ACT.7 俺たちのヴィーナス(五式戦と零戦)

〇このお話に登場する飛行機 (運用者・開発者)


 ・キ100(日本陸軍・川崎)

 またの名を五式戦闘機。いや、正式採用されていないからそんな呼び方は存在しない、などの論争がある。飛燕こと三式戦Ⅱ型のエンジンを空冷のハ112-Ⅱ(1500馬力)に換装したところ、パワーアップと軽量化により期待以上の性能を発揮するとともに圧倒的な稼働率を手に入れた。型式は区別されないがキャノピーにファストバックとバブルタイプの別がある。


 ・零式艦上戦闘機五四型(日本海軍・三菱)

 零戦五二型丙のエンジンを金星六二型(=ハ112-Ⅱ)に換装、合わせて機首機銃を廃止した型。五二型丙では翼内13㎜機銃追加、ロケット架追加、構造強化、防弾強化により攻守を重視した結果、1100馬力の栄ではアンダーパワーとなっていたが、金星でこれを解決。燃費と軽さを引き換えに上昇力・加速を取り戻したらしい。






―――――





 1945年8月、蒸し暑い空に単発機の機影が見えてきた。胴体の円とやや上反角のついた翼だけのシンプルな正面形。一式戦かと思ったが、やや頑丈な感じの着陸脚とすっぱりとした長方形のフラップはどうやら零戦らしい。バンクを取り滑走路の軸に合わせ、迎え角をとってゆったりと降りてきた。

 フレア。尾部を下げて海軍式の三点接地。着艦フックで空母の制動ワイヤーを引っ掛ける前提の動きだ。我々陸軍ではああいった着陸はやらない。

 やや右が弾んだがすぐ地面に吸いつき、オレオをがたがたさせながらピストの前に滑り込んだ

 海軍機が陸軍の飛行場に降りるということは何かしら特別な事情があるものだ。

 だが余裕の見える滑走。特に不調の様子はない。緊急着陸ではなくあえてこの基地を目指して飛んできたようだ。アラートのキ100や三式戦に混じると零戦の曲線尽くしのデザインが際立った。

 プロペラを止め、キャノピーを開けて身軽に着地したパイロットは驚いたことに飛行服ではなく、真っ白な海軍の二種軍装だった。しかもコクピットからさっと軍刀をとって腰に佩いた。取り付いた整備員に一声かけると行進のように足早に歩いて管理棟の戸口に消えた。


 十三日にもなるとすでに我々一線の将校の間にも降伏の噂は流れていた。それと同時に、陸軍海軍のどこそこの部隊が徹底抗戦を唱えているだのといった話も耳に入ってくるようになった。

「我々は皇軍である。天皇陛下が降伏されるなら潔く毅然としてそれに従うのが皇軍である」

 我々の軍司令は訓示で一喝して配下の不安を消し飛ばしていた。よって基地内の士気は確かに落ち込んだものの、統制はよく保たれていた。


 降りてきた零戦の周りに人だかりができていた。尾翼に"ヨD135"のレタリング。塗装はかなり新しく、剥げもほとんどない。横から見るとカウリングの上部が妙に張り出していた。サブインテークの開口も心持ち大きい。

 もしやと思って私は正面に回ってエンジンを覗いた。プッシュロッド、プラグの配管、見慣れた配置だった。普通の零戦が積んでいるのは栄だが、こいつはハ112(金星)、我らがキ100と同じエンジンだ。

 栄がだいたい1150馬力、ハ112が1500馬力だから、300馬力以上パワーアップしていることになる。零戦にこんなタイプがあるとは知らなかった。

「五四型零戦」

 誰かが背中から声をかけてきた。

 知っている声だと思ったが、振り返ってみるとやはり平原ひらはらだった。二種軍装でこの零戦に乗ってきたのは他ならぬこの男だった。

「ハ112を積んだ零戦があったのか」

「いや、こんなものはあってないようなものさ。なんでも2機は作ったって話だが」

「試作機……」

「うん。追浜からテストのために飛んできたところをどさくさに紛れて拝借しているだけさ」

「強いのか?」

「ああ。旋回だけなら五二型以下だが、こいつなら米軍機のダイブにも付き合えるし、上昇も悪くない。軽くて強い、だ。構造的な強さだな」

「自重は?」

「2.1トン」

「軽いな」

「空冷の三式戦の方が重いか」

「2トン半はある」

 我々は零戦を前に並んで話していたが、平原はそこで私に向き直った。

「1年、いや、2年ぶりか、水瀬みなせ

「貴様も生きていやがったな」私も答えた。

 私と平原は所属こそ陸軍と海軍だが、幼少から一緒に飛行機乗りを目指した仲だった。同じ道を歩まなかったのは家の都合で、海軍のくせに陸っぽい名字、陸軍のくせに海っぽい名字だと互いによくなじり合ったものだ。

