第111話 モテたい


 モテたい。


 これは外連味けれんみの無い本心です。


 底抜けにモテたい。当然のようにモテたい。めっぽうモテたい。果てしなくモテたい。破竹の勢いでモテたい。埋もれ木に花が咲くようにモテたい。活溌かっぱつ溌地はっちにモテたい。


 先日、ふと、自分の行動原理を考えなおしてみました。結果、「モテたい」。この一言に全て集約されている気がしたのです。


 モテたい、故に我あり。


 懐疑主義的な思考に嵌り、実在論的なものごとの存在に疑問を持つ瞬間があっても、モテたいと思う僕だけは疑いようがない。コギト命題ならぬ非モテ命題です。何の深みもありません。デカルトさんとその支持者に怒られる気がします。


 まず、モテるとは何でしょうか。僕の中でモテるとは、性別に関係なく関わりたいと思われることです。「あいつ(男)は男にはモテるんだよな」って言いますもんね。人として好ましい部分があるからこその憐憫を含んだ言い回しです。(偏りがあっても)人に好かれること。それがモテるです。


 さて、モテるために僕は「カッコいい」を目指しました。カッコいいはモテることの十分条件です。モテるからカッコいいのではなく、カッコいいからモテるのです。モテる人の集合の中には、カッコいい人、可愛い人、賢い人……など色んな集合がありますが、その中でもカッコよくなりたいと思いました。


 ここで注意を。人はカッコ悪さを好むはずがありません。カッコ悪くてもモテるというのは一種の修辞法レトリックに惑わされているのです。プライドをすり潰して家族や部下を守るとか、鼻血を流してみっともなく敵に縋りついて足止めするとか、そんな対照法に。無様さと格好良さは両立しますからね。不器用さと格好良さと言っても良いでしょう。


 閑話休題。今迄の行動を振り返ってみます。

 部活動はバスケを選ぶ。エガちゃんの恰好で体育館を走り回る。ギターを拾う。そこそこの大学に入る。女性の先輩たちにパンツを引っ張られながら宴会場を走り回る。スノボにハマる。服装や髪形に気を遣う。鼻毛を抜く。メロンを吐き出しながら自転車で北海道を走り回る。英語を勉強する。海外生活を志望する。


 振り返ると意識はしていなかったのですが、これらの行動原理は全て「カッコよく」なりたいだけのようです。どうした訳か全てが裏目に出ている気がしなくもないですが、根底にあるのは「カッコいい」への思慕です。


 何故、そうまでしてモテたいのか。これに理由はありません。モテることが好ましいと思ってしまったからです。でも、カッコ良くなりたい、そしてモテたいという動機は悪いものでは無いと考えています。前を向く原動力になり得ますからね。


 少なくとも最近、女性とはからっきしだった僕にも変化が訪れてきました。逆プロポーズを受けたのです。人生で初めてのことでした。


 お相手は先輩の娘さん。4歳。


 ホームパーティーで家にお邪魔した時も、一目散に駆けつけてハグしてくれます。ようやく女性にも僕のカッコ良さが伝わって来たのだなと満足気です。二十代後半で4歳の子に伝えられたので、このペースでいけば、あと170年くらいすれば二十代後半の女の子に逆プロポーズしてもらえるはずです。


 さぁー、これからもモテるためにカッコよさを磨くぞー。

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