デート

 朝5時に目を覚まし、マルの散歩に行った。

 そして帰って来て、朝風呂に入り、部屋で最近買って貰った特注のワンピースに着替え、コートと鞄を持って、1階に降りる。


 お母さんの化粧台の前に座って、お母さんに髪を結ってもらい、メイクもちょっとして貰った。お母さん、嬉しそうだ。

「貴方の髪を結うなんて、何年ぶりかしら?確か、貴方が自分で髪をやるって言ったのが、小学校2年生だから…9年ぶりね」

「お母さん嬉しそうね。どう?私は成長しましたか?」

「えぇ…あんなに可愛かった子が、もう大人の女性みたいな色気さを出しちゃって…でも遥、いつまで経っても…貴方は私達の子よ」

「うん、分かってるよ」

「はい…出来た。きっと刹君も惚れ直しちゃうわよ」

「ふふっ…ありがとう、お母さん」

「えぇ…デート、楽しんで来てね」

「うん」


お母さん、今まで育ててくれて、ありがとう。そして、ごめんなさい。



 家を出る前に、もう一度マルの頭を触る。マルの目はキラキラしていて、たぶん、全てお見通しなんだろうな…さよなら、マル




 駅まで、二人でお父さんの送ってもらった。

 お父さんは、いつも笑っている人だった。だから、駅までずっと質問攻めだ。だけど、それが私には心地良い。不安なんて感じていられない…いつもありがとう、お父さん



 駅に着くと、親友に会った。いつも私を笑わせてくれた。病弱な私を心配し、いつも護ってくれた。感謝してもし切れない。本当にありがとう。そして、ずっとずっと永遠だよ…さよなら大好きな人々



 私と刹は、電車に乗って都心に行き、映画館で映画を観て、カラオケで歌って、夜の水族館に行った。


 刹が実は死神なのに、ホラー映画が怖い事、音痴な事、猫舌な事、不器用な事…あと動物と喋れて、動物が大好きで、私の事をいつも心配してくれて…とにかく、刹の事でいっぱいだった。


 恋って、愛って、こういう物なのかな?それとも、私の命がもう…刹、貴方にとって私はどんな人間だった?貴方の中に、深いシルシを刻めましたか?


 

 屋内型遊園地で遊び、外に出ると、雪が降っていた。

「あっ…雪だ」

「あぁ…ホワイトクリスマスイヴだな?」

「雪って、何か熱くなる。何か、生きてるって感じがする。ねぇ、刹?皆、死ぬって分かったら、生きたシルシを残したいんだよ」

「えっ?」

「ふふっ、昔見た刑事ドラマで、余命僅かな犯人が言ったセリフなの…一度、言ってみたかった。それだけだよ」

私は雪の中を子供のように駆け回る。


 そのうち、脚がもつれて倒れかけた。でも、すぐに刹が、支えてくてた。

「大丈夫?」

「うん…でも、ちょっと座りたいかな?」

額に、少し冷や汗が流れる。


 刹が、歩道の一角に、座れるスペースを見つけてくれた。

「遥?」

「あぁ…ごめん。何?」

「いや…大した話じゃないんだけど、今日、幸せだった?」

「ふふっ、何?死神の嫌味?」

「えっ?そんなつもりじゃ…」

「嘘!幸せだったよ。小説で読むより、ずっとね。こんな気持ちを教えてくれて、ありがとう」

「…ねぇ、遥?僕は、君に…」

 

 私は、彼の唇に軽くキスをした。そして、彼の肩に頭を乗せる。

「そんな事…最後に聞きたくないな。私は…うんうん、私達は、貴方に感謝しているんだよ。…貴方に出会えたから、私は、こんなに満たされた。私の人生において、貴方に出会えた事は、最高の奇跡だった。そして、多くの生きたシルシを…残せたんだよ!ありがとう…刹」

「…遥?」






あぁ…遥、ありがとう。こんな僕に恋を教えてくれて、愛を教えてくれて、君を…一生愛させてくれて、ありがとう

 

 僕の膝の上で微笑みながら眠る彼女は、とても美しかった。 

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『黒猫−君卜繋ガル世界−』 ビターラビット @bitterrabbit

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