「ヨのDというのは厚木の符号だな?」私は訊いた。

「ああ」

「お前が厚木か……。さてはアジ(扇動)をやりにきたな」

 我々はタバコの火を交わしながら話した。

「その通りだ。だがきっぱり断られたよ。お前らの戦隊長殿は今世紀随一のカタブツだな」

 いや、編成が変わって今は「戦隊長」という呼び方はしないのだと思ったが、海軍に言ったところで理解できまいと私は黙っていた。我々部隊の内部ですらまだ戦隊や中隊といった古い呼称が飛び交っているのだ。

 平原は話を続けた。

「一応考慮の間を置いて明日また来ると言ったが、いや、議論の余地はない、次来れば問答無用で撃墜する、ときたよ」

「貴様はどうなんだ。厚木の方針に賛成なのか? 本気で抗戦しなければならんと思ってるのか」

「ああ。死んでいった仲間に報いるためにも、ここで剣を折るわけにはいかない」

「俺はむしろここで堪えてより多くの人々を生かすことが彼らへの手向けだと、陛下はそういう考えじゃないかと思うが」

「うん。正直言うと俺もそれには同意だ。だが無条件降伏だ。占領軍が来れば必ず軍は解体される。アメリカ製の戦闘機に乗せてもらえるかどうかさえわからん。飛ばなければ俺たちに何の職能が残る?」

個人主義インディビジュアリスムだな」

「いや、降伏派も抗戦派も陛下とお国のためを掲げているのは変わらん。それを選ぶ権利が与えられている時点で個人主義なんだよ。俺も、お前も」

「詭弁だな」

「水瀬、明日はお前が俺の迎撃に上がってこい。いつかはやりあってみたいと思っていたが、もう機会もなさそうだからな。個人の勝負をしようじゃないか」

「実弾か?」

「当たり前だ。空砲でお前らの戦隊長が許すわけないだろう。俺が負けたら大人しく厚木の連中を説得してやるよ」

「貴様が勝ったら?」

「お前の妻を貰う」

「は?」

「お前の妻を貰う」

「……何を言っている?」

「ふうん、それで釣り合わないと思うならお前もやはり立派な個人主義論者だよ」

「また詭弁を」

「どうなんだ、女房一人守れない男がお国を語るのか?」

「そんなにぶちのめされたいか?」私もさすがにカチンときた。

「ふうん、大きく出るじゃないか」

 平原はタバコを踏み消してコクピットからエナーシャのハンドルを取り出した。胴体の隠し蓋を開け、ハンドルを差し込んだ。

「回してみろよ」

 中に鉄塊のように重たいコマが入っていて、その回転に溜めた慣性をクラッチで一気にエンジンに伝えてクランクを回すのだ。

 コマにつないだハンドルは雄牛のように重たく、回転に勢いがつく頃には肩の筋肉がかちこちになっていた。

 平原がコクピットでクラッチをつなぐとプロペラががくんと動き、次いでいくつかのシリンダー内で燃焼が起きてぎこちなく回り始めた。

 私はすぐにハンドルを抜いた。仮にクラッチを繋いだままだとしたら生身の腕が1500馬力でねじられることになる。そんなに恐ろしい想像もない。

 平原がスロットルを押し込んだらしく、排気管から一斉に黒煙が吹き出し、ばたばたと爆音を立ててエンジンが自転に入った。滑らかに回転するプロペラが鏡のように太陽の光を映した。

 零戦が飛び立ったところで管理棟の方からキミコが歩いてくるのが見えた。すらっと背の高いもんぺ姿とくれば彼女だ。だいたい、基地には軍属の女性も多く出入りしているが、制服を着ているからもんぺ自体珍しい。いずれにしても目を引いた。

 彼女はバスケットに入れた卵焼きをパイロットや地上員にトングで配りながら歩いてきた。隣の養鶏場から基地に卵を卸しているのだが、ついでに品物にならない卵で作った卵焼きを切り分けて持ってきて、ああやって兵士たちに「餌付け」するのが彼女の日課だった。キミコは器量よしで性格も明るいので男たちからよく好かれていた。卵焼きを受け取る野郎どもの頬の赤いこと赤いこと……。

 したがって婿むこである私が羨望の眼差しを向けられるのは当然のことだったが、それに耐え、また妙な気を起こす不届き者がいないか目を光らせておくのも私の役目だった。私が人より長くこの基地にいるのは、夫婦をまとめておいた方が何かと好都合だと踏んだ基地司令と軍司令の判断だろう。

