第13話もえちゃんの猫ちゃん育成日記

わたしはもえ。

今日は、神子園のお部屋でひかりちゃんとおままごとをして遊んだの。

お道具箱からおもちゃのキッチンとか色がついたブロックを運んで、お部屋の中央で遊び始めたら

ひかる君がお父さん役で入りたがったけど『だめ〜』と断った。女の子だけの遊びだもん。


ひかる君は渋々しぶしぶしてたけど、お髭も生えてないしお父さんらしくないから、お父さん役は出来ないよね。断ったら他の女の子の所に行っちゃった。


もえがお父さんをやる事にした。

ひかりちゃんは可愛いからお母さんより娘ちゃん役だね。


ひかりちゃんが仰向けに転がってバブバブした。

「バブ〜バブー」ひかり

『よしよし、お腹が空いたのー?』もえ

お腹をポンポンしながらあやした。

「バブ〜バブー」ひかり

『ちょっとまっててね〜、お母さん探してくるから』もえ


お部屋を見渡すとエミリ先生が座って他の子を抱っこして遊んでいる。

でもエミリ先生はおっぱい小さいからだめだね。


お部屋の重たいガラス扉を横に開くと廊下に出た。

廊下にイクエ先生がお荷物をいっぱい持って歩いている。


『イクエちゃんあそぼ〜』

「ゴメンねー、今忙しいの」

『イクエちゃんあそぼ〜』

「ゴメンねー。本当に忙しいの」

『あそぼっ、あそぼっ』

「色々お仕事やらないといけないの」

『じゃあ、かわりにもえがイクエちゃんのお仕事をやるー』

「えっ?」


もえが両手を伸ばすと何処からともなく風が吹き込んできて、イクエ先生が持っていた筒状に丸めた大きい紙を攫さらい、拡げて壁に押し付けた。紙には薄く下書きがしてあった。


もえが先生の持っていた太めのペンを『えいっ』

と叩くと「ポン!」と音がしてペンとキャップが廊下に落下し始めた。

スローモーションになってペン先からインクの紙に向かっていき、文字を浮かび上がらせた。

「ココン」廊下に落ちて跳ね返ったペンとキャップは空中で再びくっついた。

「カン」二度目の接地ではペンは垂直に立って静止した。こんな偶然何十分の1の確率だろう?


