第52話『真夏の熱い夜』
「愛実様。本日は突然のことですみませんでした」
「気にしないでいいよ。それに、宏斗先輩とエリカちゃんが結ばれて、キスする瞬間を見ることができてキュンキュンしたもん! 歴史的瞬間に立ち会えた感じがして良かったよ。先輩、無事に言えて良かったですね」
「うん、ありがとね、愛実ちゃん」
「いえいえ。では、早いですが宏斗先輩とエリカちゃん、末永くお幸せに! 宏斗先輩、また明日です」
愛実ちゃんはそんなメッセージを送ると、リサさんのテレポート魔法によって自宅へと帰っていった。
あと、エリカさんとルーシーさんがコソコソと何か話しているみたいだ。エリカさんの顔が真っ赤になっているけれど、いったいどんな話しているんだか。
「ただいま帰りました。愛実様をご自宅まで送ってきました」
「お疲れ様です、リサさん」
「お疲れ様、リサ」
愛実ちゃんを自宅まで送り届けるだけだったので、リサさんはすぐに帰ってきた。
「宏斗様。今日はお先にお風呂に入ってください」
「リサさんがそう言うのであれば、お言葉に甘えて。エリカさんは……お風呂に入ったのでリビングか俺の寝室でゆっくりされますか?」
「……一緒に入ろうかな。ただ、ちょっとやりたいことがあるから、宏斗さん先に入ってて」
「分かりました」
俺は先に1人でお風呂に入ることに。
30分くらい前までエリカさんとルーシーさんが入っていたからか、ボディーソープの甘い香りが浴室の中に残っている。それだけでドキドキするな。
髪を洗い終わって、体を洗い始めたときだった。
「宏斗さん、お待たせ」
「いらっしゃい、エリカさん」
髪を纏めて、タオルを持ったエリカさんが浴室の中に入ってきた。
「体を洗うだけですから、エリカさんは湯船に浸かって待っていてください」
「……うん」
すると、エリカさんは俺の後ろを通って、静かに湯船に浸かった。頬をほんのりと赤くし、体を洗う俺のことをじっと見ている。
「何だか、いつもとは違いますね、エリカさん。いつもなら一緒にお風呂に入ると、とても嬉しそうで興奮した様子になりますから」
「もちろん興奮してるよ。ただ、何て言うのかな。今まで宏斗さんにアプローチしてきたけれど、いざ結婚することが決まると気恥ずかしさもあって。みんなの前で口づけをしたからかな。今は宏斗さんのことをこうして近くから見ているだけで幸せなの」
「……そうですか。今みたいなエリカさんも可愛いですよ」
「……ありがとう。凄く嬉しい」
すると、エリカさんはしっぽを激しく振った。そのせいで湯船のお湯が飛び散る。
「エリカさん。興奮する気持ちは分かりますが、湯船でしっぽを激しく振るのは止めましょう。お湯が飛び散ってしまうので」
「そうだね、ごめんなさい。気を付けます」
しっぽの振りは収まっていくけど、その代わりに俺のことを食い入るように見てくる。こうやって見つめられると、さすがに恥ずかしくなってくるな。
さっさと体を洗って、俺はエリカさんと向かい合う形で湯船に入る。そのことで湯船のお湯が溢れ出しそうだ。
「気持ちいいですね、エリカさん」
「そうね。こうして一緒に入るのは温泉以来だっけ」
「そうですね。あのときはさすがに驚きましたし、ドキドキもしました」
「ふふっ。宏斗さん以外の人達には見られないように魔法はかけていたけど、宏斗さんに見られていると思うとドキドキしていたんだよ」
「そうだったんですか。そんな風には見えなかったので意外です」
「……そっか。……これからはさ、たまにでも一緒にお風呂に入りたいな。いずれは結婚するんだし」
「もちろんですよ」
「……うん」
すると、エリカさんはいつも通りの嬉しそうな表情を浮かべて、俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。そのことで湯船のお湯が溢れ出す。
また、抱きしめる流れでエリカさんは俺にキスしてきた。さっきとは違い、唇を重ねるだけでなく舌をゆっくりと絡ませてきて。身も心も気持ち良くなる。
やがて、エリカさんは俺から唇を離す。そのときの彼女の笑みはとても可愛らしく、艶やかなものだった。
「さっきは言えなかったけど、キスっていいね。ドキドキはするけど、気持ちが温かくなって。宏斗さんのことが好きだっていう気持ちが強く膨らんでいって。ねえ、これからは仕事の行き帰りはなるべくキスするってことにしない?」
「それはいい考えですね。分かりました」
これまで以上に仕事を頑張ることができそうだ。
そういえば、エリカさんと結婚した後、仕事はどうするかな。将来的にダイマ王星の地球支部ができることになるだろうし。地球の人間としてそちらに携わるか。それとも、今の仕事を続けていくのか。それはこれからの状況次第かな。
「さっきも入ったから、もう体がポカポカだ。私はそろそろ出ようかな」
「俺も出ます。寝室に行ったら髪を乾かしますね」
「うん、ありがとう」
その後、エリカさんと一緒にお風呂に出て、リビングにいるリサさんにお風呂が空いたことを伝える。リサさんはルーシーさんと一緒にコーヒーを飲みながら、テレビドラマを観ていた。
エリカさんと寝室に行こうとしたとき、ルーシーさんから、
「2人とも、とても楽しい夜にしてね」
ニヤニヤしながらそんなことを言われた。エリカさんからのプロポーズを受け入れて結婚することになったから言うのだと思っておこう。
寝室に行って、俺はドライヤーを使ってエリカさんの髪を乾かす。エリカさんの髪はとても長いのに、サラサラしていて綺麗だな。
その後、エリカさんに俺の髪を乾かしてもらう。どうして誰かにやってもらうと眠くなってしまうのか。
「はい。これで終わり」
「ありがとうございます」
すると、エリカさんは後ろから俺のことをぎゅっと抱きしめてくる。
「ねえ、宏斗さん。私、考えていたことがあるんだけれど」
「何でしょう」
「ダイマ王国の法律では結婚すると苗字をどちらかの姓になるんだけれど、地球はどうなの?」
「別姓の国もありますけど、日本は結婚したら同姓になりますね」
「そうなんだ。……じゃあ、宏斗さんと私が結婚したら、どうする? 私が嫁入りして風見エリカになる? それとも、宏斗さんが婿入りしてヒロト・ダイマになる?」
「そう、ですね……」
ダイマ王国でも結婚したら姓を重ねることになっているのか。そうなると、結婚したらどちらの姓を名乗るのかも大事だよな。
「俺はどちらでもいいですけど、ダイマ家は王族ですからね。ヒロト・ダイマと名乗るということは、王族の一員になることを意味していると思うのですが」
「そうだね。長女以外は基本的にどちらでもかまわないの。ただ、私個人としては風見エリカになりたいなって思っているんだけど」
「エリカさんがそういった希望があるなら、風見エリカの方向で進めましょうか。美夢や有希はもちろんのこと、両親もエリカさんのことを気に入っていますし、大丈夫でしょう」
「じゃあ、将来的には風見エリカとしてよろしくお願いします」
「ええ」
俺はゆっくりと立ち上がって、さっきとは逆にエリカさんのことを抱きしめ、彼女にキスする。みんなの前でキスするのは勇気が必要だったけど、エリカさんと2人きりだったらいつでもキスがしたくなる。
「……宏斗さん」
「何ですか?」
「……キスよりも先のことがしたいの。宏斗さんのことをもっと感じたい。もちろん、そういうことは今までしたことないけれど……」
「……そうですか。俺も全く経験がないです。ただ、エリカさんとキスすると、もっとエリカさんのことを求めたくなるんです。お互いに初めてですから、色々と試行錯誤しながら……しましょうか」
「……うん! 初めてだけれど、80歳近く年上の私がリードしてあげるね!」
「こ、心強いです」
エリカさんは綺麗で可愛らしいから忘れがちになるけれど、彼女って俺よりも80歳以上年上の女性なんだよな。そんなにも年上の女性と心身共に確かな関係を結ぶ地球人の男性はそうそういないだろう。
その後、ベッドの中でエリカさんと深く愛し合った。
エリカさんは何度も何度も好きだと言ってきて、数え切れないほどにキスをしてきた。顔も声も全てが可愛らしく思えた。
こういったことを初めてした相手がエリカさんで良かったと思う。エリカさんのことがもっと好きになった。
「……嬉しくて、幸せな気持ちでいっぱいだよ。あと、気持ち良かったな」
「俺もです」
「宏斗さんがプロポーズを受けてくれて、確かな関係を作ることができて。今日っていう日は生涯忘れられない日になると思う」
「ええ。忘れたくない一日になりました」
年を取っても、今日の話を聞いたら、何だか幸せな気持ちになれるくらいのボケ方でありたいな。そんなときも、エリカさんの姿は今とほとんど変わらないんだろうな。
「ねえ。宏斗さんって体力あるよね。私、どんどん宏斗さんへの欲が膨れ上がって、凄く求めることもあったのに、宏斗さんは受け止めてくれたんだもん」
「そんなに体力がある方ではないと思いますけど、エリカさんと一緒にしていることですから。正直、していく度に元気になっていきました」
「そうだったんだ。ところで、110年ものの体はどう?」
「……素敵ですよ。色気が凄くて」
「ふふっ、素直でよろしい。110年、誰にも捧げなくて良かった。私は性欲強いって思っているけれど、宏斗さんも強いよね。胸とか太ももとかしっぽとかたくさん触ってきて」
「……仮に強かったとしても、エリカさんにだけですよ」
「嬉しいこと言ってくれるね」
エリカさんは俺の頬にキスをしてくる。
それにしても、プロポーズを受け入れた後にこういったことをすると、エリカさんと結ばれたんだなって実感できる。
「エリカさん。これからも一緒に幸せになっていきましょう」
「もちろん! 一緒に幸せになろうね、宏斗さん!」
約束の意味を込めてエリカさんと長いキスを交わす。
とても温かく感じたエリカさんと関係を結んだ初めての夜は、寄り添い合いながら静かに終わるのであった。
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