第6話 自衛隊、出動

 

 ぶっかの暴走は止められない。

 ヤツはもうその全身を山から出していた。

 山を下り、町へと進攻していく。

 ぶっかの触手の一薙ぎで民家が数十件吹き飛んだ。

 コイツが進むだけで道路はぐしゃぐしゃになっていく。

 慶一朗達はそれを仏花井山とは別の高台から見ていた。

 見ている事しか出来なかった。

 もうどれくらい経ったのだろう。

 ヤツの暴虐を眺めて、ただただ時間が過ぎていく。

 なにもかも、うやむやに。

 自分の考えが脳裏を過る慶一朗。

 これが自分の望みだとでも言うのか。

 辰雄は相変わらずシャッターを切っている。

 この瞬間を逃すまいと必死でいる。

 夢はなにもかも諦めたかのように、ベンチに座りうなだれていた。

 その時だった。

 空に飛ぶいくつかの影。

 プロペラの音が聞こえてくる。

「自衛隊だ……」

「攻撃ヘリだねぇ」

「やった! これで!」

 

 戦闘は開始された。

 自衛隊の攻撃ヘリからのミサイルは見事ぶっかに直撃する。

 ぶっかは岩の触手を伸ばしてヘリを叩き落そうと振り回す。

 間一髪それを躱して、機銃を見舞う攻撃ヘリ。

 ぶっかの触手の一つに当たり、先の方が千切れて飛んでいく。

 次々と発射されるミサイルに耐えかねて、ぶっかの足の一つが砕けて散った。

 だがぶっかも負けてはいない。

 触手をどこまでも伸ばしてヘリを追い回して一機を撃墜する。

 一進一退の人類の存亡をかけた戦いがそこにはあった。


「頑張れー!」

「頑張ってー!」

 慶一朗と夢が叫ぶ。

「……」

 無言でシャッターを切る辰雄。

「負けるな! そこだ! やれ!」

「危ない! 避けて!」

 シャッター音が止む。

 辰雄が二人を見る。

 怪獣と自衛隊の戦いを見る二人を真っ直ぐ見つめ。

 語り掛けた。

 二人の言葉が止む。

 なおも続く戦闘。

 二人は同時に辰雄の方に振り替える。

 その瞳は、どこか虚ろだった。

「そんなの」

「決まってんじゃん」

 辰雄はそれ以上聞かなかった。

 彼だってそれ以上聞くのが怖かった。

 それがぶっかを応援しているなんて言われたら。

 自分はきっと耐えられない。

 幼馴染二人の変容に耐えきれない。

 そう思ったから。

 二人は戦闘へ言葉を投げかける。

 ただ一つ、辰雄が分かる事と言えば。

 二人とも早くこれが終わって欲しいと思っているはずだ。

 という事だった。


 攻撃ヘリに囲まれ重火器でタコ殴りにされるぶっか。

 ボロボロと崩れていく身体はもうその崩壊を止められない。

 弾切れになったヘリが退散したかと思えば新しいヘリが来る。

 触手の動きに対応され、どんどんとその身を削られていく。

 ここまで来れば、ぶっかの負けは決まったも同然だった。


 終わりゆく怪獣モラトリアムに三人は想いを馳せるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る