第11話邂逅と山岳地帯の冒険〜温泉編〜
ドシューーーン!ドシューーーン!
外から何やら炸裂音がして目が覚めた。
ドシューーーン!ドシューーーン!
その音は30分程で止んだ。
真新しい布団の匂い。見知らぬ天井。
『う〜ん、気持ちよく寝てたのに何だよ〜』
独り言を言いながら身体を起こして背伸びをした。
ここは異世界の温泉宿泊所だ。
相部屋だった護衛の人達はまだ寝ている。
目覚めが悪かったので朝風呂に入る事にした。
念の為、模造刀を持って行く事にした。なるべく身から離さない方が良いだろう。
ロビーには朝早過ぎて従業員は誰も居なかった。
40代ぐらいの男が何だかオロオロして辺りを見回している。
『温泉ならコッチですよ』そう教えてあげた。
起きたばかりで頭が回っていない。浴場の場所が分からないのだと勝手に思った。
「え?はぃ、、」
〜温泉にて〜
軽く身体を洗って温泉に浸かっていると、先程声を掛けた男が温泉に入ってきた。
『ここの温泉は良い湯ですね』
普段、人見知りをする俺だが話し掛け易いタイプの人間がいるものだ、そんな人だった。
「えぇ本当に」
『ふ〜』
「実は私は此処が何処だか検討も付かないのです。気が付いたらさっきの所に居て、、、」
赤とオレンジが混ざった模様の空を眺めながら言った。不安そうな表情だ。
『え?』
「何を話しているか解らないですよね、すいません。この身体も私じゃ無いのです、、」
バシャ!振り向いた拍子に水飛沫が上がった。
『貴方も、なのですか!?実は俺もなんです。俺もこの世界に意識だけ飛ばされて来ているんです!』
「なんと!」
『これはどういった現象なんですかね?神隠しですか?神様の気紛れなんですかね?』
ふっ、表情が和らいだ様に見えた。
「神様の気紛れですか。圧倒的な強者が弱者に敗れ、弱者が勢力を拡大して、天下を一統(いっとう)する一歩手前で忠信に裏切られて命を落とす世の中ですからね。何があってもおかしくありません。神の気紛れにはいつも驚かされています」
『天下、、、?』(戦国時代か、、?)
「しかし、彼の御仁は忠臣の裏切り、それすらも愉しんでおられたとか、、」
『ハハッ、豪胆な人ですね。そういえば仏教徒が目指す解脱(げだつ)とは人の苦しみや悲しみも全て慶びに変えるものだそうですね』
「いや、彼の御仁は仏教徒では無いですね。僧兵を嫌っていましたし。聖域だろうがお構い無く焼いてしまいます」
『、、では裏切り者は仏教徒だったのですか?』
「逆です。聖域を焼いた実行役です。なので解せないのです。裏切る素振り等、皆無でした。完全に忠臣でした」
『俺も何度か裏切られた経験がありますが人は完全に解り合えないものなのかもしれませんね』
「私は逆だと踏んでいます。2人が仕組んだ狂言では無いかと密かに思っています。彼の御仁は宣教師が持ち込んだ地球儀なる物に執着しておられました。日の本の小さな争いから解き放たれて海の向こうに心を奪われたのでしょう。その欲求が日に日に高まっていた様に見受けられます」
『なるほど。どんな権力者でも人々の支配は楽では無いですからね。国内に留まり天下を納めるより、世界を見て回る方が面白そうだと思った可能性はありますね』
「そうです。それに徳川様も絡んでいそうです。今頃は黄金を積んだ大型船で南蛮行きの海上かもしれません。それにしても船を黒塗りにしたのは悪趣味でしたがね」
『それは千利休、、?』
「聞きたくない名前ですね!」
『それは済まん。そう言えば名乗って無かったですね。俺は__だ』カコーン!鹿威しが名乗りを邪魔した。
「?、私は光悦と申します」
『本阿弥光悦?研ぎ師の!?』
驚きと安堵の表情で涙目になりながら「私をご存知でしたか」と言った。
巻き込まれた不思議な現象に余程不安だった様だ。
『えぇ!実は、、、』
「あの刀ですね。失礼ながら脱衣所に置いてある刀を勝手に拝見させてもらいました。あの刀はまだ完成していませんね」
『刃が入っていないのです。それで研ぎ師を探していたのです。光悦さんお願い出来ませんか?』
「いえ、私は只のしがない商人ですよ。研ぐのは本職ではないんですよ。他の方に、、」
『いいえ!貴方以上の適任はいません。私達が出会ったのも運命です。刃が無い未完成の刀と日本一の研ぎ師、この組み合わせはまさに運命でしょう。光悦さん、特別な貴方にお願いしたい』
「女を口説いているみたいですね。お気持ちは嬉しいのですが、しかし此処には道具がありません」
『不可思議な現象に巻き込まれて無一文で憑依しているんでしたね』
「せめて研ぎ石が無いと無理ですね。なので残念ですが、、」
ザブン!
