エピローグ『まったりと、いつまでも。』

 7月23日、火曜日。

 ゆっくりと目を覚ますと、そこには優しい笑みを浮かべながら俺のことを見るエリカさんの姿があった。


「おはよう、宏斗さん」

「おはようございます、エリカさん。今、何時ですか?」

「午前6時過ぎだよ。昨日の夜はたくさんしたのに、宏斗さんは早く起きられたね」

「運動をしたことで、良質な睡眠を取ることができたからでしょうかね」

「そうかもね。私は10分くらい前に起きたから、いつもよりもちょっと遅いかな。ただ、宏斗さんの寝顔が可愛かったからずっと見てた」


 エリカさんはにっこりとした笑みを見せると、俺にキスしてきた。

 それにしても、服を着ていないエリカさんの姿を見ると、昨日の夜のことを思い出すな。あのときのエリカさんはとても綺麗で、可愛らしくて、何よりも艶やかだったな。


「今日もお仕事があるし、もう起きちゃおっか」

「そうですね」


 とりあえず、下着や寝間着を着て、俺はエリカさんと一緒に寝室を出る。すると、リビングの方からはリサさんとルーシーさんの話し声が聞こえる。

 リビングに行くと、そこにはメイド服姿のリサさんとTシャツにロングスカート姿のルーシーさんがいた。


「エリカ様、宏斗様、おはようございます。早かったですね」

「思ったよりも早かったわねぇ。昨日の夜はお楽しみだっただろうから。2人で起こしに行こうと思ったのに」

「私達だって大人なんだし、寝坊なんてしないよ。私がそんなことを言っても説得力ないかもしれないけど。あと、昨日の夜は……忘れられない時間になったよ。2人ともおはよう」「おはようございます。リサさん、ルーシーさん」


 すると、ルーシーさんはニヤリと笑みを浮かべながら、俺達のところに近づいてくる。


「実際のところ、どんなことをしたの? リサには刺激的過ぎるから、こっそりとお母さんだけに教えてくれないかな」

「それは宏斗さんと2人だけのヒ・ミ・ツ。ていうか、リサはともかく、お母様はどうせ透視魔法とか使って私達のこと見てたんでしょ。宏斗さんと楽しい夜を過ごせって言っていたし」

「見て……ないけれど」


 あからさまに俺やエリカさんから視線を逸らすルーシーさん。これは絶対に透視魔法で昨晩の俺達の様子を見ていたな。恥ずかしい。


「私が見ていたかどうかはともかく、それを本人の口から聞くのが楽しいんじゃない」

「それが母親の言うことか! お母様はお父様と付き合って間もない頃に、お婆様から同じようなことを訊かれたことはあるの?」

「仲良くやってる? くらいには訊かれたかな」

「それが普通だと思うよ。宏斗さんも、色々と訊かれたり、甘えられたりしてもお母様に言わないように気を付けてね」

「分かりました」


 地球の女性が着るような服を着ているのもあると思うけれど、女王様って感じが全くしないな。お茶目なお姉さんという感じだ。

 ルーシーさんは今も上目遣いで俺のことを見つめて手を握っている。それがとても可愛らしいけれど、彼女の色仕掛けとかに嵌まらないように気を付けなければ。あと、しっぽで脇腹をさすられるとくすぐったい。


「みなさま、朝食の準備ができましたけど、どうしますか? 普段よりも早いですが」

「いただきます」

「私も!」

「お母さんもいただこうかしら」

「かしこまりました。では、ご用意しますのでエリカ様と宏斗様は仕度をしてください」


 その後、4人で朝ご飯を食べることに。ルーシーさんは和風の朝食を気に入るのか気になったけれど、満足そうに食べていた。特に味噌汁や納豆を気に入っている様子。

 エリカさんと俺が結婚することに決まったけれど、ルーシーさんはプライベートで地球に来ているので、地球支部設置に向けた活動はせず、今日はエリカさんやリサさんと一緒に出かけるらしい。少しでも地球のことを知ってもらって、いいなと思ってもらえればいいなと思う。

 朝食を食べ終わって、少し食休みをした後、俺は仕事に行くことに。


「宏斗様。いってらっしゃいませ。はい、私が作ったお弁当と冷たい麦茶です」

「今日もありがとうございます」

「宏斗さん。今日もお仕事頑張ってきてね」

「はい。今日も何事も無ければ、7時までには帰ってきますので」

「うん。……早く帰ってきてくれると嬉しいな。いってらっしゃい」


 そう言うと、昨日決めた約束通り、エリカさんは俺に口づけをしてきた。頬にキスというのもいいけれど、キスだと凄く元気が出てくる。今日の仕事を頑張れそうだし、早く帰りたくなる。


「ふふっ、微笑ましい光景ね。お母さんまで気持ちが若返るわ」

「私はドキドキしてしまいます。でも、頬にキスし合ったときのように、すぐに見慣れる光景になるのでしょう」

「そうなるのが理想ね、リサ。風見さん、お仕事頑張ってください」

「いってらっしゃいませ、宏斗様」

「いってらっしゃい、宏斗さん!」

「いってきます」


 エリカさんと結婚を前提に付き合うことになったけれど、今日もいつも通りの時間が流れていく。それがとても愛おしく思えるのであった。



 それから程なくして、エリカさんと俺の結婚に向けて、風見家とダイマ家による結納が日本で行なわれた。そのときにエリカさんのお父様やご姉弟と初めて会ったけれど、みんな俺や家族について好印象のようで。終始穏やかに進んでいった。