 そして私が基地にいる時は声をかけてくるのもキミコの日課のうちだった。

「出撃のあった日に気をつけてって言って、それであなたは帰ってきたわ。声をかけない日があって帰ってこなかったら、きっととても後悔するもの」

 そういうジンクスらしい。

「平原に会ったか?」今日は私の方から声をかけた。

「平原?」とキミコ

 私は手を振って彼女の後ろに孔雀の羽のように控えている男たちを追い払った。

「そう、仰々しい言い合いをしていると思ったら、あの海軍さんは彼だったの……」

「ああ、あいつだったよ。さしずめ地元ということでこの基地を任されたんだろう」

「私には挨拶してくれなかったわね」キミコは残念そうに溜息をついた。「任されたって、徹底抗戦の扇動か何か?」

「ああ、厚木の一派らしい。明日また来るとさ」

「今度は会ってくれるかしらね」

「いや、降りてくる前に追い返されるさ」

「そう。まあ、隊長さんのあの意気じゃ無理もないわね」

 500mほどまで高度を上げた平原の零戦が滑走路方位に合わせて上空をパスした。

 どこかで待っていたのだろう、その後ろに銀河陸攻が続き、ぱかっと爆弾槽を開くと中から何か細かいものを吐き出した。それはどこか海洋魚の放精を思わせる光景だった。

 何だ? と思ったが、ビラだった。性懲りもなくアジをやろうというのだ。

 地上の兵士たちは降ってきたビラを血眼になって集めはじめた。内容はともかく紙はいい着火剤になる。どこからともなく現れた憲兵がやたらと笛を吹きながら1人でそれを制止しようとしていた。むろん誰も聞く耳を持たない。顔バレする前にズボンの中へしまい込んでしまえばいいだけだ。

 無秩序ならここにもある。無秩序は無秩序を呼ぶ。

 我々は秩序なのか? その信念はより大きな無秩序の1要素に過ぎないのではないか?

 地上の騒ぎを嘲笑うように零戦と銀河はぐるりとひと旋回してから去っていった。


 キミコは大八車を起こして先に養鶏場に帰った。私は見送りのその足で管理棟に入り、風通しのために開けっ放しの戸を一応ノックしてからの執務室に入った。

「平原海軍中尉は明日も来ると申しましたか」

「詫びを入れに来たのでなければ問答無用で撃墜だと伝えたが、それでも構わんらしい」戦隊長は窓辺で外の騒ぎを見下ろしながらタバコの煙をくゆらせていた。

「2つ頼みがあります」私は踵を揃えて進言した。

「言ってみろ」

「明日の迎撃を私にやらせてください」

「1機で、か?」戦隊長の横顔はニヤニヤしていた。「相手も1機で来るという確証でもあるのか」

「平原はそう言っておりました」

「旧知か」

「はい」

「フン、おもしろい。いいだろう。2つ目を言ってみろ」

「戦隊長殿のキ100を貸していただきたい」

「バブルキャノピーか」

「はい。あの零戦は零戦であって零戦ではありません。おそらく飛行性能ではキ100が劣っています。必ず後ろにつかれる。後ろの見えない従来型では不利です」

「それなら、わかった。貸してやる。燃料も出撃用のガソリンを使え」

 春以降、訓練時には空戦でも射撃でもいかがわしいアルコール燃料を使うことが増えていて、ガソリンを使えるのはほとんど実戦の時だけだった。

 つまり戦隊長は相手が日本人だろうが知り合いだろうが本気でやれ、撃墜してこいと言っていた。

「ただし負けたらただじゃおかん。覚悟しておけ」

「……はい」

「ん……? どうした?」

「いえ、戦隊長はこういった野暮は嫌いかと」

「無用な争いを避けろと通達しているのに、か?」

「はい」

「確かにな。だがその『決闘』で事が収まるなら、乱闘になるよりよほど筋が通る。そうは思わないか」

 戦隊長は吸いさしを灰皿に押しつけ、そこへ吹きかけるように細長く煙を吐き出した。

 私は頷くしかなかった。


 キミコは家の中で和装はしなかった。寝床でもワンピースで、枕元にもんぺを畳んでおいて、空襲警報が鳴ってから全部を着替えるという気の入れようだった。

 キミコはもともと洋装好む女だった。そういうハイカラなところが私と平原の心を捉えたのだろう。私と平原はともに山奥の育ちで、中学に上がるとなって下宿を探さなければならなかった。そのアテとなったのが農場主のキミコの家だった。キミコの卵焼きはその当時からすでに絶品だった。料理の上手い綺麗な娘さんとひとつ屋根の下、2人は自然とどちらがその気を引けるか競うようになった。

 だが平原は航空学生となって遠方の部隊を当てられたのがアダになった。少しばかり長居した私が彼女の両親に談判して婿となった。だから水瀬といっても旧姓で、今は小金井という姓だった。

 とはいえ結局のところそれは共にした時間の差に過ぎないのであって、キミコの気持ちに選ばせたわけではなかった。だから私は漠然と「キミコは完全に私のものであるわけではないのだ」という気持ちを抱いていた。

