エレクトロニカ

フカイ

掌編(読み切り)





 二階のベランダで洗濯物を干していたら、キミの部屋から音楽が聞こえてきた。


 Perfume "ナチュラルに恋して"。


 窓を開け放って、パソコンで曲を聴いているのかな?


 最近はもう、男の子がステレオとか欲しがらないのねぇ。


 高性能スピーカー付きパソコンと、スマホで事足りちゃうんだねぇ。


 あたしが高校生だった頃はラジカセにカセットテープだったから、隔世の感がありますな。


 パパのワイシャツを干して、を伸ばしながら、聴くとはなしにもれてくるその曲を聴いている。


 シティーノイズから始まるその曲は、あの娘たちのヴォーカルの声をずいぶんエフェクトかけているけど。


 でもそのシティーノイズから、あたしはあたしが高校生だった頃に熱狂した古い洋楽の一曲を思い出したんだよ。


 まるで頭のなかで蛍光灯がともるように、クッキリとね。


 PET SHOP BOYS "West End Girls"。


 ロンドンからやってきた、小粋なエレクトリック・ポップ・ユニット。うひゃぁ、懐かしいぃ。




 その頃あたしは、クラスの中でもそんなに目立たないほうの女子だったと思う。


 体育祭の開会の辞を全校生徒の前で読んじゃうキミの度胸は、きっとパパ似ね。


 クラスでは前に立つことがないあたしだったけど、部室に行けば違う自分になれた気がした。


 吹奏楽部で、どうしてあたしがパーカッションになったのか、いまでは良く覚えてない。


 けど、気がついたとき、ティンパニーやシロフォンは、言葉に出来ないもどかしい気持ちをあたしのかわりに代弁してくれる、とても頼りがいのある友だちになってる気がした。


 日常生活では味わうことのないような大音量で打楽器を演奏するとき、頭は真っ白になってビートにすべてを委ねられた気がした。


 パパには話したことないけど、二年のときの卒業する先輩たちのお別れコンサート。


 大好きだったトランペットの先輩が去っていく最後の演奏会で、涙をボロボロ流しながらマレットを振ってた。


 三年の、自分たちの卒業のときは、やっぱり去年と同じように号泣する後輩たちを見ながら、不思議と落ち着いた気持ちでいられたっけ。


 ペット・ショップ・ボーイズ。トンプソン・ツインズ。ユーリズミックス。


 音楽系部活をしていたせいか、クラスのみんながヒカルゲンジに騒いでる間、ずっとUKのチャートを追っかけてた。


 みんなは知らない、自分だけのアイドルに夢中だったな。


 しかも、自分が生楽器を演奏している反動か、電子音楽エレクトロニカに強く惹かれてた。


 正確無比でクールなリズム。必要以上に熱くならない、理知的な音楽が大好きだった。


 その後アッシドジャズに流れていったのも、今にして思えば必然だったのかも。


 インコグニート。そして、ジャミロ。


 あぁ、懐かしい。


 音楽に関しては流行りモノしか興味のなかったキミのパパも、あたしに連れられてずいぶんマイナーなミュージシャンのコンサートに連れて行ったっけ。


 どちらかというと、ハードロック好きな彼は、あたしの好きなクールなエレクトロニカに面食らってたけど。ダフト・パンクなんて、彼にはほとんど理解できなかったんじゃないかな。




 ●




 キミの聴いてる音楽は、エレクトロニカだけど、ずいぶんキャッチーでポップなのね。


 パパとあたしの子だから。


 面白いほど両方の趣味を受け継ぐのね。


 最近はキミとあんまりこころを開いて話ができないけど。


 キミはこれから、どんな音楽を聴いてくんだろう?


 これからどんなところへ行くんだろうね。


 とても楽しみです。


 母は、キミのTシャツを干しながら、漏れ聞こえてくるキミの趣味の曲を聴きつつ、そーゆーことを思っております。




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