 エリカさんと俺が結婚すること。結婚したら、エリカさんが風見エリカと名乗ることを両家から認めてもらった。



 また、エリカさんやルーシーさんなどの王族を中心としたダイマ星人達によって、ダイマ王星地球支部計画が具体的に動き始めた。

 俺が日本に住んでいることもあって日本政府と、国連などに赴くことに。当然、これは世界的な大ニュースとなった。また、エリカさんが20年前の7月に地球に来たので、大昔の予言者による予想が当たっていたのかと報じるところも。

 ただ、ルーシーさんやエリカさんによる演説が功を奏したのか、大きな暴動が起こることはなく、お互いの惑星に支部を置くこと、需要に合わせて物資や人員の供給、技術の提供を行なうことなどを条件に無事に締結された。また、ダイマ王星の地球支部は日本に設置されることに。

 このことで、ダイマ星人が正式に地球に住むことができることになった。その第1号としてエリカさんとリサさんが地球の一員に。

 また、地球人とダイマ星人による最初のカップルとして、エリカさんと俺が結婚することになったのであった。




「いよいよ、この日がやってきましたね。エリカさん」

「うん! 無事に今日という日を迎えることができて嬉しいよ」


 エリカさんに告白してから数ヶ月後。

 今日はエリカさんと俺の結婚式が、東京都心にあるホテルで行なわれる。

 リサさん、愛実ちゃん、美夢、有希、ルーシーさんや両家の親族はもちろんのこと、俺の会社の関係者や学生時代の友人、エリカさんのご友人など多くの方がゲストとして来ている。

 また、エリカさんが王女であることや、地球人とダイマ星人の初めてのカップルの結婚式であることから、結婚式の様子が全世界はもちろんのこと、ダイマ王星にも生中継で放送されるとのこと。


「エリカ様も宏斗様も素敵ですね。特に純白のウェディングドレス姿のエリカ様はとても美しいです。改めてご結婚おめでとうございます」

「おめでとうございます、宏斗先輩、エリカちゃん。それにしても見惚れちゃうよね、リサちゃん! もちろん、スーツ姿の宏斗先輩もとてもかっこいいです!」

「お兄ちゃんかっこいいよね! エリカちゃんも綺麗だし。今日はこのデジカメでたくさん写真を撮って素敵なアルバムを作るから! 本当に結婚おめでとう!」

「それはいい考えだけれど、式の妨げにならないように気を付けてね。……兄さんもエリカさんも素敵です。おめでとうございます!」


 リサさん、愛実ちゃん、美夢、有希はうっとりとした様子で俺達のことを見ている。

 エリカさんの純白のウェディングドレス姿は本当によく似合っていて、こんなに素敵な人と結婚するのだと改めて思うよ。ちなみに、ウェディングドレスにはしっぽ用の穴が空いてあり、そこからしっぽを出している。


「風見家のお嫁さんになるから、日本のポピュラーな結婚式のやり方で行なうことにしたけれど、今の時点で正解だったと思うわ。本当に綺麗よ、エリカ」

「ありがとう、お母様」

「……もうこの言葉を言うのが何度目か分かりませんが、風見さん。娘のことをよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

「……ありがとう。2人とも結婚おめでとう。じゃあ、私達は会場で待っているから」

「うん!」


 すると、ルーシーさん達は控え室を後にした。

 エリカさんと2人きりになり、目を合わせると彼女はにっこりと笑った。


「地球に来てからずっと宏斗さんと一緒にいて、結婚届も出したからかここにいるのがちょっと不思議な感じだよ」

「何だか分かる気がします。ただ、大切な式ですし、お祝いでもあります。一緒に楽しみましょう、エリカさん」

「うん!」


 笑みを絶やさないエリカさんと唇を重ねる。

 ――コンコン。

 彼女と唇が触れている間にノックされたので、慌てて唇を離す。そのときのエリカさんはさすがにはにかんでいた。


「風見宏斗様、風見エリカ様。そろそろ式が始まります。会場の入り口前までご案内いたします」

「はい!」

「よろしくお願いします」


 エリカさんと俺は女性のスタッフさんによって、結婚式会場の入り口前まで移動する。さすがに緊張してきたな。


「ねえ、宏斗さん」

「はい」

「……これからもよろしくね。色々あるだろうけど、まったりと暮らして、一緒に幸せになっていこうね。いずれは家族が増えるかもしれないけれど」

「そうですね。一緒に幸せになりましょう。あと、まったりっていい言葉ですね。のんびりしているだけじゃなくて、温かさもあって」

「でしょう? 宏斗さんと出会ってから基本的にまったりと生活できたと思っているから、それをこれからも続けていけたらいいなって」

「それが一番ですね。色々とありましたけど、いい思い出になっています。……あと、好きですよ、エリカさん」

「……何度言われたか分からないけれど、キュンとくる。私も好きだよ、宏斗さん」


 エリカさんは俺の左腕を優しく組んで、とても可愛らしい笑みを浮かべた。きっと、俺もエリカさんに笑顔を向けていることだろう。まったりとした愛おしい時間を彼女といつまでと過ごせるように頑張っていかないと。


『新郎新婦入場』


 音楽が鳴り出し、結婚式会場への扉がゆっくりと開かれる。それは新たな世界への入り口のようでもあった。会場内からは多くの方々が俺達に向けて拍手が贈ってくれる。


「行きましょうか、エリカさん」

「うん。行こう、宏斗さん」


 エリカさんと俺は歩幅を合わせて、ゆっくりと歩き始めるのであった。




『異星人王女とのまったりラブライフ』 おわり

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異星人王女とのまったりラブライフ 桜庭かなめ @SakurabaKaname

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