 平原の賭けはそんな私の心を見透かしたようなものだった。私はそれが気に食わなかった。

 負けてやる気はない。

 私は寝床で空戦の想像をした。キ100とあの零戦のパワーは互角。自重はキ100の方が400kg近く重い。400というのは圧倒的な差だ。零戦のベースは五二型丙。波板の内張りで主翼強度を上げたというが、それでもキ100は超えない。もともとの設計が零戦の方がそれだけ切り詰められている、と言っていい。キ100の前身である三式戦はある程度余裕を持たせた設計で、悪く言えば「贅肉が残っている」わけだ。

 五二丙は翼内機銃も増設しているが、あるいはそれも下ろして軽量化してくるかもしれない。

 旋回はどうだろう。主翼面積あたりの重量の軽さがものを言う性能だが、零戦の主翼はキ100より小さいだろうか。少なくとも翼幅ではキ100が上だろうが、それだけで明確な差が出るとも思えない。

 米軍機のように一撃離脱を徹底するのはどうか。

 急降下に入れば重たい分キ100の方が突っ込みは速い。だが五二丙も追いすがるだけの強度はあるはずだ。決定的に仕切り直すことはできない。

 私は首を振った。

 機体性能で劣るというのはこういうことだ。いくら考えても勝ちが見えてこない。

 だが我々は今まで圧倒的な性能差を見せつけるP-51やF4Uを相手にして生き残ってきた。勝ちの決め手は不意打ちや高度有利、そして相手のミスだった。それが事実だ。相手は常に的確な判断を下すことのできる神様ではない。あくまで人間、平原なのだ。まずは勝てる状況をどう作り出すか考えればいい。それがキ100の性能にはまる動きなのか、零戦を相手に可能なのか、考えるのは二の次だろう。

 私は溜息をついた。

「普段と違うわね」キミコが言った。「どうせあなたも明日迎撃に上がらなければならないとか、そんなところでしょう?」

「ああ」

「上手くやってあげなさいよ。彼が無駄死にしちゃわないように」

「いや、一対一さ」

 キミコはふと体を硬直させ、私の胸に手を置いた。それから「……バカなんだから」と心底呆れた様子で呟いた。

 むろん私は彼女自身が賭けの対象だなんてことは決して教えなかった。


 翌日、平原は本当に1機でやってきた。11時過ぎだった。機体はピスト(搭乗員待機所)前に引き出してあったのでアメリカさんの空襲が恐かったが、幸い音沙汰なかった。つまり、普段は林の中に隠しているからいいが、一度出してしまうと引っ込めるにも時間がかかりすぎるから、敵が来たら迎撃に上がってしまわなければならない。そうなれば試合はお流れだ。

「中京方面より小型機1。零戦単機と思われる。小金井中尉は出撃」

 スピーカーに呼ばれて戦隊長機に飛び乗り、完調のエンジンを始動車で軽く回してすいっと離陸した。

 キ100の心臓、ハ112は新司偵(百式司令部偵察機)譲りのエンジン。長駆海上を飛ぶ偵察機に故障があってはならない。その信頼性はピカイチで、いざというときに回らない、まともなガソリンを入れて空中で止まる、なんてことはまずなかった。

 加速、上昇ともに良好。

 ブースト全開は戦闘にとっておきたかったのでレバーを全速よりいくらか抑え、角度も甘くとって上昇した。

 零戦はすでに上を押さえていた。4000m程度だろう。案外襲ってくるかもしれないな、と思ってフットバーと操縦桿を構えていたが、降ってくるような気配はなかった。高い太陽を時折翼で遮りながら大人しく飛んでいた。

 大きな左旋回の内側に入って斜め下から内側の編隊位置につくと、零戦は直線飛行に切り替えた。

 枠の多い零戦のキャノピーの中でパイロットがゴーグルを外した。間違いなく平原だ。私も同じように顔を見せて挨拶した。

 平原は機体のカウルフラップをぱたぱたと開閉させた。エンジンを冷やせ、という意味らしい。上昇してきたこちらのエンジンはへばっているだろうという配慮だ。私はすでに冷却系をいっぱいまで開いていた。まだ全力こそ出していないが、低高度だし、何より夏の猛暑だ。急降下でもやらなければいくら冷やしても冷やしすぎるということはない。

 私は手信号で無線の周波数を指示した。平原はすぐに合わせて声を吹き込んできた。

「聞こえるか」

「ああ、すこぶる良好だよ」私は答えた。幸い無線機の調子もいい。零戦は無線機を積んでいないとか、使い物にならないといった話を聞いたこともあったが、まあともかく新型機だ。そのあたりの問題は克服していると考えていいのだろう。送受の切り替えもスムーズだった。