「研ぎ石なら山が近いからあると思うよ」バレージが温泉に入りながら話に加わった。
『え?』「えぇ?」
バシャ!期待に満ちた顔で見たからだろう本阿弥光悦は観念した。
「分かりました。石の種類を教えますので採取して来てください」
温泉からあがると、食堂に寄って腹拵えをした。
〜食堂にて〜
食堂はビュッフェ形式だった。
変わったパンやチーズに果物、生ハムや珈琲まである。
よく見るとおにぎりまであった。この世界にもお米があったか。
最近では欧米でおにぎりブームだそうだ。手軽に食べられて栄養価が高いからだとか。
光悦さんも喜ぶだろう。
美味い飯は気力が湧いてくるな。
部屋に戻り支度をして玄関に立った。
〜玄関にて〜
『よし、行くか!』
『行くか』
『行くか』
独り言を言ったつもりだったが可愛らしい子供の2つの声が相槌を打った。
もえちゃんとひかる君だ。
『おいおい、、遊びに行く訳じゃないぞ?』
『私も行く!』もえ
『行く!』ひかる
『冒険する』もえ
『する』ひかる
キラキラした目でワクワクした顔で先に歩きだした。
『あ、オイ、、、』
まぁ良いか。特に危険は無さそうだしな。散歩と同じだ。
足早に子供達を追い掛けた。
山への小道を進むと途中から道が分かり辛くなった。
中央の林の中を登るか、緩やかな登りの右方向か、山裾の左方向に降るかだな。
ひかる君が進行方向の右方向に逸れて行ったので付いて行ったら、
もえちゃんが『そっちじゃないよ』と言った。
(間違え易い道には看板が必要だな)と思った。
一瞬背中がヒヤリとしたがほんの少しだったのであまり気にしなかった。
顔をあげるとひかる君が進んでいた方向に赤いペンキでバッテンが描かれた看板があった。
もえちゃんは中央の林を登って行く。
運カンストの女の子なので流れに任せてみる事にした。
もえちゃんに付いて行った。
林の中の道無き道を登り、やや左に逸れて行った。
ポッカリと大きなスプーンでくり抜いたかの様な窪みがあった。
変哲の無い窪みに見えたが子供達の冒険心を擽られた様だ。
『なんだアレ!?』ひかる
『蟻地獄だよ』もえ
子供達は駆け出して窪みに滑って行った。
いい子供の遊び場だ。
蟻地獄と言っても大きな昆虫が居そうな気配は無い。
中央部分もツルツルで本当に只の窪地だ。
自然に出来たのか人為的なのか、どちらにせよ危険は無さそうだ。暫し座って子供達がはしゃぐのを見届けた。登ろうとして滑り落ちたり、木の根に捕まって登ったり、降りたり、きゃあきゃあ叫んで窪地の中を走り回ったりしている。
子供達が満足して戻って来ると藪の中の小道を進んだ。
藪を抜けると岩石地帯だ。風景が一変した。ゴツゴツした岩がゴロゴロしている。
(定番モノだとここでゴーレムなんかが襲い掛かって来るんだけどな。
でも岩が動くのは不自然だよな。でも可動域をこうしたら、うん。いけるな)
空想を楽しんでいたらゾクッとした。何か解らないが倦怠感に似た寒気がして身体がやや重くなった。空気が重い。
ゴゴゴゴ、急に前方の岩が動き出した。ご、ゴーレムだ!
