第5話 避難勧告
『仏花井山で、土砂崩れが発生しました。近隣の皆さまは速やかに避難してください。繰り返します。仏花井山で土砂崩れが発生しました。近隣の皆さまは――」
それを現実と受け止めろと言うには少し時間のかかることだった。
土砂崩れ? ふざけるな、あの山の上に鎮座する化け物が見えないのか。
慶一朗は憤る。
何に? これを引き起こした自分に。
「岩で出来たセンジュナマコみたいだねぇ、ブッカー。四つ足じゃなかったっけ」
辰雄の胸倉を思わず掴む。
一番罪のない人物に八つ当たりをしてしまう。
「お前、こんな状況でッ!」
「慶一朗! やめなよ……アタシ達のせいじゃん……辰雄は悪くないじゃん……」
辰雄から手を離す。
「酷いよなぁ、みんなして怪獣復活の呪文知ってたなんてさぁ」
「まさかホントに復活するなんて思ってなかったよ!!」
地面に向かって思い切り叫ぶ。
この感情をどこにぶつければいいのか分からなかった。
辰雄曰くセンジュナマコのようだというぶっかは背中のゴツゴツした岩のような触手を使って手当たり次第に山を崩していく。
まだ体が山に埋まっているからだ。
洞窟に顔だけがあった怪獣は今やその半身を表に晒していた。
「ねぇ、私達も避難、しようよ」
夢が言う。
とてもじゃないが慶一朗の選択肢にそんなものはなかった。
辰雄も別の理由で首を縦には振らなかった。
「じゃあどうすんの!? 私達でぶっかを倒す!? 巨人になってさあ!」
そんな事、無理なのは分かり切っている。
夢も相当キテいるらしい。
それはそうと例の双子はというと「絵巻に何か対策が書いてあるかも!」「探してくるね! 先に避難してて!」と言って家に帰っていった。
本当に対策とやらが見つかればいいが。
それよりヤツが山から抜け出すのが先ではないのだろうか。
奴の足やら触手やらが振り回されて山が砂場遊びのように崩れていく。
「やめろ……やめろって!」
『ぶっかに言葉なんて通じないよ』
白い少女。
「ミコ……お前……!」
「ミコ? ねえ慶一朗、そこにミコがいるの?」
スマホを覗き込んでいた夢がこちらを見る。
「見えないのか?」
「うん……スマホにRAINは来てるけど……」
「僕にはどっちも見えないけどね、女の子なんて浮いてないし、スマホの画面はホーム画面になってるけど」
辰雄には悪いが無視させてもらう。
「なあミコ、どうにか出来ないのか。もう一回ぶっかを封印出来ないのか!?」
ユメ>お願い教えて
『無理だよ』
ミコ>封印は完全に解けちゃった。もともと綻んでいたから私が出てこれたんだけど。
「……お前はなんだ?」
『人身御供って知ってる? 私はそれに選ばれた』
ミコ>それからずっと待ってた、ぶっかと一緒に世界に復讐してやるんだって
重々しいほどの沈黙、少女の言葉にどう反応していいか分からなかった。
ただ一言、辰雄が。
「真っ当な理由だねぇ」
と写真を撮りながら呟いた。
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