エリクサー
カント
本編
彼女は食べられた。僕の目の前で。
彼女は足が不自由だった。いつも「歩いてみたい」と言っていた。だから僕は文献を漁り、複数の死骸と薬品を煮詰め、発酵させて、青い透明な霊薬を造った。
意外にも、厭な臭いは一切無かった。
小瓶に入れた薬を手渡すと、彼女は一息にそれを飲んだ。直後、彼女は咳き込み、何か黒い液体を吐いた。
僕は見た。ベッドの上で黒が瞬く間に膨れ上がる様を。それは彼女の左腕を喰い千切った。次に頭を、最後に全身を。
黒はうねうねと蠢き、やがて人の形を取った。そして彼女の姿となった。ベッドから降り、歩いて、はしゃいだ。僕は思った。
いまの全てを、夢と思える薬が欲しい。
真っ黒な瞳で、彼女が僕を振り向いた。
エリクサー カント @drawingwriting
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