「やけに派手な塗装じゃないか」平原は言った。

「戦隊長殿の機だ。このバンド、本人も聞いてるぞ」

「これは失礼」

 戦隊長機――私の乗機はカーキの機体色に白を使って主翼の斜線と胴体の3本線を引いていた。青緑一色の平原機と比べれば派手で当然だった。

「しかし、初めて見る機体だと思ったが、三式戦の空冷型か」平原が訊いた。

「キ100だ。昨日も見ただろう」

「背中の形が違うからちょっと見わからなかった。エンジンは金星だな?」

「金星、ああ。ハ112だ」

「互角というわけだな」

 私はもう一度零戦の容姿を見た。膨らんだ機首が不格好だが、それはキ100も同じ。大きなプロペラボス(スピナー)が精悍だった。カウリングの後ろに並んだ排気管から熱い空気の揺らぎが吐き出されていた。主翼を見ると前縁から突き出した砲口は一対だけ。昨日は二対だったから、一対は下ろしたようだ。

「今から互いに20秒離れたところで始める。俺は左に切る。お前は右に切れ。いいか」私は訊いた。

「いや、このまま始めよう」

「は?」

「まどろっこしい」

 機速は約350km/h。後ろにつくには減速しなければならないが、キ100ならむしろもう少し速度が欲しいところだ。ということは金星零戦はよほど低速に自信があるのか? いや、後ろに行くか離脱するかで私がそれをどう踏んでいるか、平原は知りたいのだろう。

「なるほど、貴様そういう作戦か」私は言った。

「嫌か?」

「いや、乗った」

「よし、では合図はお前がやれ」

 私はプロペラピッチを下げ、過給機と空燃比の設定を確かめた。

「よーい」私は言った。

 平原は機体のカウルフラップを閉じた。

「てッ!」

 私は言うのと同時にスロットルレバーを引き、フラップを開いて全力で減速した。

 浮き上がりを押さえるために操縦桿を押し込んだ。

 軽いフリップのような機動になった。

 2秒後にレバーを全力まで押し込む。

 平原は横滑りで私の腹の下に入り、左に抜けた。

 私もペダルを踏み込んで機首を左に振った。

 平原はロールで射線を避ける。

 思いのほか鋭いロールだった。

 照準器のガラスにも入らない。

 私はフラップを格納して機体の抵抗を最小に抑え、全力で平原を追った。

 だがそれでも平原は少しずつ引き離していった。

 やはり機関砲の他にも何らかの軽量化を施しているのだろう。

 私は追うのを諦めて手近な雲を目指した。

 仕切り直しだ。

 私の初手の動きで平原はこう思っただろう。私が金星零戦を一撃離脱向きの戦闘機と踏んだのだ、と。となれば平原はきっと私の裏をかこうとして旋回戦で勝負を仕掛けてくるだろう。

 雲に飛び込んだ。

 夏の積雲は密度が濃く、視界は暗く塞がれ、機体ががたがたと揺れ、風防に水滴が這った。これは隠れ蓑としては使えないかもしれない。スピードが削がれるし、視界もなくなってしまう。盾に留めておく方がよさそうだ。

 私は平原の位置を予測して雲を抜けた。

 後方、真上、下方の順で警戒。

 機影なし。

 しかし不思議な後方視界だ。自機の尾部どころか尾輪まで見えそうなくらいだった。一式戦に似た感触だがキャノピーが広く首を動かしやすい。

 ともかく平原は見えない。雲の陰に隠れるようにして上昇した。

 カウルフラップ、オイルクーラー全開、空燃比は少し燃料を濃く。

 高度6000mで反転、積雲の頭を巻いて反対側へ出た。

 平原は1000mほど下方で私を探していた。

 私はすかさず操縦桿を倒し、ハーフロールから急降下に入った。

 一瞬額の上に重力方向が変わり、体が座席から引き剥がされるような浮遊感に襲われた。

 それもすぐ加速に打ち消される。

 風圧でキャノピーの縁ががちがちと震える。

 キ100の機体強度は折り紙付きだ。いくら強化したといっても零戦で垂直降下にはついてこられないだろう。

 平原機が光った。

 回避のために翼を立てたのだ。

 緩降下しながら増速。逃げずに回避するつもりだ。スピードは600km/h程度か。

 平原は私の姿勢を注意深く見て常に旋回の外側へ機体を動かした。

 キ100はロールが重い。機首を合わせられない。

 何度か目の前を通り過ぎる瞬間を狙って短く射撃ボタンを押した。機首の砲口が光り、ホ5機関砲が直径20mmの弾丸を撃ち出す。主翼のホ103・12.7mm機関砲一対も吠え、計4条の火線が前方に伸びていく。

