耳元に、吐息が感じられた。漆黒の女だった。
「さよなら、〈シケイダマン〉。あたしの名前は……」
もう何も見えない。全身の力は抜けきってしまった。どんどん意識が遠くなっていく。
闇に覆われる寸前の俺の耳に、ほんのかすかに女の声が届いた。
「あたしは、〈コックローチ・ガール〉……」
コック……ローチ……?
マジかよ………………………………………………
暗転。
シケイダマン 美尾籠ロウ @meiteido
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