後は野となれ山となれ
第110話 名声、地位、金、女
名声、地位、金、女。与えられるなら何が欲しい?
こんな人の欲望を剥き出しにする質問を受けることが幾度かありましたが、僕は毎度有無を言わさず金でした。名声や地位は比較にならない選択肢だと考えていました。
だって、ほら、ね、お金があればなんでも買えちゃうのは間違いないですし。人間関係すら変えちゃうのだからお金の力は凄いですよ。資本主義社会に生まれ落ちた以上、お金を無視して生きることは不可能です。札束でぺちぺちされながら「ほら、三回回ってワンしてみろよ」と言われたら「え、そんなんで良いの?」と言ってワンしますよ。犬になりたい夢がありますからね、夢にも近づけるってもんだ。不都合なことが見当たりません。プライドが傷つくとも考えられません、そもそも僕にはプライドが無いのですから。(※1)
こう考えると、何だか何でも出来そうな気がしますね。法に触れない範囲でね。お金を積まれても決闘を受けたり、申し出をせずに南極に行ったりはしませんよ。僕は思ったよりしっかり者なのです。
しかし、最近急激に勢力を伸ばしてきた選択肢がありまして。「名声」です。
昔は名声なんて必要ないとか思っていたんですよ。今でも芸能人になりたいとかは全く思わないのですが、名誉ある評判があれば良いなと思うようになりました。これは文字を書き始めたことも起因していると思います。
例えば、不慮の事故に巻き込まれて亡くなり、このエッセイが報道されたとしましょう。僕という個人と書き物がリンクする訳です。僕を知っている人は心に秘めた考えを知るでしょうし、読んで下さっている方は僕のプロファイルと人間像を知ることでしょう。そして、こんな考えをしていたんだな、こんな人だったんだな。と、この文章から想起してくれるでしょう。カクヨムが存在し続ける限り、残った人となりは存在し続けるのです。
それを考えた時に、こんなに嬉しいことはないと思うのです。これらの記事は僕の考えをそのまま表現したものですから、それを認識してくれる人がいれば僕の存在がそこにあるのですよね。そうして自分は生き続けることが出来る。これは物書きに共通する感覚ではないでしょうか。文字を書くということは無意識の内に名声を求めているものなのではないか。名声と聞くと有名人のようなイメージを持ちますが、前述の通り名誉ある評判のことですね。関わった人が忘れないような評判。そんなものがあれば良いなぁ、と。
言い換えれば、僕は死にたくないのです。忘れられたくないのです。
Dr.くれはとは腐れ縁のヒルルクは臨終の間際に言います。
「人はいつ死ぬと思う?」
「……人に忘れられた時さ」
この言葉が二十年近い時を経て実感を持って立ち上がって来たのです。そうか、僕は誰の中にも存在しなくなることが怖いんだ。哀しいんだ。
こうして百話以上話して来ましたが、今でもPVが一つ増える度、コメントを頂ける度、僕は何だか嬉しくなるんですよ。それが何故か、もっと深い所で分かる気がしました。
人を育てるとはその意味で自分を残す行為でもあるのだなと思います。血がつながっているとかそういうことは関係無く、その人がいたことを覚えている人を残す行為ですから。
僕も誰かを育てることが出来ればなぁ。
よし、まずは弟子を探しに、人の言葉を喋るトナカイを探しに行かなければ。南極はダメだけど、申請なく北極圏に行っても法には触れませんよね。任せて下さい、しっかり者ですから。ちゃんと法に触れないように喋るトナカイ連れて帰ってきますから。
※1 将来の夢とプライド
出来れば金髪になりたいんですが、ダメであれば黒でも茶髪でもいいです。あ、涎が垂れても気にしないで下さい。生理現象ですので。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888425664/episodes/1177354054888659789
プライドは無いですが、パンツは盗みません。信じて下さい。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888425664/episodes/1177354054888520007
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