第4話    カイジュウ オンナノコ


 次の日、マリアはうとうとまどろみながら一日を過ごしていた。父親や母親の足音を聞いて、寝ている。いっしょにごはん食べに行く?という親の誘いを断わって寝る。そう晩御飯は自分で食べてねという親にはーいと返事してまた寝る。夕方までほとんど寝ていた。たまにおきてコンペーにソーセージをあげて、また寝ていると怪獣中継の時間になった。

 マリアはコンペーと一緒にテレビを見た。

「おーモスガーノじゃん、ほんとうに」

 モスガーノは大きな怪獣になってビルを破壊していた。人型に羽が生えて触覚がある姿。頭部のプラチナのような毛髪が動いてビルを壊している。黒曜石のような目からビームが出た。

 でも20分をすぎるとウルトラ的な防衛隊がきて負けて死んだ。

「あーあ、あんたのお父さん死んじゃったね」

「ギャギャガヤ」

 コンペーは騒いだ。ソーゼージがもうなくなっていた。腹が減ったのかコンペーは煩い。他の冷凍食品を食べさせてみようとしても、いやいやとひっくり返った。

「こいつだいぶ偏食じゃん、めんどくさ」

 マリアはコンペーをリュックに入れると、近くのスーパーまで出かけることにした。

 スーパーでソーセージを有り金全部で購入した。体の前にさげたリュックに入れてるコンペーにソーセージを食べさせながら帰っているとタケルに声をかけられた。

「具合悪いってきいたから見舞いにきたんだ」

 そういえばタケルからLINEがたくさんきてたなと思い出す。

 タケルはにへえと笑いスイーツが入ったコンビニの袋を渡してきて、リュックの中の生き物に気がついた。

「なにそれ、犬?」

「ガヤカヤヤ」

 コンペーがリュックから顔を出すとタケルは後ずさった。

「なにそれ、きもちわるいの」

「怪獣だよ。私が産んだの」

「……ありえねえ、おまえそんなキモイ奴だったのかよだましやがって」

 タケルはマリアからスイーツが入ったコンビニ袋を取り上げた。

「ギャガヤッカ!」

 コンペーが大声を上げると慌てて走っていった。

 マリアは帰って寝た。夜だから。


 次の日、起きると友達連中から親切なLINEがきていた。タケルがマリアが怪獣の子供を産んだっていう噂をみんなに垂れ流しているらしい。浮気がばれたからってひといよねってユイとかケイコとかショウコとかアイナとかから慰めと情報収集の言葉。

「ふーん」

 マリアはコンペーにソーセージを上げるのがいそがしくて返信しなかった。

 二三日は部屋に篭って過ごした。マリアの家は広いし、親もかってにドアを開けたりしないからそれでよかったけど、四日目になると、コンペーの声がうるさくてYouTubeで猫の動画見てるという言い訳も厳しくなってきた。なのでマリアは家を出ることにした。退屈だし。

 リュックを前に背負い自転車に乗って家を出る。一番熱い時間は避けて出たけど、まだまだ暑い時間だ。

 汗をかきながら自転車を漕いで、コンペーにソーセージをあげて走っていると声をかけられた。

「おーい、マリア」

「なに、ミサ」

 まさかミサに声をかけられるとは思わなくて、マリアは自転車を止めた。一応恋敵だったのでツンケンしておく。

「怪獣産んだって噂本当?」

「うん」

「ガヤヒャハッ」

「かわいいー」

 ミサはリュックから顔を出したコンペーを撫でた。コンペーを褒められたのでマリアは態度を柔らかくした。

「これこの間の怪獣の子?目元とか触覚がそっくりだけど」

「そうだよ。よくわかるね。コンペーっていうの」

「あたし意外に怪獣きらいでもないんだよね。あの怪獣羽が綺麗だったよね」

「でも歯は汚かったんだよモスガーノ」

「モスガーノの歯綺麗だったじゃない」

「私が磨いてやったの」

「ふーん、で、その子どうするの。捨てるの?捨てるならちょうだい」

「捨てねえし。今からビルがいっぱいの街まで行くの」

「自転車で?」

「そっ、んなわけないよ。今から電車に乗るし金がないからバス代は浮かしてんの。こんな田舎で暴れても怪獣的にはおもしろくないかなって思ってさ。このあたりってショッピングモールぐらいしかでかい建物ないしさ、いっぱいビルがある街まで連れて行ってやろうと思って。やっぱこいつも怪獣だしいっぱい壊したいと思うからさ。親心的な?」

「ふうん、おもしろそう。わたしもいく」

「そっ、へんなやつ」

 マリアがそういうとミサはマリアにキスをした。

「は、意味わかんねえ。きも」

「あの怪獣、きれいだったね」

「それで」

「マリア怪獣とキスした?」

「した」

「じゃあわたしも怪獣と間接キッスだね」

「なにそれ」

 ミサはマリアの自転車の後ろに乗った。

 マリアは自転車を漕ぎ始めた。

「重ッ。ミサ、なんでタケルとセックスしたの」

「タケルがマリアとセックスしたから」

「最低だね」

「違うよ。なあマリアは何でタケルとセックスしたの」

「それはー」

 マリアは考えた。タケルとセックスしたのは付き合って数ヶ月もしたら次のステップにいかなきゃだめだろうと、タケルとか友達とか漫画が言ってたから。

「そういえば別にしたくもなかったんだよな」

「へえ」

「でも怪獣をぶん殴ってセックスするのは気持ちよかったよ」

「へえ、わたしも怪獣とセックスしたいな。コンペーとしてもいい?」

「コンペーがしたいっていったらね。レイプはすんなよ」

「はい」

「そろそろかわって。疲れた」

「はい」

 ミサが漕いでる自転車に揺られ、マリアとコンペーは田んぼばかりの景色を眺めた。

「コンペー、街にいこうね」

「ギャアガヤガヤッ」

 コンペーの泣き声は田んぼに響いた。

 田舎の夏休みってつまらないよねセックスしかすることないんだからーと、マリアとミサはぼやいた。






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