第12話温泉編完結

温泉旅行の護衛3日目、最終日。


クワァ〜〜、クワァ〜〜。遠くで何かの鳥の声がして目が覚めた。

何とも清々しいあさだ。今日も晴天で晴れ晴れした紫色の空だ。

青い空の方が良いとは思うが紫色の空も中々綺麗なものだ。白い雲が幾つか浮かんでいる。


朝風呂で温泉に入り、朝食を取って荷物をまとめた。

今日は我らがローマっぽい街に帰る日だ。2日しか開けてないのに何か郷愁きょうしゅうを感じるな。


玄関では馬車が待機していた。宿泊施設の従業員がお見送りの為に勢揃いして並んでいる。

宿泊客がゾロゾロ出て来て馬車に乗り込んで行く。

馬車の側でお客さんを迎えた馭者の顔色がやや悪い気がした。


もえちゃんが大きな葉っぱで編み込まれた篭を抱えていた。

篭の中でモゾモゾと何か動いたので察した。



『おはよ、もえちゃん。飼うの許してもらえたんだね』


眠そうな顔しながら『うん!夜中、寝てたらね、お母さんが来たの。それで『飼っていい〜?』って聞いたの。そしたらこのカゴをくれたんだぁ〜・・』と眠気と喜びが混ざった顔で答えた。

『そう、それは良かったね。大事に育ててね』

『うん!』笑顔が眩しい。


もえちゃんの直ぐ後ろを歩いているひかる君は元気そうだ。

もえちゃんは連携された二両目の馬車の後方に乗り込むと毛布を頭から被って寝てしまった。

ひかる君も一緒の毛布に潜り込んだ。何かやけに嬉しそうだ。


ひかりちゃんが父親と手を繋いで出てきて馬車に乗り込んだ。

ひかりちゃんも元気そうだ。



ふと見ると岩の陰から人が出て来た。60歳近い男性だ。

余り50歳以上の人を見掛けないから珍しいな。

やや太り気味の身体で、警察官が被っている頭頂部が平らの帽子を被っている。

黒い軍服風のコート、袖には赤い線が3つ入っている。シャツに赤いネクタイ。

何処かの軍服だろうか??


指で前、左、右と指差したと思ったら岩陰に隠れてしまった。

バサッ。もえちゃんが毛布から顔を出した。寝れないのかな?


今度は岩陰からモップと四角いバケツを持ったすらっとしたスタイルの白人の金髪女性が出て来た。

煙草を取り出して火を点けた。その仕草が様になっていた。煙草を咥えたまま岩陰で掃除を始めた。

煙草の煙は苦手だが思わず見惚れてしまった。岩陰に何か施設がありそうで興味を擽られたが、そろそろ出発の時間だ。


馬車に目を戻すと、もえちゃんはまた布団を頭から被って寝たみたいだ。

馭者が出発の挨拶をした。

「皆さんおはようございます。それでは出発します。護衛の皆さん帰りもよろしくお願いします」


いつの間にか他の護衛の3人も来ていた。

軽く打ち合わせをして今回は馬車の守りの後衛の左に付いた。


行き同様、馬車の前後に2人ずつ護衛に付いた。

馬車の右前が2の弓使いパオロ

馬車の左前が4のサラー

後続馬車の右後ろが3のバレージ

後続馬車の左後ろが1の俺。


ガラガラガラ……


遠去かる宿泊施設を見ると建物の屋根には大きな竜の銅像が乗っかっていた。

来る時には気が付かなかったが、こんなデザインだったのかと感心した。

行きと帰りでは精神の保ちようが違うな。心に余裕がある。


ガラガラガラ……


馭者は空を時々見上げながら不安そうだ。

紫色の快晴だが天気が崩れるのだろうか?


ガラガラガラ……


前回、大蛇に襲われた地帯に入った。


ガサガサ……

左前方の藪からまたも蛇が出て来た。

「また出たぞ」と弓使いパオロが注意を呼び掛けた。

「ひっ!!」馭者

同時に魔女のサラーが無言で馬車の上に逃げ込んだ。


蛇は馭者に向かって一直線。

「ひいぃ!」


怖がり過ぎだなと思いながら、素早く前方に移動して蛇に動線に入ると鯉口を切った。

刀身がプリズムの媒体となり陽の光を反射して虹が地面に影を落とした。


蛇は身体を高速でくねらせ速度を維持しながら遮二無二に突っ込んで来る。

スラッ、抜刀。


スパッ!!