それを拾ってもえちゃんが言った『はい、おしまい』ペンをイクエ先生に手渡した。

大きい文字で「ゴブリンにならないためのちゅういじこう。良い子にしよう」と書かれていた。


「いつも思うんだけど、なんで、もえちゃんが先生達のお仕事を出来るの??」

『ん〜。ちっちい子達が手伝ってくれるの』

「ちっちゃいって[7人の小人さん]みたいな妖精さん?」

『ちがうよ〜。もっともっともーーーーーと小さいの』

「それじゃあ先生には見えないな〜」

『もえにも見えないよ。でも、たしかにいるの。そう信じてるとがんばって働いてくれるの』

「じゃあ先生も信じたらいい事があるのかな?」

『うん!ロベルトはそれを[ほるとうーな]って呼んでいたよ』

「ロベルト?その人はイケメンなの?」

イクエ先生の目が怪しく光った。

『イケメンってな〜に?』

「イケてるメンズ、いい男って意味よ」

『いい男ー?うん!ロベルトはイケメだよ〜』

「イケメンね。今度しょーかいしてね〜」

『……(しょーかいって何だろ?)』

もえちゃんは目をパチクリして頭を横にチョンと傾けた。

イクエ先生は恥ずかしい事を言ってしまった後悔から頬を赤くした。もえちゃんの頭を撫でた。


イクエ先生の手を引いてお部屋に戻るとひかりちゃんが(仰向けで寝た)そのままの姿勢で固まっていた。


『お母さん連れてきたよー』

「バブーバブー!」

「先生がお母さん役なのね」

『うん。はやくオッパイあげて。赤ちゃんがお腹すかせてるから』

ひかりちゃんは仰向けからうつ伏せにゴロンと寝返りを打つとハイハイしながら先生に突進した。バタバタ

「バブバブババブ!」


イクエ先生が屈もうとしたら、もえが先生の服を下から捲った。パッ

『あ、赤いメロンみたいなのがあるよー』

「きゃ!」

もえちゃんはひかりちゃんを抱えるとイクエ先生の胸に近付けた。

「ちょ、ちょっと、先生はまだ赤ちゃん産んでないからお乳出ないわよ」

「そうなのー?」と赤ちゃん役のひかりちゃんが言った。

『じゃあ、赤ちゃんのゴハンどーするの?』

「それはね、お店で買ったり、近所の人のお乳を貰いに行くのよ」


『お乳〜、お乳はいらんかね〜?』

遠目で見ていたひかる君が突然、混ざろうとしてきた。

駅弁売りの肩から掛ける番重ばんじゅうを持って近付いて来た。


その瞬間、もえちゃんの周りの空気が揺れた。


ボン!!


