第88話 Little Askewの誕生


 Little Askewというイメージはサッカーの本田圭佑選手の発言から着想を得ています。2014年、ACミランの入団会見で有名になりましたね。意味合いは少し違いますが(※1)、本田選手は頭の中に漂うに輪郭を与えてくれました。


 もやが生まれたのは更に1年前の2013年、大学3回生の冬に遡ります。ゼミの教授の教えでした。教授は卒業年度を前にした僕たちにこう告げます。

「今年、キミたちは卒論を書くけれど、このゼミでは中世西洋経済史に限らず好きなテーマを選び、先行研究や文献を基にして『どの説を支持するか』を書いて欲しい。オリジナルな見解に拘らないで良いよ。だって、学士のキミたちが持っている時間で自説を打ち立てるなんて不可能だから。僕の場合、きちんと研究をするにはオランダ語、古フランク語、必要であればラテン語を勉強し、現地の教会などに赴いて、資料批判をしながら原本を紐解いていく必要がある。キミたちはそこまでする必要も時間もない。だから、纏められた文献の中でもっともだと思う学説を選び、対照となる学説と比較しながら『なぜその学説を支持するのか』を書けば良い。その方が、この限られた時間で卒業論文を書く意味があると僕は考えます」


 立ち塞がるような卒論の壁がガラガラと崩れていきました。しかし、遥か先に薄っすらと峻険しゅんけんとした唯一オンリーワンそびえていることに気が付いたのです。あそこに辿り着くにはどれだけの努力と才能が必要なのだろう。何度か「オリジナルなどいらない」(※2)と書いたのは、誰もが到達するのは叶わない極地だからです。


 たとえ唯一が生み出せなくとも、自分にとって何が良いかを判断するとき、その視点は同じではいけません。だから、ゼミでは多数の個体を住まわせようとしてきたのだったと、最近、文章を書くようになって気付きました。それがLittle Askewの誕生に繋がったということにも。


 大学は学生最後の夏休みとも揶揄やゆされますが、文系でも卒業した甲斐はあります。自分を増やしても良いことに気付く。そして過去を未来から再評価出来る。これぞ高等教育。実益に繋がっているではありませんか。そう、思い込もうとしています。軸がぶれるのも、酩酊者が出るのも喜ばしい成長の証だと!!

 

 ただ、磨き切れていないために、どちらの主張にも納得する優柔不断さに拍車がかかりました。それは喜ばしい成長過程でしょうか……。真偽は火を見るよりも明らかです。







※1 リトル・ホンダは『自分の心の中や頭の中にいる、いわゆるもう1人の本質的な素の自分』と定義されています。


ゲキサカ 19/4/5 

本田圭佑が“リトルホンダ”の定義に注文「おもしろおかしく言ってくる人がいる」 

https://web.gekisaka.jp/news/detail/?270554-270554-fl


※2 No.1も唯一オンリーワンもどんなに難しいでしょうか。

第40回 僕 vs 1,082億人 - 自分にしか発想できないものはない。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888425664/episodes/1177354054888685828


第46回 変態は変態を磨き上げる - 自分で生み出したものは無い。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888425664/episodes/1177354054888762890

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