右の足元を駆け抜けようとする蛇を叩いて止めるつもりだったが一刀の下、真っ二つに千切れて倒した。


同時に馬車の後方ではガシャンー!と背後から襲って来た蛇をバレージが仕留めた音がした。

パオロは空中を警戒したがワイバーンは現れなかったので弓を仕舞った。


出発前に決めた作戦通りだった。


ワッ!歓声が上がった。

「一刀で仕留めるとは大したものじゃないか!」

「すごいすごい〜」

「わ〜」

「わ〜」


あっと言う間に皆に囲まれてしまった。

懐から光悦から貰った懐紙で刀を拭うとゆっくり納刀した。

プリズムの虹色の影がゆっくり消えていった。


ふと見ると馭者が座っている長椅子の下にライフル銃の様な物が見えた。

この世界にも銃があるのかと思ったが大蛇が出た時に使っていないので何か別の物か??

それとも、我々の日本からの漂流物なのだろうか??


その後は何事も無く進んだ。


ガラガラガラ……


林に囲まれた2つの建物の間に出発した路が見えてきた。


馬車の中では親達が子供達を起こそうとしている。

父親の腕に寄り掛かかって寝ていたひかりちゃんが起きた。

「もえ、起きなさい。もう着くよ」

バッ、もえちゃんの父親が毛包を捲るとそこにもえちゃんは居なかった。


!?


馬車の中はパニックになった。

事態に気が付いたひかる君の父親も馬車の中の荷物を退かしたり探し始めるも見付からない。


親達が不安そうな顔になって馭者に伝えた。

緊急事態につき馬車は停車した。

何処かに落としたのだろうか?2人共居ない。

他の客が居るので余り車内を探し回れない。


「ウチの子が居ないんです」

「うちのひかるもです」

「え、、!?」


馬車の中は荷物が散乱している。子供達が隠れる事は出来そうだ。

馭者は固まってしまった。

「取り敢えず街に入りましょう。その後で馬車の中に居なければ捜索隊を出しましょう」

バレージが助け舟を出した。


ガラガラガラ……


来た路と同じ細長い路を登り街に入った。

噴水広場で他のお客さんを降ろして捜索する事になった。


ガヤガヤ…次々にお客さんが降りて行き其々の家に帰って行った。


バレージと馭者と父親2人が深刻そうな顔で相談をしている。


「馬車の中には居ませんでした」馭者

「それでは子供達は何処に、、?」もえちゃんの父親

「……」ひかる君の父親

「捜索隊を出しましょう!」興奮気味にバレージが発言した。

『そーさくたいってな〜に?』足元から声がした。

「捜索隊ってのはね、人が居なくなった時に探す人達の事さ」跪いて子供に説明した。

『ふ〜ん、だれが居なくなったの?』

「もえちゃんとひかる君、。。」


……沈黙が流れる


もえちゃんとひかる君だった。ふわっと場の緊張感が和らいだ。


「やだ〜居るじゃない」ひかる君の母親

「わぁー!すいません!すいません!勘違いでした」もえちゃんの父親が顔を真っ赤にしながら照れ笑いしながら謝った。

「あぁ良かった」大きな溜息を吐いた馭者が言った。

馭者は緊張の余り片手に握り締めていたマジックペンを懐に仕舞った。

そのまま解散した。


やれやれ人騒がせな子達だな。誰かの手荷物に紛れていたんだな。

手をひかれて帰って行く子供達のもう片方の手にはペロペロキャンディが握られていた。


ギルドに戻り報酬を受け取った。

報酬は15万L(リラ)だった。


街中を通って帰る途中、椅子やテーブル、飾りやゴミを街の人達が片付けていた。

どうやらお祭りがあったみたいだ。


片付け中の人に尋ねた。

『お祭りがあったんですか?』

「あ、もう終わってしまいましたよ」

『そうみたいですね』

「鶏の狩猟に成功した人が現れて鶏肉パーティでした。今回は市長が飲み放題を出してくれなかったんですよ」少し不満そうだ。

『そうだったんですね、邪魔しました』

「いえいえ」


久しぶりに立ち飲みバーに寄ってから帰る事にした。

バーの中は一団が大騒ぎしている。


お酒を注文して空いていた小さいテーブルで立ち飲みをしていると

中心で騒いでいる男と目が合った。

「プレイヤーか?」謎の男がボソッと言った。

『え!?』

「なんでも無い」そう言うと謎の男は一団の中に埋もれて行った。


疲れていたのでその言葉を追求する気になれず帰途に着いた。


〜12日目終了〜

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