 だが手応えがない。相手が機敏すぎて偏差や角度が合わない。距離100m以下に迫っても照準器どころか風防の正面ガラスにさえほとんど捉えられていなかった。

 曳光弾が機影の脇をすり抜けていった。

 平原の腹の下を抜けて上昇。

 スピードを高度に還元する。

 振り返る。

 平原は追ってこない。そのままの高度で闘牛士のように待っていた。

 再び機体をひねって降下。

 平原はまた緩降下でスピードを上げたが、今度は食いついてくるような動きを見せた。

 追いすがるだけのスピードを確保した、ということだ。

 平原の横を通り抜ける時、2機の進行方向はほぼ同じだった。

 「ダダダッ!」

 耳元で射撃音が響いた。

 私の射撃ではない。

 平原の弾が左手を追い抜いていった。

 私は右のペダルを調節して横滑りしながら上昇した。

 振り返る。

 平原が食いついていた。

「ダッダッ、ダダッ」

 発砲音が断続的に迫ってきた。

 操縦桿を倒して平原機の機首の陰に切り込む。

 翼が撓り、リベットが軋む。

 距離300ほどまでは引き離したがそれ以上は広がらない。

 私は回避で機体を振ってエネルギーを削いでしまったし、そもそも機体の軽い零戦の方が上昇有利だった。

 ほんの少しだけレバーを戻してスロットルを絞る。

 これは仕掛けだ。

 耳抜き。

 高度6000m。計器200km/h。

 ここでレバーを押し込んで粘る。背面に持っていってやや左に滑らせる。

 とっくにスピンに陥っていておかしくない速度だったが、素直に機首が下がった。

 一瞬だけ失速に入った右翼がバフェットでぶるりと震えた。

 平原は私が失速して空中で静止する瞬間を待っていたはずだ。

 だが彼も粘っているうちにエネルギーを切らした。

 零戦なら120km/hくらいまでは粘るだろう。だがそのスピードでも軽々動けるかといえば答えは否だ。

 機首が重くなってまるでこちらを向けていなかった。ほぼ真上を向いて茶柱のように立ち上がっていた。

 実戦ならこんな無防備な機動は許されない。

 私はその状態を狙って降下しつつ機首を上げた。だがまだこちらもスピードがない。

 沈み込みが大きく、旋回の中心に平原機を巻き込むような具合になった。

 平原はその隙に機首を落として降下に入った。

 私も縦旋回をやめて左捻りで降下。

 互いに機首を向けようとして交差、反転。

 降下しつつ二重螺旋を描く形になった。

 こうなるとロールの遅いキ100が不利だ。

 私は切り返しを早めて平原の進路を押さえた。

 あえて相手の目の前を横切る危険な機動だ。

 火線が脇を抜けた。

 衝撃。

 尾翼に当たったか? 

 風防のガラスに平原機が入った。

 射撃。

 しかし平原はそれより早く翼を立てて右旋回。

 私が追ってバンクを取ると、今度はくるりと左に回って左旋回に入った。

 フェイントだ。

 反応が遅れた。

 ロールも遅い。

 輪の中に入った時には私と平原の位置はほぼ対角だった。

 まともな水平旋回。もしこれが三式戦と零戦二一型の勝負だったなら零戦が圧勝していただろう。しかし平原の零戦はそれよりはるかに重いエンジンを積み、翼端を削って揚力も小さくなっている。逆にキ100は冷却系を削った分だけ軽くなっている。

 筒温が高い。

 空気が蒸しているせいだ。高度2000m。低空では気温の影響が顕著だ。

 私も汗だくだった。

 息も苦しい。一息つきたい。顔を拭いたい。

 だがここで離脱すればかならず食われる。

 我慢だ。

 だからお前も頑張れ。

 私はエンジンを励まし、速度計を確かめて左手でフラップのレバーを叩いた。

 機首が軽くなった。

 旋回の内側に入ってじわじわと平原の背後に迫っていく。

 すさまじい重力が体を座面に押し付け、首はおろか腕すらろくに動かせなかった。右手が操縦桿から滑り落ちそうだった。

 平原は観念した獲物のようにそのまま旋回を続けていた。振り向いた顔がじっとこちらを見ていた。

 やがて平原機が照準器のガラスに入り、十字線の真ん中が翼の付け根を通った。

 旋回戦の間は偏差を上に取らなければならない。相手は照準より下に来ることになる。距離が近ければ敵の姿はボンネットで見えなくなる。

 見えない敵を撃つのだ。

 私は発射ボタンに指をかけた。

 だが嫌な予感がした。

 平原機のエンジン音が変わった?

 私は撃ちながら旋回を抜け、右にロールして後方を見た。

 平原が後ろにいると気づいた時には右翼の翼端が飛んでいた。

 おそらく私の死角に入ると同時に減速しながら旋回の外側に出て私の後ろについたのだろう。

 私は操縦桿を左に押し込み、フットバーを右に蹴って機体を安定させた。一部でも右の片翼が脱落したわけだから、揚力も抗力も左の方が大きくなる。舵でその不均衡を埋め合わせてやらなければならない。