ゴーレムが姿を表した。思った通りのモンスターだ。
「グゴ〜〜〜オ!!!」
高さ4m程の巨体で両拳を挙げて威嚇してきた。
ゴーレムの右拳が自分から見て左上から右下に振り降ろされたので下がって躱した。
今度は左拳が右側にから左へ水平に振られたので再び下がって躱す。
右拳で地面を殴り左拳で地面を殴った。全然届いていないが何か規則性を感じる。
再び、ゴーレムの右拳が左上から振り降ろされた瞬間、子供達の存在を思い出した。
(しまった、少し先に行っていた子供達は何処だ!?)
後退しながら躱しつつ周りを見回して子供達を探した。
ゴーレムの身体の右脚に可愛らしい手が見えた。
『キャハハハ、キャッ、キャッ』
もえちゃんがゴーレムの右脚にしがみついて満面の笑顔だ。完全に遊具だと思っている。
(あの子は大丈夫だな、強運だし)
ゴーレムが地面を叩く隙に横を見たらひかる君が何故か目を輝かせてゴーレムを応援している。
『いけ!そこだ!』
男の子はロボットが好きだ。でもここでゴーレムの方を応援されるのはフクザツだ。
ゴーレムの定番と言えば額の文字だな。
Emethの最初のEを削ると倒せるんだったな。
抜刀したがあの岩の拳を刀で受ける訳にはいかない。折れるな、確実に。
刀を横目で見ながら困ってしまった。
三度同じパターンでゴーレムが攻撃を繰り出してきた。
『キャッ、キャッ』もえ
『いけ!いけ!』ひかる
(ひかるは後で説教だな)
右拳、ブン!
左拳、ブン!
後ろに躱しながら間合いを保つ。
戦いの基本は間合いだ。
後はタイミングを見計らって飛び込んで額の文字に打撃を加えるだけだ。
しかし、俺は大縄飛びが苦手だった。子供時代を思い出す。
躊躇した挙句、必ず縄に当たっていたのが脳裏を過ぎる。
飛び込めず躊躇していたら、もえちゃんがおんぶの状態まで登っていく。もう少しで字に手が届く。
大のおとなが子供に頼るのは情けないが仕方無い。
『もえちゃん!ゴーレムの額の字のEを消して!』
そう言って後悔した。子供にゴーレムの止め方を理解出来るのか?そもそもローマ字が読めるのか?
心配を余所にもえちゃんの右手がゴーレムの額の文字に触れた。
プシュー!ガラガラガラ!その瞬間にゴーレムが崩れ去った。
もえちゃんが投げ出される。マズイ!
『エアパレット!!』思わず叫んでいた。
身体から何か精気が吸い取られた感覚がした。
ブワッ。空気の塊がもえちゃんを優しく受け止めた。
(何だ、今のは!?魔法??)
『おしまいー?』もえ
『あー負けちゃったか〜、残念』ひかる
(ひかるめ!まぁ無事で良かった)
((ゴーレムには改良が必要だな))頭の中で誰かの声がした気がする。
『ふ〜、、』
深い安堵の溜め息を吐いた。
さて、魔物が守る先にはお宝があるのが定番だな。
動かなくなったゴーレムを乗り越えて向こう側を除き込んだ。
小さめの広場みたいな場所があるが何も無かった。
少々ガッカリしつつも本来の目的の砥石を探す事にした。
光悦から聞いた話では天然物の砥石は天然砥石と呼ばれているらしい。
岩がゴロゴロしている。
『もえちゃん、ひかる君、これぐらいの大きさの長方形の石を探してくれ。模様が付いているのが良いね』
両手で大きさを示しながら説明した。
(長方形が分かるのかな?)と思ったが2人共長方形を知っていたみたいだ。
『うん、わかった!』ひかる
『はーい!』もえ
周辺には使えない黒っぽい火山岩も多いが、様々な石があったので10分程で目当ての石を幾つか見付けて採取した。
少し離れた所から子供達の歓声があがった。
『あー!何か埋まってるよ』もえ
『ホントだ!掘り出してみよー!』ひかる
近寄ってみると砂の中から斑ら色の模様が入った球体を取り出していた。
(丸いと砥石に使い辛いんだけどな)と思いつつ側に寄った。
!?
