最終話 たとえ夢が壊れても
被害は甚大で、自分の家も範囲の中で。
それはきっと天罰で、生きている自分は償っていかなければならないのだと慶一朗は思った。
『負けちゃった……』
ほとんどかすれて見えるミコが慶一朗の前に現れる。
「ミコは頑張ったよ」
自分で自分が何を言っているのか分からなかった。
きっとそれが死者への慰めになって、これ以上もう負の連鎖を生まないようにするための最善の策なんだと言い聞かせた。
『……ありがと』
ミコは消えた。
ぶっかはもうただの岩屑だった。
ユメ>ミコ?
ミコ>なに?
ユメ>ごめんね、起こしちゃって。
ミコ>別にいいよ、それが私の望みだったんだし。
ユメ>違う形で出会えていたら、友達になれてたかな?
ミコ>なれないよ、きっと。
ユメ>私は、なりたいな。
ミコ>
辰雄は写真を眺めていた。
すでにコピーはテレビ局やら警察やらに提出済みだ。
今、彼がいるのは海東家だ。
「じゃあ、ミコってのは正確には海東さんたちのご先祖様の妹って事?」
「そう、それで若いうちに」
「ぶっかを鎮めるための人身御供に」
「じゃあ高名な僧侶とか関係なかったの?」
「さあ、そこまでは、でも鎮め方は乗ってたんだよ!」
「自衛隊が来る前に見つけてたら私達ヒーローだったのに!」
「あはは……それはどうだろ」
なんと学校は無事だった、
こんなことがあったというのにもう少ししたら授業も再開するのだという。
何なら復興を盛り上げるため文化祭もやるのだとか。
勿論、怪獣研究会なんて不謹慎な出し物は中止、廃部である。
慶一朗達はそれに全く異論を唱えなかった。
結局、なにもかもうやむやになったのは自分たちのだらけた時間の方だった。
慶一朗は文化祭には参加しない。
瓦礫撤去のボランティアに積極的に参加していた。
罪滅ぼしには程遠くとも、一歩でも前に進んでいる気になりたかった。
心の中はもしかしたら、ぶっかが現れる前と変わってはいないのかもしれない。
彼はいつもどこかで停滞を望んでいる。
だけど、少し前を向く気になったのはあの大事件のせいなのは間違いないだろう。
夢は文化祭で炊き出しをしていた。
これも罪滅ぼしには遠くとも、誰かの力になりたかったからだ。
ミコのような少女が現代に現れることなど無いようにと祈りを込めて。
ご飯を器によそっていく。
彼女は感情豊かな人間だ。
今回の件で彼女は変わった、現実を見るようにすることにした。
ミコという不幸な少女と、自分たちが引き起こした絶大な不幸と真っ向から向き合う事にしたのだ。
だらけた時間は終わった。怪獣研究会の部室は空っぽだった。
辰雄は写真が表彰された。
彼はきっといいジャーナリストになるなんて、海外から評された。
しかし、辰雄はそれを嬉しいとは思わなかった。
彼を突き動かしていたのは好奇心だ。
それを後から恥じた。
罪滅ぼしに向かう二人の姿に、自分に何が出来るかと考えている。
今後、彼が好奇心優先で動く事はなくなるだろう。
それが良い事なのか悪い事なのか、それはきっと誰にも決められない事だ。
海東姉妹にも罪の意識はある。
彼女達は他に怪獣の封印場所はないか、慶一朗や夢の言っていたミコのように、封印のほころびが生じているところはないか探す事にしたのだ。
それはきっと途方もない作業だが、絵巻から怪獣の封じ方を見つけた彼女達ならきっとやり遂げる事だ。
きっと彼女達は怪獣封じの旅に出る。
将来じゃ間に合わない。
綻びが崩壊してからでは遅いのだ。
こうして怪獣研究会の五人はそれぞれの道を歩み始める。
卒業したらもう会う事もないかもしれない。
だけど絶対に忘れる事の出来ない傷と絆が出来た。
「傷と絆だって」
「ダジャレだねお姉ちゃん」
完
怪獣モラトリアム 亜未田久志 @abky-6102
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