 むしろ舵だけで埋め合わせられる程度の損傷で助かったといわなければならない。

 平原は後ろについていた。私は時折アンバランスに任せて機体を振ったが、その程度の機動では到底引き剥がせなかった。

 だが彼は撃たなかった。

 私はふらふらと飛び続けていたが、平原は後ろにぴたりとついているだけで一向に撃ってこない。

 まるで挑発のようだった。

 私は久しぶりに送話スイッチを入れた。

「撃てよ。手心か?」

「弾切れだ。さっき翼端を飛ばしたので最後だった。あれでお前が脱出していれば俺の勝ちだったが、お前はまだ飛んでいる」

 平原の答えにはびりびりとノイズが混じっていた。高ブーストで加熱したエンジンの放電が送信機の信号に割り込んでいるのだろう。

 本当に弾切れだろうが嘘だろうが、私にはその不徹底な態度が屈辱的に感じられた。もともと興奮状態だったし、致命打を受けて余計に気が立っていた。

 私はレバーを絞った。

 機体は平原の目の前に向かって減速していく。体当たりでもしてやるつもりだった。避けたらその時は撃ち抜いてやる。

 平原は易々と私の腹の下に潜り込んで急降下で逃げた。

 私は腕と足を突っ張ってどうにかまっすぐ追いかけながら弾をばら撒いた。

 だが平原はいっさい取り合わずに飛行場の一端で急旋回してスピードを殺し、脚を下げて滑走路に滑り込んだ。

 地上近くでは私もさすがに撃つのをやめ、平原に続いて着陸した。

 片翼なしの着陸というのは機体を傾けながらの接地を強いられるので脚を折らないようにかなり神経を使うのだが、私はそれどころではなかった。零戦に横付けして乱雑にエンジンの点火スイッチを切り、整備員も駆け寄ってこないうちに飛び降りた。

「おい、降りてこい」私は零戦に向かっていった。

「もう勝負はついただろ」平原は疎ましげに答えた。

 私は零戦の翼の下から平原を引きずり下ろした。

「手加減しやがって!」私は倒れた平原の横っ面をグローブをしたまま殴った。

「嘘だと思うなら乗ってボタンを押してみろ。弾は出ないよ」

「そういう問題じゃない。胴体を狙えばよかっただろうが」

「何を言う。お前だって降りてきたじゃないか。上から撃てばよかったものを」

 平原は起き上がって唾を吐いた。さすがにやる気になったらしい。

「勝ちを譲られるのがそんなに悔しいか」

 平原は空手の構えで上段突きを打った。

 私はそれは躱したが、次の中段が鳩尾に入って意識が飛びそうになった。

 私はどうにか立ったままその衝撃をこらえた。

「譲ったんじゃないか」

 私は右のストレートを放ったが、それは平原の肩の上にすっぽ抜けた。

「お前だってインディビジュアリストさ。自分の感情のために殴るんだろ? こんな結果じゃキミコを守った気になれないからか?」

 平原はまた私の鳩尾を狙った。

 私は腹に力を入れてそれを受け止め、左手で腕を掴んでしっかりと頬に1発入れた。

「キミコキミコと、だいたいなんでキミコなんだ」

「そうでも言わなきゃお前は乗ってこなかっただろうが」

 平原は私の顔面に突きを叩き込んだ。さすがに意識が朦朧とした。

 だがそのまま構えていた平原の頭を後ろから誰かが何かで殴った。そしてその手はすぐさま私にも襲ってきた。

 ものすごい衝撃が頭を襲った。平原の突きの比ではなかった。

 平原と私は並んで地面に伸びてしまった。

 足元を見上げるとキミコが四角い鉄製の卵焼き器を握って立っていた。ちょうど太陽を背負う位置で、彼女の輪郭を太陽のフレアが輝かせていた。西洋の古典主義歴史画にありそうな格好だった。震える手に握った卵焼き器の底板は2人の頭を殴ったせいでへこんでいた。

 果たして卵焼き器なんか握った女神ヴィーナスを描いた画家がいただろうか。

「いい加減にしなさいよ、バカ。みっともない」

 いつの間にか集まっていた野次馬の垣根を割って戦隊長が近づいてくるとキミコの手から卵焼き器をそっと預かり、「まあ、そのくらいでいいでしょう」と言って震える肩に手を置いた。