『綺麗ー』もえ
『お〜』ひかる
『卵かな?』もえ
『卵かな?』ひかる
楕円形の球体だった。
『ダチョウの卵かな?それか大きい只の石か、、』
『ダチョ〜?』もえ
『ダチョーって何ー?』ひかる
『大きい鳥の事さ。生まれてみないとわからないけどね。こんな模様の卵は見た事無いな、、』
『へ〜』もえ
『へ〜』ひかる
『……』もえちゃんは卵らしき物体の模様に魅入っている。
『持って帰って良い?』ひかる
『う〜ん、、、どうしたもんか、、』優柔不断で良いともダメだとも言えなかった。決断力なさ過ぎだな。
『いい』もえちゃんが代わりに答えてしまった。
『やったー!』ひかる
『……』
周りに親も居なさそうだし黙認した。
決定事項になった。
(やっちまったかな?後で怒られないだろうか?)俺は小心者だった。
『卵持ってー』もえ
落としたら大変だから卵は俺が持つ事にして、天然砥石は子供達に持ってもらった。
ゴーレムを慎重に乗り越え、来た道を戻った。
『卵は暖めるんだよ』もえ
『温泉に入れてみよう』ひかる
〜宿泊所、温泉にて〜
バタバタバタ、ガララ
温泉に服を着たまま直行した。
卵を子供達に渡すと小さな2人の手で温泉に浸した。パシャ!
「おや?お帰りなさい」
温泉に浸かっていた本阿弥光悦が寛いで居た。
その横で卵がプカプカ浮いている。
『えぇ、砥石を見付けて来ましたよ』
持ち帰った天然砥石を幾つか見せた。
ピシッ!ピシピシッ!
温泉に浸している卵にヒビが入った。
普通、卵を温めて一晩とか掛かるものだと思うが、孵化寸前だったんだろう。
『おぉ!』
『わぁ!』もえ
『凄い!』ひかる
急いで温泉の淵に卵を置いた。
パリパリ!
割れ目から何かが顔を出した。
『トカゲ?』
パシーン!
卵の殻が四方八方に飛び散った。
『ドラゴンだ!』
『可愛い!』もえ
『格好いい!』ひかる
色は濃厚な緑、見た目はトカゲに近いが背中に小さな羽根が生えていて少し丸い
手足には鉤爪がついている。口には小さいながら牙もあった。
もえちゃんから見たら可愛くて、ひかる君から見たら格好良い生き物だな。
「ギュルー!」赤ちゃんドラゴン
『わぁー!』もえ
『わぁ!』ひかる
ふと横を見ると光悦はドラゴンの赤ちゃんには全く興味が無いのか、弾けた卵の殻を瞶めてキラキラ目を輝かせいる。
『うん、これなら伽石に最適だ。早速作業に掛かります』
職人心を刺激された様だ。
ザパァ、湯から上がると早速、光悦の部屋に移動する事になった。
温泉から去り際に子供達を見たら、ドラゴンの赤ちゃんは幼児2人にとって新しい玩具状態だ。
後で様子を見に戻らないとな。
〜光悦の部屋にて〜
タライに水を張り、光悦は浴衣をたすき掛けで縛っている。
シャ〜、シャー!
「一刻程時間をください」光悦
(一刻?確か2時間ぐらいだったな)
『分かりました。集中をお邪魔してもいけないので出来上がる頃に来ます』
〜子供達の部屋にて〜
チビドラゴンの様子を見に行く事にした。
2人は自分達の部屋に戻っていた。
『何食べるのかな〜?』もえ
『なんだろー?食堂で色々貰って来よ〜ょ』ひかる
『うん!おじちゃん、ドラちゃんみてて』もえ
(ドラちゃん?一瞬、20世紀の未来型ロボを思い浮かべたが振り払った)
ダッ!ダッ!2人はそう言うや否や駆け出した。
ドラゴンの赤ちゃんを抱っこして窓際に腰掛けた。
思ったよりおとなしい。大きい目が可愛い。
喉の下に小さく数字の[0(ゼロ)]の模様があった。
この数字に何か意味が在るのか、果たして無いのか判らなかった。
(もしやこれが逆鱗ってやつか?)