大きい音がしてひかる君が吹っ飛ばされた。

壁に叩き付けられるかと思ったが見えない空気のクッションで受け止められて事無きを得た。


エミリ先生がビクッとして振り向いた。

「はぁ〜」深いため息を吐くと「またやってるの?ひかる君も懲こりないわね〜」とエミリ先生が言った。


もえちゃんにちょっかい出しては痛い目にあうのが此処では日常茶飯事らしい。


キャッ!キャッ!と、おままごとは続く。

もえちゃんが『あとはペットが欲しいね』と言い出した。

イクエ先生が「うちは狭いからダメよ」と言った。

『え〜、猫ちゃん飼いたいー』もえ

「バブー、飼いたいバブー」ひかり

「2人とも家でペット飼えないもんねー」イクエ先生

『ん〜ん、飼ってるよ?』もえ

「バブ?」ひかり

「えっ?お母さんはウチではペット飼うの禁止だって言っていたよ」イクエ先生

『そうなの?知らなかった』もえ

「知らなかったー。バブ」ひかり

「自分の家の事なのに知らないのね」イクエ先生

『ペットじゃなくてお友達なら良いよね。ひかりちゃん、園終わったら猫ちゃん探しに行こ?』もえ

「うん!行こ!猫ちゃんなでなでできるかなー?楽しみだね」ひかり


ガヤガヤ……午後になり、子供達はそれぞれの保護者と共に帰って行った。


もえは家を出ると噴水広場でひかりちゃんと合流した。

階段を登って建物のあいだの小道を進むと、おじさんとおばさんがたくさん居た。

少し身体がが緑色に、ゴブリンに成りかけている。


もえちゃんとひかりちゃんはその人達の間を何事なにごとも無く通過した。


更に道を歩くと、細目で吊り目の性悪そうな狐顏の一団に出くわした。

狐顏の一団は狐顔5人に、2匹のゴブリンを従えていた。


手で持てるサイズの小さな檻おりに白い猫が囚われている。

それを守るゴブリン2匹。

猫ちゃんが悲しそうな声で鳴くので出してあげたいと思った。


ゴブリン達の武器は鉄の斧、防具は鉄の鎧、鉄の兜。

肌の色は緑に黒の入れ墨が全身に入っていた。


ひかりちゃんと手を繋いで檻おりの前まで歩いて行った。

ひかりちゃんは怖がっていたけど勇気だしていっしょに行った。


左側に居たゴブリンが幼女2人に気が付いて右手を伸ばしてきた。

「グガガ、売リ物二近付クナ」

パシッ!ゴブリンの手が弾かれた。

ゴブリンが右側を向くと別のゴブリンが左手を出して来て当たったのだ。


「グガ?」

「グガ?」

「グガガ、ナゼ邪魔ヲスル?」

「ソッチガ邪魔ナンダ」

「ナニヲ!」

「ヤルカ?」


ゴブリン同士がケンカを始めたところで

「ナニをしている!」狐顔の人がちゅーいしてた。

もえはこのしゅるいの人は嫌い、何かいやな感じがするからね。


5人居る中の1人の狐顏が話し掛けてきた「何をしている?近付くな」狐顔

『猫ちゃん出して』もえ

「クカ?かかかか!わざわざ苦労して盗んできたのに、逃すものか」狐顔

『猫ちゃん可愛そう』

「可愛そう?動物がどうなろうといいじゃないか」

『猫ちゃん可愛そう』もえ

「クカカ、代わりに小娘、お前が檻に入るか?クカかか」狐顔


ピリッ。狐顔の1人が言ってはならない言葉を発した。


ワッ!!!いきなり、四方八方から鍋やら石やら瓶やら様々な物がゴブリン達を襲った!

ビュンビュンビュン!!!


「ギャ!」

「ウワッ!」

「ギャ!」

「ワッ!」

「クカ!?」

子供達を心配して様子を見ていた街の人達が窓から物を投げて参戦したのだった。

5人中の2人が再起不能になった。


「何言ってやがる!」

「人身売買をこの国に持ち込むな!」

「酷いわよ!」

「最低ー!」

「不逞な輩だ!」

「やっちまえ!」

『可愛いは正義!』




「何している!コイツ等を黙らせろ!」狐顔がゴブリンに命令した。

「グガ!」「が!」

「きゃー!!」「うわ!」バタン!バタン!バタバタ!街の人達は窓を閉めて引き篭もってしまった。


味方が居なくなった。しかし、もえは怯ひるまなかった。

おもむろに、もえが天に片手を翳かざすとゴブリンの頭上で光の粒が集まって筋になり、天とゴブリンの頭を繋いだ。

その瞬間、バリバリバリバリ!ドーーーーン!!!けたたましい音と共に雷がゴブリンを黒コゲにした。

「グギョ!」

雷はそのまま消えず龍と成ってもう一匹のゴブリンの身体を貫いた。バリバリ!バババ!

「グガーー」バタン!倒れた拍子にゴブリンが持っていた斧が檻の南京錠の鍵にぶつかり、これを壊した。


カチャン


龍が踊り狂っている。

パリパリパリ!ババババ!


龍はそのまま天高く消えて行った。

空間には龍が出入りした部分だけ雲が消えて青空が見えていた。


もえは今度は水平に手を出すと残党の狐顔の1人の身体から湯気が立ち始め、隣りの狐顔の身体はパリパリと凍っていく。

熱を移動させた様だ。

「うわーーーー!」燃える狐顔

「ナンだ、、、?」凍り付く狐顔

「うわー!」それを見た最後の1人の狐顏は逃げ出した。


狐顔が角を曲がると、ドン!と誰かにぶつかった。

顔をあげるとでかい鉈なたの刀を背負った銀髪の老騎士が居た。

「ふむ」

「グガ?」

バシッ!最後の狐顔を老騎士が頭上からのチョップで仕留めた。


『ロベルトー!』バヒョン!ひかる君を吹っ飛ばしている要領で自分の身体を跳ばし10m以上先のロベルトに抱き付いた。

その声を聞いた街の人達が再び窓を開けた。バタン!バタン!

「ロビー!」

「ロビー!」

「英雄ロビー!」

わー!わー!街の人から熱烈な人気がある。


雷の龍が開けた雲の隙間は青色から紫色に変化した。

その隙間から強い光が降り注ぎ一刻ひととき、薄明光線を生み出して消えた。

「あんまり無理しちゃいけないよ」ロベルト

『うん!ごめんなさい』もえ


ロベルトは倒れているゴブリンや狐顔を捕縛しながら、警備隊に連絡しているみたいだった。


ひかりちゃんと檻おりに駆け戻ると檻おりを開けて白い猫ちゃんを助け出した。

「ガル〜」

『猫ちゃんはニャーでしょ』もえ

「そうね、猫ちゃんはニャーかミャーね」ひかり

『ガウ?』


ロベルトと警備隊が悪者を補導している間に、子供達と檻おりの中の猫は居なくなっていた。

もえとひかるが猫を持って帰ってしまっていた。


〜もえちゃんのペット育成日記第1話猫ちゃん〜

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