「平原中尉、零戦は無事か」戦隊長は訊いた。

「……はい。何発か食らいましたが、エンジンは無傷です。飛行に支障ありません」平原は指でちょんちょんと頭を触りながら答えた。

「では燃料は入れてやるから、すぐに部隊へ戻れ。昨日も言ったが、返答は変わらない」

「はい」

「小金井、これは私が命じたことだ。機体を壊したのはこれでチャラにしてやる」戦隊長は卵焼き器をくるりと回した。それから野次馬たちに向かって言った。

 私はようやく体を起こして後頭部に触れた。すでにまんじゅう大のタンコブが膨れ始めていた。

「おまえたち、弾が周りに落ちているだろう。住民から困り事が何か耳にしたらきちんと面倒を見てやるように。いいな」

 野次馬たちは野太い返事をして散っていった。その中の1人がキミコに卵焼きのバスケットを渡した。

 キミコは平原を呼び止めた。

「ひとつ食べていって」

 平原が立ち止まると、キミコはその口に卵焼きをひとかけ押し込んだ。トングではなく素手だった。

 平原は噛まなければ息ができんといった仕方ない感じで食べ、うぐっと飲み込んだ。

「ああ、うまいですよ」

 ツッケンドンな返事だったが、キミコは心底嬉しそうな顔をした。

 そんな顔は私も見たことがなかったし、まして「餌付け」の時などもってのほかだった。

 その時私は負けを自覚した。

 やつは確かに私を撃墜し、そしてまんまとキミコを奪ったのだ。

 いや、そもそも私のものではなかっただけだ。私が手に入れたのは戸籍上の彼女に過ぎない。

 キミコの心はもとより私たちに平等なもの、あるいはどちらかといえば平原のもの――もっとも完全にやつのものだとも決して思えなかったが――であったのかもしれない。

 心というものは誰にも奪えないのだ。平原が海軍全体の方針に背いて飛び回っていたのだって同じ理由だろう。アジだとか抗戦だとかいった大義は根本的にどうでもよかったのだ。やつはただより長く多く飛べる方に賭けただけだった。

 


 私の部隊の中にも降伏の方針を内心信じていない派閥がまだあったが、それも玉音放送(とその後の解説)でほぼ完全に鳴りを潜めた。

 厚木の方も長野やらに移るなどして数日は頑張っていたものの、陸海ともに呼応する部隊・基地がめっきりなくなり、結局説得されて活動をやめたという。

 平原がそれにどこまで加わっていたのかはわからないし、消息さえ数年掴めなかった。5年経ってようやく手紙が届いたのだが、文面らしい文面もなく、航空便の宛名はなぜか「小金井キミコ」で、ただ「夫は元気か?」とメモを添えた写真が1枚入っているだけだった。

 それは戦後型のヴォートF4Uコルセアをバックに適当な格好で立った平原自身を写した一葉だった。

「あら、いいじゃないの」

 キミコはそう言ってその写真をすぐに額に入れた。

 日当たりの具合か、しばらくすると赤茶けてしまったが、その額の前に立つと私は今でもすぐに操縦桿を握ってやつを撃墜してやりたいような気持ちになるのだ。

「結局、人は自分自身のために飛ぶしかないのさ」

 平原のニヒルな表情は私にそう問いかけ続けていた。





―――――





あとがき


・資料と証言の乏しい2機を選んでしまったので機体に関する考証はなおざりです。重量など基本的な諸元から想像するしかない部分があったのは読んでの通りです。


・言うまでもないと思いますがこのお話は『紅の豚』へのオマージュを多分に含んでいます。金星と女神を結び付けようとしたらこんな筋書きしか思いつきませんでした。


・舞台のモデルは明野飛行場ですが隣が養鶏場だとかそんな事実はないはずなので明言していません。スピーカーの「中京方面」というのが唯一の仄めかしです。


・参考資料は2件です。

 五式戦については檜與平『つばさの血戦』光人社NF文庫,1995年の後半部分です。一貫して「キ100」と記されており、「五式戦」という呼称は出てこないのでそれに倣いました。檜氏は運動、上昇、特に稼働率と、キ100の多くの点を高く評価しています。旋回については陸軍で1番、一式戦の後継機という位置づけです。もっとも彼がほぼ九七式戦、一式戦、キ100しか知らない点を差し引くべきでしょうが。

 なお無線については、地上と話せないといった記述がある他、編隊行動中に隊内で使用している描写がないにもかかわらず意思疎通や指示に不達が感じられる部分が多く、役に立っていない、あるいは役に立てる気がないのが伺えます。それでも檜氏は自称ロッテ戦法を習った身であり、部下にもこれを教えようとしています……。

 また檜氏は明野や高松で周辺住民を動員して林の中に飛行機の隠し場所を造成したことをよく記しています。一番遠いところで滑走路から3kmの距離、というのも何度か出てきました。これは作中に反映させています。

 藁や竹で作った実寸大の飛行機を飛行場に並べ、それらしく偽装網を被せ、レーダーを騙すために壊れた飛行機のジュラルミン片を下に置いた、というのも印象的でした。

 この時期のレーダーなので対地はグラウンドクラッターまみれでろくに映っていたとは思えませんが、氏曰く効果があったらしいです。


 2冊目は渡辺洋二「三〇二空の最後」『重い飛行機雲』文春文庫,1999年。厚木の動きに関するものです。宣伝活動やそれを受けた側の反応を参考にしました。零戦と銀河のチーム、長野へ逃げた、といった発想・情報はここからです。降伏後の抗戦運動は三〇二空の小園安名大佐(当時)が中心でしたが、間もなく体調不良で陣頭を退いたため、かなりの裁量が尉官クラスの若い将校に委ねられていたことが窺えます。

 もちろん厚木が零戦六四型を持っていたなんて事実はありません。


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空戦 前河涼介 @R-Maekawa

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