第4話 双子介入
大岩を見つけた次の日。
「甲斐君たちって真面目に部活動してたんだねぇ」
「意外ー意外ー」
朝から慶一朗に絡んでくるのは例の双子の幽霊部員、
「普段は、だらだらしてたけどな、部費も出てるし充実してたぜ」
「え、なにそれ私達、そんな話聞いてない!」
「そんなんなら一緒にやりたかったー!」
「あの部室に五人も入るスペースはない。というか真面目に部活してるのを疑ってたのはお前らじゃねーか。どっちなんだいったい」
「それはほら、遊び半分」
「本気半分、みたいな感じかなって」
「なんだそりゃ」
「だってあんなに熱心に勧誘してくるんだもん。『幽霊部員でもいい数合わせのために入ってくれ!』って」
「そりゃ、ちょっとは真面目にやってるかなとも思うじゃん?」
「でも全然、活動してるところ見かけないし」
海東姉妹は顔見合わせ「ねー」とうなずき合う。
「それで本気半分遊び半分ね。残念ながら最初から遊び全部の計画よ」
「ずるいなぁホント。それ知ってたら入らなかったよう」
「のけ者にされちゃうんだもんねー」
「あー、じゃあ明日の洞窟探索来るか?」
二人はまたしても顔を見合わせ首を傾げる。
「洞窟探索?」
「なにそれ?」
慶一朗は後頭部を掻きながら。
「真面目な方の部活動ってやつ。遊びじゃなくて悪いけど」
しかし双子は目を輝かせた。
「行くよ!」
「もう仲間外れは無しだかんね!」
なんか面倒な事になったと思い、どう夢と辰雄に説明しようか悩んでいると、海東姉妹から思わぬ言葉が飛び出る。
「そういえば呪文知ってる? 怪獣復活の呪文」
「呪文じゃないよ、
あははそうだっけと頭をかく海東の姉の方、舞。
もうお姉ちゃんってばーと呆れているのが妹の
「お前らも知ってるのか?」
「お前らもって……私達の家に代々伝わる呪文だよ?」
「海東家に伝わる怪獣解凍の呪文だよ~」
なぜかお化けの手つきで話す芽。
しかしなぜ駄洒落、しかも解凍、奴はあの山に冷凍保存されているのか。
そこでふと思いつく。
「なぁ、ミコって女の子知らないか、怪獣にまつわる話で」
そこで姉妹の表情が驚きに染まる。
「なんで知ってるのー?」
「ご先祖様の名前だよ?」
点と点が繋がった……のだろうか。
昨日、現れた幽霊は海東姉妹のご先祖らしい。
「いや、絵巻に書いてなかったっけ?」
姉妹はシンクロした動きで首を横に振る。
「世間に公開されてる絵巻は半分だけなの」
「もう半分はウチが保管してるの」
なんてこったい。
どうして怪獣研究会はこんな逸材を眠らせていたのか。
それを知っていたら、わざわざ山登り&洞窟探索などしなかったというのに。
ホームルームの始まりを知らせるチャイムが鳴る。
担任が出席を取っていく。
そんな日常がどこか遠くに感じられた。
翌日。
事情を話し双子の参加を認めてもらい、再びの山登りと洞窟探索へと乗り出す怪獣研究会。
しかし、前回と違って、双子の親が車を出してくれる事になり、さらには楽に登れる山のルートまで教えてもらった。
少し遠回りにはなったが休憩を挟んでまで挑んだ昨日と違って随分と楽なコースだった。
そんなわけで無事に洞窟までたどり着く。
すると双子が、なにやら洞窟の壁を手で押しているではないか。
「なにしてんの?」
「ショートカット……!」
「ぶっかまで一直線の道!」
慶一朗も手伝い岩をどかすと確かにそこには道があった。
人一人が通れそうな道だ。
「すごい! こんなのがあるなんて!」
「ホント、なんで幽霊部員だったのよこの二人」
知らん、こっちが聞きたいと言いかけたがやめておく。
元々、怪獣を探す気のない怪獣研究会なのだから。
答えは明白だ。
懐中電灯をつけて進む一本道、と言っても昨日のぐねぐねした一本道とは違う真っ直ぐ前へと進んでいるのが分かる。
しかし、そこでまたもや行き止まりが訪れる。
「押して!」
「蓋してあるの!」
確かに。昨日、大岩の前で他の道など見つからなかった。
五人で力を合わせて岩を押す。
どすん! と岩が倒れる。
開けた場所に出る。
そこは例の大岩のある場所だった。
「ホントにショートカットだ。こんな早く着いちまうなんて」
「ねえ! 今度、海東さんちの絵巻見に行ってもいいかな!?」
「ほら辰雄、興奮しない、海東さんたちが怯えてるでしょうが」
「怯えてるっていうか」
「テンションの高さに引いてるっていうか」
そんな五人が照らす大岩の顔。
何故だか少し動いているようにも見えるのは五つの光が揺らめいているからだろうか。
早速、写真を撮りまくっている辰雄をよそ目に慶一朗が切り出した。
「……なあ、呪文、唱えてみるか?」
「……怪獣復活の?」
「私は別にいいけど」
「私もお姉ちゃんがいいならー」
しばしの沈黙、そして決心。
「辰雄、少し大岩から離れてろ」
「? 分かった」
頭を傾げながらも従う辰雄。
大岩の前に立つ四人。
「夢も知ってるのか? 呪文」
「うん……昨日、RAINで……いや夢に見て……」
「夢だけに」
「駄洒落にもなってないよお姉ちゃん」
「……じゃあ、俺からいくわ、二言ずつでいいよな?」
「……うん」
「私達は一言?」
「双子差別だー」
そんな発言を無視して、いよいよ呪文を唱える。
「ぶっか かい」
慶一郎は、どこかに期待を、どこかに不安を乗せた表情で大岩を見つめていた。
「じゅう いわと」
夢は半ば強迫観念にでも捕らわれたかのように、その言葉を放った。
「ひらき」「たまへ」
双子は平然と唱えてみせた。
辰雄を相変わらず首を傾げたまま。
「みんな何言って……うわっ!?」
唐突な地響き、地震かと思ったが違う。
大岩が
「マズい! 洞窟から出るぞ!」
慶一朗の言葉に呼応するかのように。
大岩の両目が開いた。
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