第14話老婆の悩み、ティグル・ビアンカ

大都会の中には人に知られていない空白地帯が存在する。

ビルに四方を囲まれた空き地、都市の設計上どうしても空白の場所が生まれてしまう、ここもその地図には無い空白地帯の1つだった。

ここは猫が集まる集会所にもなっていた。

世間の大人が知らない、もえと子供達の秘密の場所。

ただし、毎日猫に餌をあげている老婆だけは知っていた。


老婆は最近悩んでいた。

近所の子供のもえちゃんが連れてきた白い猫が日に日に大きく育ってきたからだ。そりゃ子猫にしては前脚が大きいなと思っていたし、猫とも違うような「グルル〜」と低く唸る鳴き声をする気がするけど、杞憂(きゆう)=思い過ごしだと思っていた。

老婆がしゃがんで餌をあげながら不安そうにしていると「みゃーん」と心配そうに寄って来て老婆の顔をペロリと舐めた。


「そうよね、こんなに可愛いのに。もえちゃんは猫だって言っていたし、変わった種類なのね、きっと……」

「ミビャー!」白い猫はややダミ声で鳴いた。


もえが救出した白い猫は柴犬ぐらいの大きさになっていた。

他の猫と一緒にここで飼われている。

飼われていると言っても近所の野良猫に餌をあげていたら、もえちゃんがやってきて勝手に飼いだしたのだった。まだ子供のもえには世話ができないので、老婆が代わりに餌をあげていたのだった。


既に周りの猫よりも一回り大きく育っていた。


老婆はふと思い出した、家に昔の動物図鑑がある事を。

コトン。パタパタ……ガチャ。パタパタ

老婆は餌のお皿を地面に置くと、家の中に入り、古い本が並んでいる本棚に駆け寄って手当たり次第に本を漁った。それらしい本を見付けてはテーブルに置いた。

ドサッドサッ

本の埃(ほこり)をふっ!と息を吹き掛けて取り除いた。

老眼鏡を掛けて、小さな灯りのスタンドを手元に引き寄せる。

ペラ、ペラ、、

3冊目の本で目当ての本に行き当たった。

開け放たれた窓から、部屋を通り、閉め忘れた勝手口のドアを抜け、秘密の場所まで小さな風がサ〜と吹き抜けた。

昔の動物図鑑だ。外国や大昔に生息した動物のイラストが載っていた。

ペラ、ペラ

本を捲(めく)ると、もえが連れて来た白い猫とそっくりな動物が載っていた。


「あ、これね。何々、ホワイトタイ……」

「もし、お嬢さん」不意に窓の外から声がした。

「ひゃっ!」老婆は驚いて窓の外を見ると、銀髪のダンディーなおじ様が立っていた。短く清潔感がある髪型、澄んだ瞳、高い鼻、ロの字の口髭も短めで、整った顔立ちに合っていた。

「この子を探しているんだが」ダンディーな老紳士は魔法のペンで空中に子供の画像を浮かび上がらせ、ペンを軽く振ると老婆の目の前に、満面の笑顔の幼児の画像が飛んで来て留まった。


老婆はその子に覚えがあった。近所のもえちゃんだ。

しかし、老婆は警戒して、上目遣いで観察している。

(果たしてこの人にもえちゃんの事を教えていいものかしら……?)


その時、通行人のカップルの女性が老紳士の正体に気が付いた。

「あ、ロベルト様だ!」

「ホントだ」

ざわっ!通りを歩く人達の注目が集まった。

(有名な方なのかしら?)老婆は世情に疎かった。

「ロベルト様!」

「ろべるとさま〜」

ロベルトは、あっと言う間に数人の老若男女に囲まれてしまった。


ジャッ!ジャッ!ジャッ!、、ハッ、ハッ、ハッ、

空き地から家の中へ白い動物が駆けて来た。

もえの白い猫だ。大型の猫は老婆が座っているテーブルの上の紙を撒き散らしながら、窓の外のロベルトの胸に向かって体当たりをかました。バササササ、どん!

何かを感じ取ったみたいで嬉しそうに興奮して、全速力で掛けて来たのだった。

「オォ?」ロベルトは一瞬猫に押されて倒れそうになったがグッと堪えた。

白い猫はロベルトの腕の中でフンフンと臭いを嗅いでは「ミュウ?」と首を傾げている。

誰かと勘違いしたのだろうか。

「わー!その子、ワンちゃん?」5歳ぐらいの女の子

「猫ちゃんじゃね?」6歳ぐらいの男の子

ロベルトは白い猫をマジマジと見て頭の中で記憶の辞書を開いた。

「この子はティグル・ ビアンカの赤ちゃん、見る者に幸運を与える希少な動物だよ」

「そんなに大きいのに、赤ちゃんなの??」女の子

「そうだよー。大人になったら熊ぐらいの大きさに成るんだよ」ロベルト

老婆はサッと青くなった。

「くまー?」女の子

「(伝わらなかったか)お馬さんぐらいの大きさかなー」ロベルト

「あ、あの……」老婆

「この子はウチで預かろう。希少動物保護センターで保護します」ロベルト

「は、はい!」


「さわってもい〜い?」

「危ないよ!にいなちゃん」いつの間にか距離を取って離れていた男の子が少し離れた所から、にいなちゃんに言った。男の子の方は臆病(おくびょう)だった。

「いいとも。爪を出すなよ」白い猫改め、ティグル・ビアンカに爪を出すなと言い聞かせた。

ロベルトは女の子を観察した。(子供の中でも小柄で体重が軽そうだ。痩せている。でも怖いもの知らずっぽいな。そこはもえちゃんに通じるものがあるな……)

ティグル・ビアンカも何かを感じ取ったみたいで、にいなちゃんに顔を近付けてフンフンとやったかと思うと満足そうな表情をした。

にいなちゃんはティグル・ビアンカの湿った鼻を触った。(度胸あるな)

「ひかる君も触ったらー?」

「ぼ、僕はちょっと……」ひかる

「おとなしいから大丈夫だよ」ロベルト

「そ、そう?」ひかるは恐る恐る近付いたが、躊躇(ためら)って離れたり、また近付いたりしていたが、やがてチョンとティグル・ビアンカの前足に人差し指で触ったら満足した。

「また会えるー?」にいなちゃんが何回かティグル・ビアンカの鼻を触った後にロベルトに聞いた。

「あぁ、希少動物保護施設で育てるから、いつでも会えるよ」

「やった!にーな、嬉しぃ!」

ガヤガヤ、、周りの大人達も珍しい物に好奇心旺盛でティグル・ビアンカに触ったりしていた。

「それではこれで」ロベルトはティグル・ビアンカを抱(だ)き抱(かか)えながら老婆に向かってお辞儀をした。

「はい、よろしくお願いします」老婆もペコリと頭を下げた。


ロベルトが去って行った。

老婆は動物図鑑に軽く目を通すと満足して本を閉じて、そっと本棚に仕舞った。

老婆はホッと胸を撫で下ろした。



秘密に場所から元気よく『こんにちはー!』と子供の声が聞こえてきた。(もえちゃんね)

「はいはい♪」老婆は機嫌良く家から出たが、、次の瞬間「ひえっ!」と悲鳴をあげる事になる。

もえがまた新しい動物を連れてきたからだ。しかも今回は濃い緑色の空飛ぶトカゲだった。

「ゴァ♪」ドラゴンは小さな火を吹いた、ボッ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したら90歳のジジイって酷くね?〜異世界を夢見て〜 横浜暇人 @yokohamahimazin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