青い空と白い雲が窓から見える景色に、目を閉じるとバサッバサッ!と羽ばたく男が聴こえる。
成竜となったドラゴンに乗って大空を飛び回っている夢想をしていると
パタパタと子供達が戻って来た。
子供達は持ち手の付いた篭を2人で運んで来た。
篭いっぱいに様々な食材が入っている。
果物、パン、紙に包んでもらった何かのお肉、レタスや人参等の緑黄色野菜、
それらを1つずつ与えてみる試みだ。
子供達は小さめのテーブルの上に豪快に食材をばら撒いた。
もえちゃんが果物の林檎を小さい手で鷲掴みしてドラゴンの口元に運ぶも反応がイマイチだ。
ひと舐めしたがお気に召さなかった様だ。
ひかる君がパンを食べさせようと近付けるが横を向かれてしまった。
もえちゃんが黄色い人参を差し出すも、またもひと舐めして首を傾げた。
ひかる君がお肉を差し出すと今度は反応が良かった。
鼻を近付けてジッとお肉を瞶めてている。ペロッ、ペロッ。
しかし、ふた舐めして食べるのかと思ったが食べなかった。
レタスを取ろうと手を伸ばしたらバタバタと暴れだした。
ふと後ろを振り返ると木の枝が室内に入り込んでいて緑色の実が生っていた。
その実を取ろうと赤ちゃんドラゴンが暴れたみたいだ。
梅に似た大きさと形だ。幹は梅の幹ではなかったので正確には違うのだろう。
梅モドキの実を1つ捥いで渡すと小さい手と嘴で器用に齧っている。
『わぁ!』もえ
『食べた!』ひかる
赤ちゃんドラゴンをテーブルに置いた。
梅モドキを幾つか捥いでテーブルに置いた。
『飼っていい?』もえ
後ろを向いた状態で、振り返りながらキラキラした潤んだ目でおねだりしてきた。
可愛らしいポーズを熟知してるな。
『……親がいいと言ったらね』
『やった!!』もえ
『わーい!』ひかる
決定事項か?親の意見は聞かないんだな。家庭内の力関係が垣間見れた気分だ。
ビュウウー!!!窓から木枯らしが吹き込んだ。
日差しはポカポカしていたが風が吹くと少し寒いな。
部屋を後にして光悦の部屋に向かった。
廊下の先で御者が興奮して誰かと話しているのを見掛けた。
「何があったのか知りたい!これではまるで、、、」
後半は聞き取れなかった。
話相手は丁度、廊下の曲がり角で見えなかった。
深刻そうだが何だろう?俺には関係なさそうなのでスルーした。
〜光悦の部屋にて〜
仕事を終えた光悦が仕事道具を仕舞っていた。
どうやら研ぎ終わった様子だ。
「丁度仕上がったところで御座います」
『有難うございます。お礼は如何ほどで?』
「お金は要りません。元の世界に持って帰れるとも思いませんし、この経験が何よりの報酬です。素晴らしい刀でした。大切になさってください」
仕上がった刀を差し出した。
『有難うございます!』
両手で受け取ろうとしたが、光悦は手を止めた。
「利き腕はどちらですか?」
『右ですが、、?』
「それでは左手を出してください」
訳も解らず左手を出すと光悦が俺の左腕をまくった。
『痛っ』
左腕に鈍痛が走った。光悦が何を思ったのか抜刀し無造作に左腕をスッと切った。
『何をする、、』
「これが『力』を持つと言う事です。この刀は刃を手に入れました。扱いにはくれぐれも留意ください」
『……』
光悦は手慣れた様子で懐から懐紙を取り出すと刀の血を拭った。
丸い軟膏を取り出すと傷口に塗り包帯を巻いた。
ズキズキする腕と刀のプレッシャーで冷や汗を掻きながら
『解りました。心に刻みます』と言った。
厳かに両手で刀を受け取った。
重さは研いだ分だけ軽くなったハズなのにズシリと重くなっていた。
自分の部屋に戻るとまだ少し痛む腕が気になるが、疲れからか深い眠りについた。
今日は色々な事があった、、、、
〜11日目終了〜
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます