見知らぬ路地に雰囲気のあるバーと不思議な空気感が漂うマスター、そんな描写に最初から魅了されてしまいます。主人公の事情が徐々に明らかになっていく場面には、サスペンスのような緊張感がありました。ラストは、長く尾を引くような切なさに見舞われました。
作者様の別の作品『都市奇談』に登場する珠城さんと出会った一人の人物のお話です。丁寧な言葉で紡がれたとある夫婦の物語に、どうしようもなく切なくなってしまいましたが、決して単なる絶望では終わらない魅力のあるお話でした。私もふと、月を見上げてみたくなりました。